961.~970.
961.
恋人には婚約者がいた。結婚の報せで職場は祝福ムード一色。耐え切れず、雨の中会社を出る。濡れながら歩いていると三つ揃いのスーツを来た蛙が現れた。「キスしてくれませんか」一秒も悩まず口づけする。その夜恋人が蛙に変異していく様を、オタマジャクシに肉を啜られながら眺めた。
962.
船が難破し、たった一人無人島に流れ着いた。サバイバルの知識などないので、歩き易い所を闇雲に歩き回るうち、地下鉄の入口を見つけた。家の最寄り駅の入り口が、小川の脇に。生ぬるい風と電車の音が吹きあがってくる。手足のひょろ長い猿に似た生き物が出てきて、森に入って行った。
963.
2~3カ月忙しくしていたら、駅のそばのビルが解体されていた。毎日通ってたのに気付かないほど余裕がなかったんだなあ。崩れた壁の奥の暗闇を眺めていると、白い顔が見えた。高さは4階ぐらい。白い顔が増えていく。疲れてるんだよな。面接で落とした若者たちの顔に似てるなんて。
964.
部屋がぼんやりと明るい。真っ暗な部屋に、温かみのある黄緑色の光が灯っている。電灯を点けないままで光に近付く。闇に慣れてきた目に、光る苔が見え始めた。部屋のそこかしこに苔が生えているのだ。心癒される優しい光。ベッドを手探りし、倒れ込む。濡れた何かに包まれる。
965.
「自分を見失ったので、自分探しの旅をしているのです」庭仕事をしていたら、勝手に入ってきた男がまじめな顔でいう。わたしはシャベルを握って身構えつつ、はぁと答える。「貴方も気を付けてください」一方的に言って出て行った。一緒にわたしも出ていってしまった。追いかけないと。
966.
産みの母は私を守ってはくれなかった。自分の不安と恐怖に潰され、私にも押し付けてきた。幼い頃から安心できず誰も信頼できずにこの年齢まで生きてきた。だから初めてなのだ。言葉ではなく感覚で分かる。ヒトの母性と違い私は死ぬが、大地の深くから私を呼ぶのは確かに母の愛なのだ。
967.
「凄いの撮れたwww」友人のSNSにUPされたのはただの真っ黒な写真。間違えたのかと思っていたが、徐々にイイネの数が増えていく。コメントも大量に寄せられ、どれも絶賛の嵐だ。数日後同じような真っ黒の写真がUP。たくさんのイイネとコメ。あ、更新通知。また真っ黒の写真。
968.
UFOを撮影した動画をSNSにUPした直後、友人はアカウントを削除された。一緒にUFOを目撃した別の友人の元には黒スーツの二人組がやってきて口外しないよう言われたらしい。確かに銀色の楕円形の物体に変身してしまう奇病のことは暫く秘密にしておいた方がいいだろう。
969.
PCがおかしくなった。起動する際、歌を要求してくるのだ。歌そのものはなんでもいいが、心をこめて歌わないとやりなおしになる。歌えばその後は普通のPCに戻る。ただ音楽の特番がある日は勝手に起動する。停電中で充電が切れていてもおかまいなし。買い替えたいが、なんか怖い。
970.
夜中チャイムが鳴ったので外を覗くと、木箱が置いてあった。ガタガタ派手に動く。明らかにおかしい。警察に通報するとすぐ来てくれるという。怯えながら木箱を見張る。だが待てど暮らせど警察は来ない。そろそろ夜が明ける。木箱がガタガタ。チャイムが鳴る。見ると木箱が増えていた。




