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第玖話 元最強の誇り、絶剣の妙技


「は?」


 そう声を上げてしまった。威圧感を放つ男に巳弥が此方の世界で放つことの出来る程度の殺気を叩き付け、双方一歩も譲らないという空気だ。そしてその空気を打ち破ったのは我らが姫様、佳奈であった。


「ちょ、ちょっと待って!慎二、どうして貴方が此処にいるの!皐月は一体何をして――」

「ご、ごめんなさいお姉ちゃん」


 慎二と呼ばれた男の背後からおずおずと少女が顔を出した。そして皐月という少女はこの二人と違う。そう、明らかに正反対なのだ。銀髪の姉弟と金髪の妹。何処からどう見ても姉弟には見えない。金髪を二つの三つ編みにし、腰あたりまで伸ばしている。逆に、そこまでどう髪を伸ばせばいいのか聞きたいくらいである。


「わ、私がいけないの…。お姉様が彼氏の所に行くって口を滑らせたから……」


 涙目、そして上目遣いで言われるとこうも可愛さが上がるのかと巳弥は絶句した。と、突然隣に座る佳奈が背中を抓る。痛い。


「お前!ねぇちゃんに釣り合うかどうか、俺が見定めてやる!ねぇちゃんの彼氏ってことはお前も【セイヴァー・ルージュ】はやってるんだろ?決闘だ!場所は勿論全都市最大のコロシアムだ!」


 そう言い残すと慎二は物語の三下のように病室から去って行った。妹の方――皐月はペコリと一礼して、きちんと病室のドアを閉めて出て行った。


「礼儀のなってる娘だったなぁ……」


 遠い目をして言うと。更に背中を思い切り抓られた。痛いって。


「本当に、よかったの?」


 背中を抓っていた手を降し、そう、心配そうに見つめる佳奈。そう、この彼女の笑顔を守るためにはなんだってやるのだ。巳弥はニコリと笑みを作り、大丈夫と言う。


「俺は強いから」


 彼女はフフと微笑み、巳弥は先程脱いだばかりのヘッドギアを被り残りの三十七分を待った。


 ✝ ✞ ✝ ✞ ✝ ✞


 ―――セーフティーエリア コロシアム内


 三十七分のクールタイムを終え、ログインした巳弥は受付へと向かった。そこには仁王立ちする先程見たばかりの慎二の姿と、その隣に立つ純白のシスター服に身を包んだ金髪の〈聖女〉と呼ばれそうな姿をした皐月と思われる人物を視界に入れた。

 巳弥は、『Marylean』は彼らに近付く。あと数十歩の所で慎二が目聡く『Marylean』の姿を捉えた。そして堂々とした立場で此方に向かってくると、紳士のような態度で一礼をした。


「こんにちは、マドモアゼル。よかったら私と――」


 その言葉が終わらない内に抜刀した【ゲオルグ・ソーン】は慎二のアバターの首筋を掠め、少しでも動かせば首を貫ける首筋で止まった。


「愚かな愚かな義弟。お前が先に決闘を申し込んできたのでしょう?だったら相手の顔も、覚えてなくって?」


 邪悪な笑みを浮かべた『Marylean』に慎二は圧倒された。自分が無意識の内に動いていない理由を、生命体の本能が「動くな」と命令していることも知らずに。

 先程万が一の時に使うと思い、確保していた一枚の決闘用紙。そこに片手で慎二のプレイヤーネームと自分の『Marylean』というネームを入力し、受付に飛ばす。ヒラヒラと舞う用紙を受付のお兄さんが受け取り、転移の光が『Marylean』達を襲った。


「さぁ、始めるぞ義弟。覚悟は十分か?」


 狂気の宿った瞳で射貫かれた慎二はもう既に戦意消失状態であったが、そんなことは関係ないとばかりに転移で飛ばされた。


 ✝ ✞ ✝ ✞ ✝ ✞


―――フィールドエリア ファーヴフロスト


 吹雪が吹き荒れ、雪が積もるフィールドに『Marylean』と慎二は立っていた。互いに抜刀し、楽な体勢で立ち、相手の出方を窺う。そして吹雪が強く吹雪き、二つの閃光が煌めき、激突した。

 慎二の顔から既に恐怖は消えており、先程の怯えようは嘘のようだ。剣を振り、首を狩る為だけに動く。その動きは洗練されており、レベルが低く小手先だけの技術にばかり頼っていた昔の自分を連想させる。

 その一閃を【ゲオルグ・ソーン】で受け流し、剣技スラッシュを発動させた。剣先が放物線を描き、慎二の肩を浅く斬り付ける。それと同時に慎二の見せた微かな挙動で見極める。

 慎二はぬらりとした動きで身体を右に傾けると、地面を蹴り、右下から斬り上げるようにして斬撃を放った。その自然過ぎる動きは剣技。それもその独特の動きから絶剣士の中堅剣技ストッシャーということを読み取り、剣技スラッシュの剣技後硬直の位置を、身体を少し傾けることで調節し、ガードする。

 痺れが腕に伝わった頃に、剣技後硬直が解除された。だが、まだ剣技ストッシャーは終わっていない。『Marylean』の膨大な記憶の中から取り出した情報には『三連撃技』とあった。それを呼び起こし、剣技デュアル・スラッシュを発動させる。

