第16話 揺れる心
──翌日。
二人は、空へ至る魔法の修練をしていた。
ジンは空中に浮かべるようになったが、安定せずにもたもたと空を飛んでいる。
ふわりと持ち上がったかと思えば、次にはバランスを崩す。
空で踏ん張るように揺れている。
ロイスはと言うと、空へ至る魔法を自在に操り、空を滑るように飛んでいる。
風に溶けるように、音も迷いも無く、まるでそこが地面であるかのように。
着地したロイスにジンはすぐに声をかける。
「ロイス、コツを教えてくれない?どうも上手くいかなくて。」
ロイスは口を尖らせ、人差し指を唇の下に当て、考える。
「んんーとね。こう・・・ひょいーっとして、ぐーん!て感じだよ?」
元気のよい笑顔でジンにコツを教える。
ロイスは魔法を扱うのは得意だが、教えるのがとても下手だった。
ジンは肩を落とす。
「ジンよ、お主はどのようにイメージして飛んでおる?」
静かに見守っていたカサリスが見兼ねてジンにアドバイスをする。
「え・・・と。マギア体ごと空を飛ぶイメージ・・・ですかね?」
「曖昧じゃな。」
カサリスは眉を潜めて答える。
「魔力コントロールをしっかりせい。」
「魔力・・・操作・・・。」
ジンは考え込む。
魔力操作、ひょいーっとして、ぐーん・・・魔力・・・。
確かにマギア体は認識できた。
それだけじゃなく魔力操作も行う・・・。
ロイスは少し不安げな表情をし、ジンを見つめる。
ジンは目を閉じ、魔力操作に集中する。
空を飛ぶ、じゃなくて持ち上げるように操作する・・・。
するとジンの足は静かに地面から離れる。
止まりたい時は、魔力をその場に留める・・・。
ジンは空中でぴたりと止まることができた。
「できた・・・。」
後は飛びたい方向に魔力を操作すれば・・・。
ジンはようやく空へ至る魔法を扱えるようになった。
「確かに・・・ひょいっとして、ぐーんだ。」
ジンは笑いながら空を駆けた。
ロイスは空を飛ぶジンを目で追い、ほっとした表情を浮かべている。
「うむ・・・。」
カサリスは納得したように頷いた。
「ジンよ、戻って来るんじゃ!ロイスもこちらへ来なさい。」
二人はカサリスの前へ集合した。
「次が最終段階じゃ。」
「最終・・・段階。」
ジンは息を呑み、緊張する。
「これからお主らにはこれまでに習ったモノを同時に発動できるようになって貰う・・・!」
ここから数日、二人は修練を行った。
ジンは空へ至る魔法を使いながら魔力行使をしようとすると
空へ至る魔法が疎かになり、落下しそうになったり。
ロイスは感覚でジンにコツを教えたり。
そんな様子をカサリスは静かに見守っていた。
「そろそろかの・・・。」
カサリスは目を一度閉じ、そして開いた。
「お主ら、こっちに来なさい。」
二人はカサリスの声を聞き、カサリスの前に降り立った。
カサリスは二人の顔を見る。
「うむ。ずいぶんと魔法が扱えるようになった・・・。」
そう言うとカサリスは歩き出した。
「ついて来なさい。」
二人はカサリスについて流環の間を出た。
三人は校長室へと戻って来た。
カサリスは椅子を二つ出し、座るように促した。
「さて・・・。」
カサリスは少しの間を空け、続ける。
「ジンよ、教えれることは教えた。残っておるのは身体強化だけじゃが・・・まだお主らには肉体的負荷があるやもしれん。後々、使えるようになれば良い。」
カサリスはそう言うと一つの巻物を手に取り、机に広げた。
「これは世界地図じゃ。なぜ、これを出すか分かるかの?」
ジンは真剣な顔をし、答えた。
「旅立ち・・・ですね。」
カサリスは頷いた。
ロイスは突然の話に驚きの表情を隠しきれなかった。
「そうじゃ。今いるのはここ。ガロス地方じゃ。地図の南側に位置する。この辺りは比較的に魔獣の出現も少なく、安全な地とも言えるじゃろう。深刻なのは北側の方じゃ。魔獣の出現も多く、さらには魔人の存在も確認されておる・・・。」
