表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/53

第1話 名の無い絵本と異界の門

部屋の静けさの中、本棚に手を伸ばしたその時だった。


コトッ━━━


一冊の本が指先に触れることなく滑り落ちた。

それは、名の無い絵本だ。

床に落ちたそれを拾い上げる。


少し色褪せた表紙、見覚えがある。


「・・・懐かしいな、この本。」


思わずそう呟き、絵本を開く。

その瞬間──

絵本の文字にノイズが掛かる。


「・・・ん?」


目の霞か、違和感に思わず目を擦り

もう一度絵本へと視線を戻す。

本は・・・何とも無い。


一瞬だけ文字が読めなかった?

いや、違う。

読めない文字に見えた気がした。


「何だったんだ?今の・・・。」


気のせいか、と思いながらページをめくる。

その度、鮮明に小さい頃を思い出す。


「──これはな、この世界に一冊しか無い絵本だ。」


「これは異世界からやって来た聖魔人(ドリュラ)とその仲間達の物語である。


この世界が闇に覆われ、人々の抵抗は届かなかった。


闇に包まれ、支配されようとした時──

そこに現れたのは聖魔人(ドリュラ)と呼ばれる存在だった。


長い戦いの末、闇は退けられ、この国に平和が戻った。」


父親の声はそこで途切れ、静まり返った部屋に

はっ!と我に返る。


「そういえばこの本・・・誰が作ったんだ?」


ジンは不思議に思いながら本を閉じ、その絵本の表紙を少し眺めて本棚に戻そうとした。

その時、コンッ、コンッ、コンッとドアを叩く音が聞こえた。


「ジン?ご飯出来たわよ。」


母親が晩御飯の準備が出来た事を教えに来てくれたのだ。


「はーい、今行く。」


そう、返事を返して絵本を本棚にしっかりと戻す。

一瞬だけ手が止まったが、気にすることなく部屋を後にした。


リビングに入ると、暖かい匂いが広がっていた。

テーブルには既に料理が並べられている。

席に着くと、母がどこか優しげに微笑んだ。


「いただきます。」


「いただきます。」


しばらく穏やかな時間が過ぎる。


食事をしながら、ふと思い出したかのように母親が口を開いた。


「そう言えばジン、明日は誕生日でしょ?」


「・・・うん、そうだね。」


「今日はあんまり夜更かししちゃダメよ?」


「分かってるよ。」


少し笑いながら答える。

晩御飯を食べ終わり、自分の部屋に帰ってきて

そのまま仰向けにベッドへと倒れ込んだ。


そっか、明日で十五になるんだな・・・

そんなことを考えていたら急に睡魔に襲われた。


なんか、急に眠くなってきた・・・。

ジンはそのまま眠りに付いた。



「・・・ン、ジ・・・ン、ジン」


───夢の中、白い影が名前を呼ぶ。


「誰だ?」


ジンは白い影に手を伸ばす・・・。

手が白い影に触れた時、ジンは目を覚ました。


「はぁっ!はぁっ!」


呼吸は荒く、鼓動が鐘の様に早くなり、油汗をかいていた。

ジンは息を整えながらふと、時計に目をやると時刻は11時30分だった。


「まだ、こんな時間か・・・」


ジンは額に腕を当て、ゆっくりと深呼吸をした。

呼吸も鼓動も落ち着いてきた頃、体勢を横に変えて、もう一度寝ようと試みた。

しかし、胸の奥が嫌に締め付けられる。


「散歩でもするか・・・。」


ジンは気づけば玄関へ向かっていた。

靴を履き、玄関から出ると、ジンは行く宛ても決めず、気づけば歩いていた。


絵本、読めなかった文字、夢・・・


そのことを考えると、頭の中がざわつく。


「ああ!考えても分っかんね!」


ジンはそう漏らしながら空を仰いだ。

満点の星、なんだかいつもより明るく輝いて見えた。

不思議に思ったジンは辺りを見回した。


時計台のある中央広場まで歩いて来てることに気づく。


「なんだ、こんな所まで来てしまってたんだ。」


ふと、周囲の異変に気づく。


「この時間だといつもはもっと家に電気が付いてるのに・・・。」


そう、街中の電気が全て消えていた。


ゴォォン!ゴォォン!


時計台が深夜零時の時刻を伝えると同時に足元が

光出した。


「な、なんだ?」


光はやがて魔法陣を描き、音をたてながら地面から扉が出現する。


ゴゴゴゴゴゴ!


ジンの身長をゆうに越して、そして分厚い鉄の扉。

その傍らには扉と同じぐらいの高さの仮面を被った

何かが存在していた。


呆気にとられている暇も無かった。


仮面の存在が、静かに口を開いた。


「──その扉の先は、君の知る世界ではない。」

「いや、良く知っている世界だ。」


何重もの声が低く響く。


「・・・何なんだよ、これ。」


ジンは一歩後ずさる。


「幻界へと繋がる門だ。」


「幻、界?」


現実味がない。

だが、目の前の光景がそれを否定させない。


「今、その世界は滅びに向かっている。」


「・・・え?」


「闇に呑まれ、やがて全てが消える。」


心臓がドクンと鳴る。


「・・・なんで僕にそんな話をするんだ?」


仮面の奥から、鋭い視線を感じる。


「君だからだ。」


「意味わかんないよ!」


苛立ち混じりに吐き捨てる。


だが──


「本当に、そう思うか?」


「・・・っ」


その一言で、胸の奥がざわつく。

思い出す。


読めなかった文字。

夢の中の声。

なぜか感じていた違和感。


「君は普通ではない。」


「・・・。」


何故か否定できない自分がいる。


「この門をくぐれば、もう元の日常には戻れぬかもしれん。」


「そんな・・・。」


静寂が訪れる。


逃げる理由は、いくらでもある。


「だが──」


仮面を被った存在が続ける。


「行かねば、あの世界は確実に滅びる。」


その言葉が、ジンの心に重くのしかかる。


ジンは俯く。


そして、小さく笑った。


「なんだよ、それ・・・。」


顔を上げる。


「選べ、ということ?」


返事はない。


だが、それが答えだった。


「・・・はぁ。」


深く息を吐く。


「訳がわかんないけど・・・。」


一歩、扉に近づく。


「このまま何も知らないままの方が、気持ち悪い。」


光が強くなる。


「・・・行くよ。」


仮面を被った存在に視線を移した。

その瞬間──


扉が轟音と共に開いた。


ゴゴゴゴゴゴ……


「──来い。」


ジンは迷わず踏み出した。


父さん、母さんごめん・・・。

僕、行ってくるよ。


眩い光がジンを包み込む──


この先に降りかかる、理不尽な運命に立ち向かうことになることなど、ジンは知る由も無かった。


最後まで読んで頂きありがとうございます✨️

異界の門から始まる異世界ファンタジー

少しでも続きが気になって頂けた方

ブックマークと評価、感想やレビューを

よろしくお願いします!

励みになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
流れがキャッチ―・w・v 追わせていただきますう
Xでのフォローを期に伺いました。 名の無い絵本が落ちる静かな始まりから、一気に異界への扉が開いていく流れがとても印象的に感じます。 懐かしさの中に不穏な違和感が混ざっていて、主人公がこれからどんな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