 当たり前のように剣技後硬直とは全てが同じ時間ではない。強力な剣技であればあるほど、その剣技後硬直に掛かる時間は極端に長くなるのだ。絶剣士とは初級職、中級職、上級職、最高職、そして伝説職、神話職がある中の上級職に分類され、それの中堅剣技といえば剣技後硬直は二秒まで至るらしい。だが剣技後硬直が無い剣技もある。否、剣技に分類されるほど弱くはない、何故ならそれはスキル剣技に分類されるものだからだ。話を戻そう。つまりは剣技ストッシャーは最低でも二秒の剣技後硬直があるということになる。そして戦いの中での二秒は非常に大きいのだ。

 剣技デュアル・スラッシュを放った要因としてはそこが挙げられる。剣技デュアル・スラッシュは初級職である剣士の中堅剣技に分類され、硬直は僅か0.002秒なのだ。そしてその剣技デュアル・スラッシュを放ち、その斬撃全てを剣技ストッシャーの放たれる軌道の座標に振り、無力化するしかない。だがそんなことは理論的に不可能であると証明されている。それでも、『Marylean』はそれを為し遂げようとしている。何故なら彼にはその放たれる軌道の座標を全て予測できる点にあるのだ。『Marylean』は一度、全てのスキル、及び剣技を習得した経験がある、そして相手の心境、性格、その癖に至るまでの全てを掌握し、己が物と出来る先天的な技術を持っている。だからこそ、彼、『Marylean』の異常さ、そして天才的なセンスが『Marylean』、抄神宮巳弥という人物を支えているのだ。

 剣技デュアル・スラッシュが二撃三撃目と潰し、慎二を剣技後硬直まで持って行った。それと同時に『Marylean』自身も剣技後硬直に入る。だが、それはプレイヤーの行動だけであって――


「穿て《ソーン・ピアス》」


 ――武器スキルは封じられていないのだ。紫の光が刀身に灯り、慎二を穿つ閃光が空間を駆け抜ける。だがしかし、それは相手も同じだ。


「防げ《絶景障月》」


 背中に装着されている薄いガ〇ダムのようなバックパックからマントが射出され、風に靡き、光り輝く。そのエフェクトと共に空に紅い月が昇り、月光が収束され、紫の閃光と慎二の僅か数センチの距離に月光が届く。降り注いだ月光が閃光を防ぎ、『Marylean』の剣技デュアル・スラッシュの硬直が終わり、もう一度剣技デュアル・スラッシュが発動する。この剣技にかかる時間はぴったり一秒。そしてその硬直も合わせると、剣技ストッシャーの硬直時間である二秒に収まるのだ。

神速で振るわれた二連撃は武具スキル《絶景障月》の絶対の防御を掻い潜り、慎二の左腕を切り落とした。そして訪れる硬直に身体の自由を奪われ――


極剣技シュナイド・ストレ


慎二の発動した剣技に目を見開いた。

絶剣士上位剣技、極剣技シュナイド・ストレ。『九連撃』の極剣技。単純に袈裟切りにするだけの剣技だが、それ故に強力な剣技なのだ。発動する予兆がランダムであり、見極めるのが至難の業で、何度ギルドメンバーに身体を斬り裂かれたか分からなくなった程だ。

そしてこの極剣技シュナイド・ストレは現在の『Marylean』のHP値では一度でもクリティカルが入れば全損が確定する。だがそれ以前に何故硬直時間が二秒を切ったのか、それは慎二の剣技ストッシャーの熟練度が上がったからに他ならない。熟練度は上がった瞬間から硬直時間が短縮される。それも熟練度がMAXにならない限り硬直時間が短縮されないのだ。そこから導き出される答え、それは


「お前、この試合の間に進化したってのかッ!?そんなの冗談じゃねぇぞ!!」


 まるで主人公のようなタイミングの進化に敵の幹部のようなセリフを吐く『Marylean』。自分の硬直時間が終了し、腕が動く。一撃でも、と思い腕を動かし一撃目をガードする。その威力の強さに、ガードした剣が弾かれ、腕が痺れる。残りの八連撃の衝撃が身体を襲い、後方へ飛ぶ。地を転がり、服に粉雪を付けて数メートル程転がり、止まった。それと同時に『Marylean』は意識を失った。


 ✝ ✞ ✝ ✞ ✝ ✞


―――???


 一体、何処で道を違えたのだろうか。アカウントを削除された時からだろうか?このゲームを始めた時からなのか?それとも二度目のキャラメイクをしていた時からなのだろうか?


 ふと、目の前に何かが立っていた。それは影のようで、陽炎のような人型だ。だが不思議と奴と向き合わなければならない気がして、歩み寄る。一歩一歩、影に近付くと共に、周りの暗黒だった空間から、上下鏡合わせのような景色をした空間へと変わった。

 影の見つめる先には一凛の百合、そして薔薇に巻かれた一人の人間。それは奇しくも以前のアバターに似ていた――否、それは以前の、『Sylvie』だった。

 突然、隣に立つ影が呟いた。


「あれが何か、知りたいのか?」


 男の声で影は独り言のように言う。


「一体お前が何故その左目を失ったのか、そして何故左目を失った程度で入院しているのか」

「気にならないか?お前のその奇怪な人生の意味を、お前が何故手動発動スキルという常軌を逸した技が仕えるのかを」


 『Sylvie』のアバターから目を離し、影へと目を向ける。


「教えてやるよ、お前のチカラの源を」


 そして影は話し始めた。『Marylean』の、抄神宮巳弥の始まりを。


2018/8/11 変更


服に泥を付けて→服に粉雪を付けて


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これからもこの『元最強』をよろしくお願いいたします。

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