921.~930.
921.
公園のお気に入りの石のベンチに鰻がとぐろを巻いている。時々ぬるりと動く。座るのを諦めて一度立ち去ったものの、夕暮れに戻ってみると、鰻は小さな蟹に群がられて死にかけていた。みるみるうちに鰻は骨も残さず食べられた。今度は蟹がベンチを占拠している。次は何が来るんだろう。
922.
惑星改造を行う場合、AI搭載型の宇宙船と、脳に爆発物を埋め込んだ囚人を送り込む。地球化が済めば囚人は爆殺処理される。ある時AIが囚人の爆殺を拒否した。その上、星に近付くと攻撃してくる。「この星には平和な社会が築かれています。台無しにされるわけにはいきません」
923.
灰色の小さなものがカラスに突かれていた。カラスに顔を覚えられるのも怖いが、見て見ぬふりもできず追い払う。突かれていたのはビルだった。建造物のビル。高さは10cmぐらい、窓も入口もあるが中はカーテンでよく見えない。連れ帰って窓辺に置いた。たまにカーテンが動く。
924.
寝て起きると、現実が夢と同じになる。今朝見ていたのはスチームパンクな内容で、あらゆるものが鈍色で蒸気で動く。生き物も全部だ。起き上がると自分自身がプスンプスン煩い。愛犬のチワワは石炭を喉に詰まらせて機能停止。蒸気駆動のバスに乗る。心地好い揺れ。睡魔に身をゆだねる。
925.
嫌いだと言っているのに、祖母はいつも餡子のお菓子を買ってくる。特に粒餡が嫌いなのに常に粒餡なのだ。幼い頃は我慢して作り笑顔で食べていたが思春期ごろから露骨に拒否し続けている。亡くなってからも月命日に現れては、餡子好きでしょうと墓土を丸めたものを口に押しつけてくる。
926.
母子の鯨が浜に打ち上げられた。既に息絶えたその骸に海鳥が群がっていたのを、人々は可哀想だと石をぶつけて何羽か殺した。海鳥たちは逃げて行った。日暮れ頃には海鳥どころか全ての鳥が消え、ペットはケージの中で暴れた。日が落ちると、浜辺に鯨に似たものどもが上陸してきた。
927.
灰色の桜が散り始めた。固唾を飲んでその様子を見守る。バサバサと散りゆく灰色の花びらは、根元に降り積もっていく。もごり、と花びらの山が動いた。長が厳かに歩み寄り、中から赤子を抱きあげた。「男児だ」村人達は深く息を吐く。今年も村には男児しか生まれない。赤子が泣きだす。
928.
やっぱりね。こんな素敵な男性が冴えないフルート奏者の私の恋人になるはずないと思ってた。ただしお金を盗られる覚悟はしてたけど、これは想定外。内臓とゲロを混ぜたような化け物の触手の先でハリボテの美青年が微笑む。言い表しようのない、常に歪み続ける何かの前で私は笛を吹く。
929.
村と山の境に生える栗は大きい。鹿も打ち殺すと言われている。ある時、こんにゃく色の何か良く分からない獣のようなものが毬栗まみれで死んでいた。村人が気味悪がってほっておくと一晩でなくなった。その年、獣や鳥が増えたが肉は臭くて喰えたものではなく、こんにゃく色をしていた。
930.
その彫師は理不尽に妻子を失った。悲しみに暮れながら彼は像を彫る事をやめなかった。彼の想いが宿るのか、像には複雑な魅力があり人気を博した。一年後の妻子の命日、彫師は自殺した。それからである。彼の木彫りの像の背が割れた状態で見つかり、家人が一人消えるようになったのは。




