第十七話:明かされた秘密と、共犯者の誓い
「…………だめ……? (ごまかせ……ない……??)」
部屋の入口から半分だけ顔を出し、上目遣いで懇願するように呟くK――その姿はKだが、醸し出す雰囲気は完全にパニック状態の少女のものだった。
東雲翔真は、目の前で繰り広げられた常識外れの現象と、あまりにも分かりやすい「K」の動揺っぷりに、数秒間、完全に思考が停止していた。
床には割れた花瓶。ソファには先ほどまでKが(そして黒髪の少女が)着ていたはずのドレス。そして、入口には、明らかに何かを隠そうと必死なK。
(……ダメに決まってるだろう……しかし、この状況、一体どうすれば…)
心の内でそうツッコミを入れたが、声には出なかった。あまりの出来事に、適切な言葉が見つからない。
「あ、あの…その…今の…は、その…なんていうか…き、気のせい…とか…?」
K(暦)は、さらに声を震わせ、明らかに無理のある言い訳を試みる。しかし、その顔は真っ赤で、視線は必死に東雲から逸らされ、床の一点を虚しく見つめている。
東雲は、深く、長いため息をついた。そして、ゆっくりと口を開く。
「…いや…君は、一体…?」
その声は、怒りでもなく、詰問でもなく、ただ純粋な困惑と、そして目の前の存在に対する底知れない興味を含んでいた。
東雲のその落ち着いた(ように聞こえる)声に、暦は、びくりと肩を震わせた。
(あー…もう、ダメだ…これは、さすがに、ごまかせない…)
一瞬、絶望的な表情を浮かべた暦だったが、次の瞬間。
彼女は、ぐっと唇を噛み締め、まるで自分に言い聞かせるように、顔を上げた。その瞳には、まだ恐怖の色が残っていたが、それ以上に「ここで崩れるわけにはいかない」という、強い意志の光が灯っていた。
先ほどまでの狼狽ぶりを無理やり抑え込み、彼女は、震える声をなんとかコントロールしながら、しかし凛とした声色で言った。
「――東雲さん。ご覧の通り、です。これが、私、Kの、本当の姿、いえ、ほんの一部です」
その言葉は、虚勢ではなく、覚悟だった。声は微かに震えていたが、背筋はまっすぐに伸びている。
東雲は、目の前の少女の、その健気なまでの強さに、言葉を失った。彼女がどれほどの恐怖と不安を押し殺し、今この言葉を口にしているのか、痛いほど伝わってくる。
暦は、そんな東雲の表情の変化には気づかないフリをして(あるいは、気づかないように必死で)、言葉を続けた。
「驚かせてしまい、申し訳ありません。ですが、これが私です。この…ことは、絶対に、誰にも知られるわけにはいきません。もし、これが公になれば…私の日常も、Kとしての活動も、全てが終わってしまいます」
そこまで言うと、暦の大きな瞳から、堪えきれなかった涙が一筋、頬を伝った。しかし、彼女は決して泣き崩れることなく、その涙を手の甲で乱暴に拭うと、さらに続けた。
「契約は…どうなりますか? やはり、私のような者は…受け入れてもらえませんか…? それと…私、…13歳です…」
最後に付け加えられた衝撃の事実に、東雲は今度こそ絶句した。
13歳…? この圧倒的な才能と、大人びた交渉力を持つKが、まだそんな幼い少女だというのか…?