「魔人・・・。」
カサリスは机に両肘をつき、手の上に顎を乗せる。
「そうじゃ。あ奴らは魔獣と違い、意思を持っておる。それに、属性魔法の概念は無く、強力な魔法を使って来おる厄介な奴らよ。」
カサリスは二人をじっと見据える。
ロイスはかなり不安そうな顔をしてる。
「それに対抗できるよう、今日まで修練を積んで貰った。時間もそう長くはない・・・。」
カサリスの言葉が重くのしかかる。
「そんな・・・危険な所に、行くんですか?」
ロイスの不安がつい、口に出てしまう。
「確かに、ここよりも危険で残酷なことも起こるじゃろう・・・。じゃが、いくのじゃ。」
カサリスの言葉が静かに、冷たく刺さる。
ジンは両手を固く握り、答えを出す。
「・・・行きます。」
ロイスはジンの言葉に驚き、ジンに視線を移す。
彼は真剣な眼差しと、決意した表情をしていた。
ロイスは思わず俯いた。
「よく・・・決心してくれた。」
カサリスは立ち上がり笑顔をくれた。
「二人共、今日は帰って休むとええ。」
二人は頭をさげ、校長室を後にした。
家に帰るまで、ロイスは俯き、無言のままだった。
ジンはそんなロイスを心配はするも、声をかけれなかった。
──深夜、ジンは旅立ちの支度を終え、窓際に座り外を眺めていた。
ふと、ドアの向こうから微かに床が軋む音が聞こえる。
ロイスの足音だ。
どうやらドアの前で、入るべきか迷うように右往左往しているらしい。
ジンはふっと小さく笑い、ドアへ向かう。
静かに扉を開けると、そこには枕を強く抱きかかえて困った顔をしているロイスが立っていた。
ロイスは少し視線をあげ、ジンを見る。
そしてそのまま、ジンの部屋へはいって来た。
ロイスはそのまま真っ直ぐジンのベッドへ腰かける。
ジンもロイスの隣に腰掛ける。
長い沈黙が流れる・・・。
ロイスは枕を抱えたまま静かに話し出す。
「あのね、私・・・。突然のことで、こんなこと決めれなくて・・・。」
ロイスは視線を落としたまま、続ける。
「ジン・・・。本当に行っちゃうんだよね?」
ジンは少し間を空け、静かに、そして力強くロイスの問いに答える。
「うん。その為に僕はこの世界へ渡って来たんだ。ロイスの居るこの世界の為に。」
「私のいる世界の為・・・?」
ロイスは思わずジンに視線を向ける。
ジンは大きく頷いた。
「そっか・・・。ジンは、もう決めてるんだね。」
また少しの沈黙が二人を包む。
「私が・・・。私が行っても良いのかなって、ずっと考えてた。」
ロイスはぎゅと!強く枕を抱きかかえた。
ジンは少し下を向き、目を閉じる。
「ロイス・・・。君は2回も僕を助けてくれた。それだけで、もう十分だよ。」
ロイスはジンに視線を向け、笑顔を作ろうとするが上手く笑顔を作れなかった。
「ずるいよ・・・。そんなの・・・。」
ロイスはさらに強く枕を抱く。
「そんな言い方されたら、私・・・。」
言葉が続かず、視線が落ちる。
「でも、もしロイスが来てくれるなら、僕は嬉しいよ。」
「もう少し・・・考えてもいい?」
ロイスは枕に顔を埋める。
「うん・・・。」
ロイスは枕を抱えたまま目を閉じる。
「やっぱりずるいよ・・・。」
ロイスは静かに呟き、ゆっくりと力を抜き、ジンの方へ傾き体を預ける。
ジンは何も言わず、そのままロイスを受け止める。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
遂に学校編が終わりを迎えようとしております・・・
この先ロイスはどうなってしまうのか!?
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