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第14話 スノーパードと涙とミルク煮(後編)

「さて、と」



 食事が終わり、四人と一羽で店を出て、

 ほんの少しだけ歩き、広場のベンチへと腰をおろす。



「君の名前を、聞いてもいいかな?」


 眠ってしまっているレアムを、ギルに預け、

 クロードが少年へと問いかける。



「……レン……です……」

「レンか、いい名前だね」


 ベンチに座るレンの前にしゃがみこみ、クロードはレンの手を取りながら、声をかける。


「レンはいま、自分がいくつかは分かるかい?」


 その問いかけに、レンの眉が少しだけ下がる。


「家を追い出されてから、冬は2回きた………」



 そうつぶいたレンに、「そっか」とクロードが彼の手を撫でる。



「レンは、文字とかはわかるかい?」


 クロードの問いかけに、レンがふるふる、と首を横に振る。


「なるほど。ねぇ、レン」

「……?」



 レンの手を、両手で軽く包みながら、クロードが少しだけ目を細める。



「おじさんが視たところだと、レンと……もしかしたら、レアムにも魔法の属性があるかもしれない」

「……魔法?」

「うん。もし、レンがイヤじゃなければ、魔法を使う人たちがいる場所で、暮らしながら、魔法を習うのは、どうかな?」

「え」

「もちろん、レアムも一緒に。お腹いっぱい食べれて、ベッドは……ちょっと硬いかもしれないけど、ちゃんと部屋で眠れる」


 クロードのその提案に、レンは、目をまんまるに見開きながら、クロードとギルを交互に見つめる。


 クロードの言葉は想定済みだったギルが、

 がしがし、とレンの頭をほんの少しだけ強めに撫でながら、「レン、お前、すげぇな」と明るい声で笑う。


「クロードがこう言うなら、魔法、習ったほうが良いぞ」

「……でも……」

「おじさんね、実は魔法のお仕事なら、伝手があるんだよ」


 おじさん、と自分を言い表す度に、ギルが何かを言いたそうにしているのを、ひたすら無視したまま、クロードは続ける。




「きっと、君は、良い魔法使いになれるよ」



 ふふ、と楽しげに笑ったクロードに、

 レンは瞬きを繰返したあと、

 目尻に涙を溜めたまま、

 満面の笑みで、力いっぱい頷いた。






 紹介状を書き、元部下たちの魔法師団への連絡をすれば、元部下たちは、本当にすぐに迎えを手配してくれた。


 どうやら、知らないうちにこの辺りにも出張所のようなものがあったらしい。


 ―― ちゃんと成長してるなぁ……



 ――入団してきた当時は、あんなにも懐かない猫みたいにツンツンしていた子が、いまは上層部に近い場所にいるだなんて



 元部下たちの成長にほんの少しだけ寂しさを覚えつつ、熱烈に連絡を欲しがっていた彼等を思わず避けてしまった事実に、ほんの少しの罪悪感を抱く。


「まぁ、その代わり」


 あの子たちを任せられるのは君たちだけだからね、と伝えた言葉に、嘘は無い。

 きっと、二人の可能性を引き出してくれるに違いない。


 そうふんで、迎えに現れた魔法師団員の彼らを信頼できると判断したクロードは、レンとレアムを預け、戻ってくると、時刻はもう夕刻へと着実に近づいていた。





「……また惚れられてたぞ」

「誰にだい?」

「いろいろ」



 なぜか、さっきまで楽しそうにしていたのに、

 ほんの少しだけ不機嫌になっているギルに、

 クロードは首を傾げる。


 ―― 分かっていないな、コレは。



 そんなクロードの様子にギルは笑う。



「あ! そうだ」


 ふと、クロードが珍しくほんの少しだけ慌てた様子で、カードケースへと手をのばす。



「カードか?」

「うん。さっきから、早く! って急かされててね」

「誰に?」

「誰だろうね?」


 ふふ、とカードを取り出して笑うクロードに、ギルは小さく息を吐く。



「ギル」


 始まったよ、とギルにも見えるように、ふたりで道の端に寄りながら、カードを覗き込む。



 一枚の真っ白な上質なカードの

 白い面に、細い線が浮かび上がる。


 どこからともなく。


 クロードは、驚かない。

 ギルはきちんと見るのは初めてのはずだけれ

 ど、驚いたような素振りもない。


 早送りのような速さで、

 線が増えていく。


 大きめの野菜。

 肉。

 とろりとしたスープ。


 それから、


 立ちのぼる湯気。


 まるで見えない手が、

 描いているかのように、絵は完成していく。


 シャッ、と最後の一筆が終わったのを確認し、

 裏返すと、まっさらだった面は、

 深い紺色へ変わっている。


 カードの中央に、

 小さな光点が、ひとつ灯る。


「届いたみたいだ」

「……そうかよ」


 ちらり、とほんの一瞬だけ上を見上げたあと、ふっ、とギルが笑う。



 その表情に、クロードはほっと安堵の息をはく。





「ところで、この方々、腹ペコだったのか?」


 とん、とカードを指の背で軽く叩きながら、ギルがちらりと空を見やる。


「うーん、どうだろう?」

「ピュイー……?」


 そんなギルの問いかけに、クレイスとクロードと同じタイミング、同じ角度で首を傾げる。


「ははっ、わかんねぇか! そりゃそっか!」


 その様子に、瞬きを数回繰り返したあと、本当に軽く、クロードの肩をぱしぱし、とたたきながら、ギルは笑う。




 そんな様子に、ピュイー?、とクレイスが不思議そうに鳴いた。












お読みいただきありがとうございます。

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