311.~320.
311.
いとこが初めて独り暮らしをするというので、引っ越しを手伝いに行った。小柄で可愛らしい彼女の独居は心配だったが、頑張よとニコニコ笑った。ほんとに可愛い。「お腹減ったね」ちらっと赤い舌を出す彼女の目線は、備付けのクローゼットの中で鉈を握っている男をじいっと見ている。
312.
金魚鉢の中の時間を止めたような、とても綺麗なペーパーウェイトを貰った。見ているだけで心癒される可愛らしさだ。本物と違って世話もいらないし。…と思ってたけど段々透明なガラスが緑色に濁り始めた。色褪せているわけじゃない。金魚も腹を上に向け、今では水の腐った臭いがする。
313.
お弁当にタコさんウィンナーをいれてほしいとせがまれて、ネットで調べてみた。不器用な私には難しそうだけど…可愛い我が子の初めての遠足なのだ。素敵なお弁当にしなければ。料理上手なお隣さんと食材を取りに出かける。「子どもの手足は細いから、大柄な人間を狙うのよ」流石だ。
314.
朝起きて鏡を見たら、セキセイインコになっていた。びっくりして顔を触ってみるが、元の人間としての大きさのままセキセイインコになっている。そういえば手は人のままだ。わけがわからないままTVをつけるとニュースキャスターはカワセミだった。外に出て家を見上げると鳥籠だった。
315.
眠れなくて羊を数えていた。千匹目から山羊がきた。ねじくれた角を生やし、肉食獣めいた尖った牙の間からでろでろ涎を流す、真っ黒な山羊だ。若干あどけない顔をしている気もするので仔山羊かも。そいつに追われてる。悪夢だ。眠れたわけだが、目覚められないかもしれない。
316.
山で見つけたその植物で染色すると名状しがたい色に染まった。濡れたような黒にも艶めかしい緋にも深すぎる青にも見える。拵えられた着物はすぐ売れた。だが購入者は程なく行方不明になり返品された。今も返品と売却を繰り返す。戻ってくるたびに色彩が増えていくのが嬉しい。
317.
彼女は泣き崩れた。その死があまりにも辛く切なかったからだ。なんで彼が死ぬの。自分を犠牲にしてまで彼は…。コントローラーを握り締めたまま滂沱の涙を流す彼女は段々体が溶け始めた。ゲームキャラの死でここまで…。「ゲームの人間まで脆いなんて理不尽!」何気に重いな、オイ。
318.
ちょっとデザイン重視の靴を履いたら、靴ずれになってしまった。まあ皮がむけたぐらいだから大したことはない。お風呂上りに足を見ると、べろんっと皮がめくれて、炎症っぽい赤い肌が見え―ない。血の気のない灰色でぶにぶにした不気味な感触。皮を剥すともぞりと黒い蟲が顔を出した。
319.
不思議な記憶がある。暗くて暖かい水の中誰かと寄り添っていたという記憶。その話を親にすると不機嫌になって怒られたので次第に口にしなくなった。今温い湯船の中に体を丸めて沈んでいる。そっと目を開くと鱗に覆われた私そっくりの顔があった。そうか、友人たちには鰓がないわけだ。
320.
子どもの頃たった一度だけきれいな花畑や池に行ったことがある…そんな不思議な話をたまに聞く。単に道を間違えてるだけとか、夢だとか冷静に分析しつつも話す人は幸せそうだ。僕は、何度も訪れてしまうおぞましい場所がある。もう二度と行きたくないのに、気付くとそこに立っている。
313.は、人間の手足をそれぞれ二つに裂くと八本足ニナルヨネーって思いついちゃって書いたって言うね…だいじょうぶかな、自分。
317.は友人宅に泊まりで遊びに行って、バイオハザード6クリス編を遊んだためです。それだけです。うわああああああああん。




