421.~430.
421.
崖から飛びこんだのに、死ななかった。その上、元々海の生き物だったかのように体は馴染んで、今や大海原を自由に泳いでいる。イルカの血を啜りながら仰向けになって晴れた空を見る。すると星が一つがぼちゃんと海に落ちて、ばちゃばちゃ暴れて溺れて沈んでいった。
422.
「引っ張ってください」と書かれた札が、天から下がった赤い紐についている。紐の先はぼやけてよく見えないが、空の中に消えている。そっと握って引っ張る。けっこう重い。思いきり引っ張るとフッと軽くなり、唐突に消えた。翌日、大嫌いな先輩が首を吊って死んだと知らされた。
423.
冬はくしゃみが止まらない。くしゃみし過ぎて肋骨を折ったこともある。一度治まったのだが、再びくしゃみの衝動が沸き上がる。自然と息を吸い込み始めたところへ、真っ黒な子どもが駆けてきて網を広げた。ハックション!「捕まえた」目を開けると立ちつくす自分を網の中から見ていた。
424.
ナメクジに塩をかけると死ぬ、というのは嘘だ。あいつらが歩いた後に残るキラキラしたものが、ナメクジの真の姿なのだ。常にやつらは世界を自らのキラキラで浸食しようと這いまわっている。その証拠にナメクジの陰謀に気づいた俺を殺そうと、部屋中のあらゆるものがキラキラし始めた。
425.
「私を食べて」もう二週間近く、この声に悩まされている。声と同時に肉の焼けるいい匂いが漂うのだ。ジュウジュウと肉汁の煮え立つ音も。頭を抱えていると肘に何かが触れる。「私を食べて」彼女の死体と一緒に焼いたペットの兎が、焼け爛れた皮膚もあらわに僕の腕にすり寄っていた。
426.
帰りの電車で転寝してしまった。気づくと周りに人がいない。一瞬慌てて、気づく。窓の外の真っ赤な空。終電間際だったのに?夜明け?いや違う。天使のような翼と蛸や烏賊みたいな触手を持つ化け物が、街を焼いている。電車はそのままトンネルへ。抜けても、同じ光景が待つのだろうか。
427.
「もうがまんできません じっかにかえります」余白部分にそんな落書きを見つけ、首を傾げていると、文字がぞわぞわ動きだした。思わずぎゃっと叫んで飛びのくと、ノートの頁から文字がもぞもぞ逃げ出して、転がっていたボールペンの先へ次々吸い込まれていき、赤の文字だけが残った。
428.
爪を切っていたら、ちょっと深くやりすぎた。細く血が垂れ落ちる。つーっと流れた赤い血が、糸状になって積み重なり始めた。傷口を抑えても、隙間からつーっと落ち続ける。仕方がないので棒に巻きとった。腕ぐらいの太さになってしまった。いまのところ、貧血とかは特にない。
429.
見てはいけないものを見てしまった。同じクラスの女子生徒。あまり友達はいないが、運動神経抜群で男子からは一目おかれ、女子は近付きがたいが男よりかっこいいなどと言われている。夜の河川敷、彼女は引き千切った半魚人の首を捨て、血塗れの指をすっと唇の前に立てた。
430.
ちりんちりん、と耳に心地よい鈴の音がして窓を開けた。「お晩です、夢売りですよ」すぐ外に帽子を目深にかぶった男がチェシャ猫のようににんまりと笑っていた。「こちらなど如何でしょう」掌に乗るくらいの丸底フラスコには私を捨てた男が火に巻かれていた。「くださいな」「まいど」
う~~む、最近クトゥルフ縛りというより、不快な最後の不思議な話になってきているなあ(笑)




