971.~980.
971.
交差点の真ん中にサッカーゴールが出現した。渋滞と人だかりをかきわけて、警察が到着。そこへポーンとサッカーボールが投げ込まれた。自然にサッカーを始める警官たち。見ていた野次馬も参加。運転手も車に乗ったまま参加。人が轢かれてもレッドカードを出す審判は現れないようだ。
972.
藍色の浴衣を着た母の背中が遠ざかる。屋台に吊るされた提灯の朱、鳥居の朱、そして母の帯の朱。結いあげられた黒髪。白い首筋と足首。木の色の下駄の、足音。手首から下げた青空のような水風船。悲しげに溜息をつき、石段を降りていく。御神体の岩の中から母を見送る十度目の夏。
973.
地下水路から惨殺死体が見つかった。ニュースにすらならないほどの凄惨かつ異常な有様で、近隣住民は震え上がる。水路の捜索は続き、次々と見つかる死体。最奥部では白骨が山になっていた。何処からこれほどの死体が?白骨の運び出しが行われているが、一年経っても終わらない。
974.
廃墟の窓ガラスは全て割れていて、吹き込んだ雨と葉に日差しが降り注ぐ。ファストフードで購入したバーガーやポテトはいい匂いだ。部屋の暗がりから視線を感じる。最奥につき、袋を一つだけ残ったイスに置く。急いで廊下に出る。暗闇が濃くなる。数秒で空になった袋が投げつけられる。
975.
放置していた花束が枯れて、茶色く変色してしな垂れている。なんの花だったんだっけ。花びらと一緒に干乾びた小さな人のようなものが落ちた。爪楊枝のような腕を震わせ、数ミリ這う。放していた鸚鵡が飛びかかって飲みこんだ。翌朝、鸚鵡は口からグロリオサを咲かせて死んでいた。
976.
空を見上げたら淡い青空と白い雲の向こうに邪神の巨大な影が薄暗く映っていた。ああ、今日は良い一日になりそうだなと清々しい気持ちで駅までの道を歩いていく。スマホを見ながら歩いてきた男性に思いっきりぶつかられた。イラッとして振り向くと、その人の頭がパンッと弾けて散った。
977.
友人が風呂場で病死した。原因は過労だと家族が主張、騒ぎになっている。葬儀にはマスコミだけでなく、野次馬も押し寄せた。遺影の友人だけが笑顔。母親が金切り声を上げて、上司に掴みかかる。顔の皮膚がバリッと剥がれて、濃緑色の細かい鱗に覆われた肌があらわになった。
978.
廃線にならないのが不思議なぐらい、我が町を通っている電車は人が使わない。私にとっては便利なので通勤に使っているけれど、怖いくらいに人を見ない。飲み会でハメを外し、初めて始発を待つ。運転手がいない。ドアが開くと車内は海水で一杯で、魚やよくわからないものが乗っていた。
979.
近所の農家のおじいさんが、せっせと緑の稲を引っこ抜いている。間引いているのかと思ってよくみると、代わりにビニール傘を挿している。何をしているのか訊くと「空梅雨だったからね、こうして植えておかないと来年困るだろう」汗を拭うと頬に泥がついてしまったが、凄く笑顔だった。
980.
溜め池に死体が浮かんだ。警察が事件事故の両面から捜査を始め、程なくして身元が判明する。数十年前行方不明になった小学生。死体は成人で、死後数日だったが、きょうだいとのDNA鑑定により特定された。それからである。彼の同年代の中学高校の卒業アルバムに彼の写真が出現したのは。




