911.~920.
911.
茂みの下から、足が覗いている。張りのある若々しいむっちりとした足。昔流行ったルーズソックスを履いているから、女子高生なのだろう。暫く眺めているとずるっと茂みの奥へ引っ込んだ。次の日同じ茂みの前を通りかかると、ルーズソックスを履いた毛むくじゃらの足があった。
912.
急に花粉症が治った。だが耳から蛙の卵が湧くようになった。干乾びると可哀想なのでバケツに集めているが、凄い量になりつつある。妹は鼻から絹糸が止まらない。鼻水まみれなので捨てている。花粉はなくなったが脳味噌のようなものを撒くようになり、時々鋭い頭痛に苛まれている。
913.
突然嗅覚が敏感になり、匂いが気になるようになった。最初はどれが何の匂いか分からなくて不快だったが次第に識別できるようになった。女性の生理の匂いとか生々しいのは慣れないが、一番落ち着かないのは匂いのない人。そういう人はよく見ると瞼がもう一枚あったり耳の中に鰓がある。
914.
「小鳥さんの巣があるよ!」娘に手を引かれ、庭木を覗き込む。見た事のないカラフルな斑模様の小鳥が真っ黒な巣にうずくまっている。斑模様は不倫相手の気に入りのワンピースの柄、巣の材料は黒髪。「ママにも見せてあげたかったね」娘は徐に手を伸ばして、小鳥の首を捩じり切った。
915.
夏休みにキャンプへ行き、両親と妹が行方不明になった。と、今迄そう思っていたけれど、行方不明になったのは私の方だったのだ。養父母どころか周りのヒトビトと似ていないのは当たり前。それでも愛情をたくさんくれた恩に報いたい。春休みの楽しそうな家族連れのテントに這い寄る。
916.
我が家では鮭を食べない。十年前に死んだ父が鮭に生まれ変わっている可能性があるのだ。釣りが趣味の伯父が北海道で鮭を釣った時、捌いた腹から出てきたのは卵ではなく小さな小さなたくさんの父だった。父は海へ入水する前、来世は魚になりたいと言っていたから、たぶん叶ったのだ。
917.
海で一週間行方不明だった妹が、海底洞窟で発見された。開放骨折という重傷でありながら、空気があったことと強靭な体力とで奇跡の生還を果たしたのだ。だが妹の骨は全て真珠になっていた。柔らかい真珠に。立つこともできなくなった妹は自殺した。全身骨格が博物館に飾られている。
918.
その保育園では子どもが時々いなくなる。最長でも五日ぐらいで戻ってくる。子どもたちは誰一人どこで何をしていたのか話さない。黙って薄汚れたてるてる坊主を親に手渡す。取り乱す親、ぽかんとする親、怒る親と様々だが暫くすると子どもたちは家族でお墓参りに行った話をしてくれる。
919.
異星人が侵略してきた。地球人類は必死で戦い、侵略者たちを追い払うことに成功。しかし捕虜から齎された異星の宗教だけは残った。彼らは元々故郷の星から邪教として追放された一団だったのだ。戦争により変異した大気により赤く輝く空を背景に異星の神が光の速さで舞い降りてくる。
920.
宇宙船の維持管理のため、順番にコールドスリープから目覚める。とはいえ有能なAIが全てやってくれるので人間は起きて自由に過ごせば良い。当番が回ってきて、当惑する。艦内中に植物が繁茂していた。AIに訪ねても人語を発しない。消火装置から栄養たっぷりの水が撒かれ始めた。




