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901.~910.

901.

生まれて初めて家に帰った日は雪が降っていた。寒い曇天だった。今見上げた空は寒い曇天。今日は誕生日だからちょっと違うのだけど。梅の花が終わり、まだ桃が咲かない時期に、葉のない木が白く飾られた日、私は土に埋められた。何度花と雪の季節を見逃したのか。でも今日からは見れる。


902.

「貴方はママの子じゃないの。お雛様の子なの」そういって母は私の首を絞めたり水に沈めたりした。小学校に上がる前に母は施設へ入れられた。ほぼ毎日手紙が届く。お雛様を捨てて、と。ごめんねママ。女雛はパパの部屋へ、男雛が私の部屋に。ごめんねママ、私は産むよ。


903.

うちの猫がライオンに進化してから三日。ついにじゃれついた勢いで夫を噛み殺した。動かなくなった夫を不思議そうに見ている姿は壊れたおもちゃを眺めていた猫の頃に瓜二つ。TVのニュースではあちこちで猫がライオンになり飼い主が殺されているがライオンは一頭も殺されていない。


904.

歌う熊がいるというので見に行った。ああうんまあ音楽に合わせて吠えているね。我が家にはもっと美しく歌ってくれる生き物がいる。一番似ているのはパイプオルガンだろうか。荘厳で繊細な響きに胸が震える。でも歌に聴こえるのは私だけで、この子にとっては悲鳴なのが辛いところ。


905.

新品のクリスタルガラスのワイングラスを堕胎児の肉で育てた烏の血を満たし、自殺死体の血で育んだ黒いバラの花びらを浮かべる。肉親を刺殺したガラスペンで、自らの人皮紙で夢日記を書くと夢が現実になると息子が叫ぶ。そんな面倒くさい。貴方を生贄に神様を呼ぶ方が早いわ。


906.

人類初の有人恒星間宇宙船が長い旅から帰ってくる。通信機器に問題があるのか、電子文書のみが届く。乗組員は元気なようなので、よしとしよう。宇宙船が海に降り立ち、迎えの船に収容される。ニュースはそこまでだった。世界中で通信機器が壊れ始めた。


907.

それはムササビに似ているのですね。モモンガではなく?成程ムササビに詳しいですね。それが毎夜現れて貴方の体の一部分を盗んでいくのですね。抵抗したり声を上げられないのは辛いですね。盗んだものをムササビはどうするんでしょうね。ほう、月へもっていって組み立て直す。成程ね。


908.

バスの窓から住宅街を眺めていたら海草が見えた。ラッコが体に巻き付けているジャイアントケルプ。あれが屋根より高く聳えている。よく見れば青空を行きかうのは鳥ではなくて銀色の魚。私が乗っているのは体を刳り貫かれた鯨。そっと頬に触れると濡れた鰓を引っ掻いてしまった。痛い。


909.

木に巣箱を取りつけたら何か棲みついたらしい。でも覗き込んで逃げられたら悲しいので、そっと隠れて観察。夜、大きな梟が巣箱から顔を出した。怯えた様子で飛び立つ。巣箱目指して這い上がるモノがいる。全裸の母だ。悔しそうに舌打ちしてから梟のようにくるりと首を回して私を見た。


910.

初めて妻の田舎を訪ねた。都会育ちには緑の多い世界はむしろ居心地が良いぐらいで、すぐに親しく接してくれる近所の人々も新鮮で楽しい。虫もあまりいないし。妻に言うとそれは森の神様が食べてくれるからだと言う。梟のような鳥の姿で、前年餓死した人の顔をしているのだという。

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