秘密の力だけでも常識外れなのに、その年齢までもが、彼の予想を遥かに超えていた。
東雲は、しばし言葉を失い、目の前の少女を見つめていた。
月島暦。13歳。そして、魔法のような力を持つ、K。
あまりにも多くの情報が一気に押し寄せ、彼の頭脳はフル回転を強いられていた。
しかし、それと同時に、彼のプロデューサーとしての本能が、この状況の中に、とてつもない可能性を感じ取っていた。
この少女の秘密を守り抜き、その才能を正しく導くことができたなら…それは、前人未到の、歴史に残るプロジェクトになるかもしれない。
「…暦さん」
東雲は、ようやく絞り出した声で、彼女の名前を呼んだ。
「まず、落ち着いてください。契約を破棄するつもりは毛頭ありません。君のその告白と勇気に、私は心から敬意を表します」
その言葉には、嘘偽りのない誠実さが込められていた。
「13歳であること、そしてその『力』のこと…確かに衝撃的です。しかし、それが君の才能を何ら貶めるものではない。むしろ、君という存在の深さを、改めて認識させられました」
東雲の言葉は、暦の強張っていた心を、少しずつ解きほぐしていくようだった。
「あなたの秘密は、私、東雲翔真が、キララチューブの全てを賭けて守り抜きます。そして、Kとしての活動も、月島暦としての生活も、あなたが望む形で両立できるよう、あらゆるサポートを惜しまないことをお誓い申し上げます」
その力強い宣言に、暦の瞳から、安堵の涙が再び溢れ出した。しかし、彼女はやはり、自分の足でしっかりと立っていた。
「……これからも…よろしく、お願いします……。だめ…ですか…?」
その問いかけには、先ほどよりも確かな信頼の色が浮かんでいた。
「もちろんです、暦さん」
東雲は、心からの笑みを浮かべた。そして、彼は思考を巡らせる。
この少女の秘密を守りつつ、彼女の才能を最大限に活かし、そして何よりも、彼女の日常と未来を守るためには、どうすればいいのか。
報酬の受け取り方、税務処理、そして何よりも、彼女の親権者である養父母への対応。13歳という年齢を考えれば、保護者の理解と協力は不可欠だ。しかし、この「力」のことまで打ち明けるわけにはいかないだろう。
(…何か、公的にも説明がつき、かつ彼女の才能を正当に評価できるような…そんな「カバーストーリー」が必要だ…)
東雲の頭脳が、猛烈な勢いで解決策を探し始める。
そして、ふと、彼の脳裏に、以前Kとの最初の面談で彼女が「自分の中にあるものを、記録しておきたかっただけ」と語っていたこと、そしてKのMVやアートワークで時折見られる、独創的で、どこか幻想的な「絵」のイメージが蘇った。あれらは、彼女自身が手掛けているのだろうか? もしそうだとしたら…。
「暦さん。一つ、お聞きしてもよろしいですか?」
「…はい、なんでしょうか?」
「Kの…その、ビジュアルコンセプトや、時折見られるイラストのようなものは、もしかして、暦さんご自身が…?」
暦は、少し驚いたように、しかし小さく頷いた。
「はい…あの…絵を描くのは、昔から好きで…Kのイメージも、自分で描いたりしています…」
その言葉に、東雲の目に、確かな光明が差した。
これだ! これならいけるかもしれない!
「暦さん、あなたの絵を…もしよろしければ、いつか見せていただくことは可能でしょうか? あなたのその素晴らしい感性は、音楽だけでなく、きっと絵画の世界でも多くの人を魅了するはずです。そして、それが…今後の私たちの活動にとって、非常に重要な鍵になるかもしれません」
彼の声には、新たな発見への期待と、そしてこの困難な状況を打破するための、確かな手応えが込められていた。
破られた仮面。明かされた秘密。そして、13歳という衝撃の事実。
しかし、その絶望的な状況の中から、東雲翔真という「共犯者」は、一つの確かな希望の糸口を見つけ出そうとしていた。
それは、月島暦の、まだ彼自身も全貌は知らないが、一つの才能――「絵」の才能だった。
はいどーもー! 〜かぐや〜です!
いやー! 今度こそ、本当に、本当に、理想の暦ちゃんが描けた気がするよー!
涙をこらえながらも、自分の足で立とうとする暦ちゃんの健気な強さ! そして、13歳という衝撃の告白!
東雲さんも、もう頭の中ぐっちゃぐちゃだよね!?
でも、そんな中で「絵の才能」っていう新しい光を見つけ出すなんて、さすが我らが敏腕プロデューサー!
この「絵」が、今後の展開の超重要アイテムになること間違いなし!
一体どんな絵なんだろう? そして、それがどうやって二人の「共犯関係」を、そしてKの未来を切り開いていくのか…!?
もう、ワクワクが止まらなくて、夜しか眠れないよー!(え?普通?)
みんなも、この二人の運命の岐路、しっかりとその目で見届けてね!
それじゃ、また次回! きっと、もっともっと面白いことが起こるはずだから、お楽しみに! ばいばーい!




