第拾弐話 折れた聖剣伝説、魔獣の巣窟攻略
―――翌日 セーフティーエリア スファーレ
「そういえば、あの時のとんでもないチカラはどうしたのよ?」
大通りの真ん中で、隣を歩くメリーに問うアリアは昨日の決闘を思い浮かべながら言う。
訊かれたメリーは首を傾げて言った。
「今は無いよ。というか、あのチカラがなんだったのか、私でもわからないからね」
昨日、目覚めた時に溢れていたチカラを一切感じられなかった。それはあのチカラの奔流が何処かで押さえられたからなのだろう。ただでさえバランスブレイカーのようなステータスを持っているメリーに、チカラが溢れる感覚を覚えさせたのだ。それは物凄く、それこそチートよりもチートらしいステータスになっていたのだろう。だが、可笑しなことにそれに対しての運営からのお達しは無く、アカウントもBANされていないのだ。
「ふーん……でも、私が感じたのは一つだけ。懐かしいと、それだけ感じたのよ。おかしいと思わない?幾らこっ、恋人になったからって、そこまで昔の事を知ってるわけじゃないのに」
表情を二転三転させつつ感じた違和感について語るアリアを不覚にも、メリーは愛しいと思ってしまった。
やはり「懐かしい」という感覚に違和感を感じるメリー達だったが、メリーは前から襲った衝撃に驚き、少しバランスを崩した。
「な、なんなの一体!?」
目を白黒させ、メリーに衝突してきた人物を見つめる。同じく、自分に衝突した人物を不思議そうに見つめた。
「君の名前は?」
顔を上げ、此方を見つめてきた少年に、そう、自然に訊いていた。メリー自身でも驚くほど無意識に。
「アーサー」
少年は短く答えた。何故少年に名前を訊いたのかすらわからないのにも関わらず、この子は嘘を吐かないと思い込んでいることに困惑した。
「君は何処か、向かっていたのかな?」
何処かに向かっていた、それは確かにわかる。それもかなり急いで。
「あっ、そうだった!お母さんの病気に効くお薬を買ってこなくちゃいけないんだ!」
慌ててメリーから離れると、大通りをそれなりのスピードで駆け抜けていった。その背中を見届け、人込みに紛れていく。と、視界中央にシステムメニューが表示された。
――――――――……
※このクエストは現在は受注できません。
クエスト名:謎多き少年
達成報酬;折れた聖剣伝説の石板
成功条件:アーサーを母親の所まで送り届ける
クエスト難易度:X
――――――――……
その内容、そしてクエスト難易度に唯々驚愕するだけのメリーとそのシステムメニューが見えずに首を傾げるアリア。その見た目麗しい二人はもちろんの事注目されていた。それも突然立ち止まり、目を丸くするメリーのせいで視線は増え続けている。
「アーサー……か」
「これ、原典はアーサー王伝説よね。確実に」
可視化したシステムメニューに表示された文字を読み、少年の名前に引っかかる所を覚え、呟くとそれに反応したアリアは有名な伝説の一つの名を言った。
アーサー王伝説。あの有名な聖剣であるエクスカリバーと円卓の騎士たちを従えたイギリスの英雄を描いた伝説。ブリテンの王であり、全ヨーロッパの王になるまでの話だ。だが、
「折れた聖剣って、どういうことなんだろうな」
アーサー王の持つ剣と言えば、選定の剣であるカリバーンと、湖の乙女から授けられたエクスカリバーしかないのだが、その内の一本が折れたとあっては伝説自体にヒビが入ったと言っていいだろう。何故ならどちらもアーサー王を語る上で最も重要なピースであるのだ。物凄く気になるが、今はまだ受注できないらしく、断念せざるを得ない。
「今はまだ受けられないし、攻略を先に進めちゃったら?」
アリアの提案はメリーも考えていたことだ。確かに受注できないなら放置でいいかもしれない。
「そうだな、そんじゃ早速行くか。魔獣の巣窟に」
「おぉー!」
アリアは可愛く拳を天に掲げた。可愛い。
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―――フィールドエリア 魔獣の巣窟
様々な生物の鳴き声があちらこちらで上がり、草木の青臭い臭いが鼻腔を擽る。正に大自然を感じる。メリーはニコニコとしながら【ゲオルグ・ソーン】で草を薙ぎ進み、アリアはそんなメリーを不思議そうに見ながら進む。
偶に草むらから姿を現すゴブリンは無造作に振られている【ゲオルグ・ソーン】の錆びになっている。そしてある程度進んだ所で――。
「グォォォ」
木々の隙間から現れたのは巨大な豚。三メートル程の巨体から悪臭が漂い、口からは涎を垂らす。その手に持つ手斧は長年拭われていなかったのか、刃に付着した血が黒ずんでいる。そいつはまるでファンタジーの女の敵である、オークのようだ。
ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべるその醜悪な顔の頭上にネームが表示された。
「『オーク』、俺がこのエリアに居た時にはまだいなかったモンスターだな」
【ゲオルグ・ソーン】を構え、袈裟切りを繰り出す。そして剣技を繋げるようにして剣技《デュアル・スラッシュ》を放ち、切り捨てた。『オーク』は雄叫びを上げて倒れた。大体のゲームでは『オーク』からドロップするのは大抵肉だと決まっている。
なので期待を胸に『オーク』のドロップを確認し、肩を落とした。
ドロップしたのは血に濡れた手斧と『オーク』の片耳だけであった。しょげているメリーにアリアは柔らかな笑みを浮かべてメリーの頭を撫でた。
「……すまん。期待してた物が落ちなかったから肩を落としていただけだ、特になにかあるとか、そういうのではないから」
口ではそう言いながらも内心少し嬉しく思いながら、この幸せを噛みしめるのだった。フィールドエリアのど真ん中で。
久々の投稿で御座います。見納め下さい




