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431.~440.

431.

魔術師は考えた。凍えるように冷え切った書庫を見回す。静寂…というほどでもない。息使いやくすくす笑い、そして――くしゃみ。何日か後の晴れた日、魔導書たちの悲鳴が轟き渡った。しかし、この冬インフルエンザにかかった人皮装丁の魔導書は一冊も出なかったという。


432.

賑やかになりますよと薦められたのは、人の顔の皮を張り合わせて作ったランプシェード。人間はウジャウジャいるが自衛本能が強いので狩るのは神経を使う、レア素材だ。早速枕元に飾る。時々思い出したように金切り声を上げて楽しい。だが小腹が空いてくるといけない。高価だから我慢。


433.

夜中になると母が叫ぶ。最愛の息子が死んだ時間だ。初めのうちこそ駆け付けて宥めていたが、私を無視して兄を呼び泣き狂う姿に、哀れを通り越して呆れてしまい、ずっと放置している。泣き疲れてそのうち眠る。「傍で慰めてやってよ」「嫌だね」兄の顔をした鸚鵡が止まり木で嗤う。


434.

「起こさないでください。とても幸せな夢を見ているので」部屋の扉にそんなふざけた紙を貼って、妹が引き籠って1カ月。上手く家人の目を避けているようで、トイレに行く姿も見ない。だが我慢の限界だ。扉をこじ開けよう。隙間から磯臭い水が漏れだす。バカ妹め、何をしているんだ。


435.

空からふわりふわりと白いものが舞い落ちてきた。もしかして雪?ささやかな白に人々の間に微笑みが広がる。いくつかが見上げる人の顔に触れる。ギュチュル。濡れたゴムが捩じれるような音がして、触れられた人が服だけになる。どばさどばさ。荒れ狂う雪国の如く白いものが降り注ぐ。


436.

父は大往生だった。寝込むことなく、認知症も殆ど進行することなく、少しずつ生命が薄くなるようにして亡くなった。対して母は葬式の手配も出来ずに泣き叫び、階段から落ちて死んだ。今も凄い落下音が階段から響く。そして父を求めて泣き叫ぶ声。灯油は撒いた。仏壇からマッチを取る。


437.

原因は分からない。けれど、それはそういう病だとみんな諦めている。会社にいくため準備をし、玄関に忘れないよう置いてある鳥籠型のマスクを被る。外気が室内に入らないよう二重の扉を抜けて外へ。途端に私の目玉は二羽のきれいな小鳥になって顔の周りを飛び回り始める。


438.

ろおぉぉん。体を震わすような鐘の音。幼いころから聞こえるこの鐘の音は、近所の鐘つきではない。なにしろアフリカでも変わらないのだ。時刻は必ず日本時間の大晦日。ろおぉぉん。年々音が大きくなって、今や耳を塞ぎたくなるほど。耐えられないので、今年も僕は父と母に電流を流す。


439.

餅のようなものが、もちょりもちょりと居間で蠢いている。そこは昨夜こたつで眠ってしまった夫がいたはずなのだが。寝不足で幻覚でも見ているのか。餅のようなものがもちょ、一瞬動きを止め、次いで大暴れしてこたつに引きずり込まれた。暫くしてこたつから真っ赤な羊が這い出てきた。


440.

年が明けてからリアルな幻覚に悩まされている。職業柄昼夜逆転しているのだが、日付が変わると現れるのだ――ひつじが。真っ白でもふもふで可愛いが、よく見ると目が怖い。口元もせせら笑うみたいに歪んでいる。そして「寝ないの?」と聞いてくる。更に一日ごとに一匹増える。

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