5-5
倉橋家と聞いてそれが何だったかすぐには思い出せませんでした。お姉さまも同様の様子で美雷さんの言葉に首を傾げています。
「……あ、印籠を盗んだ方」
「そうです。倉橋有里の実家です」
「あの印籠は返してもらったの?」
「それが、まだでして。それで昨夜、こんな手紙が届いたんです」
お姉さまは美雷さんの差し出した手紙を受け取るとさっと目を通しました。そしてすぐに私に渡しました。その手紙にはこのようなことが書いてありました。
拝啓
梅雨の候、雨が続いておりますがお変わりありませんでしょうか?
さて、この度は七夕動画における仙狐の配信動画内で言及された恐怖の大王について、一つ提案がございます。この恐怖の大王、大規模な霊災の可能性が高いものと思われ、早急な対応が必要とされると考えておりますが、この対処を千空家と倉橋家のどちらが迅速的確に対処できるかを競い、勝ったほうが東日本陰陽会会長に就任するということでいかがでしょうか?
千空家が勝ったら今まで通り雷院さまが会長を続け印籠もお返しします。倉橋家が勝ったら私が会長位を譲り受け印籠も倉橋家のものとさせていただきます。
末筆ながら、ご自愛のほどをお祈り申し上げます。
敬具
七月五日
倉橋真有
千空雷院様
侍史
一読してまことに慇懃無礼な手紙だと思いました。印籠を盗んでおきながらそれを返すことが勝利の景品だとするのは人を馬鹿にしているではないですか。
「霊災というのは何かしら?」
私がむっとしていると、お姉さまは冷静に美雷さんに質問していました。それを聞いて私は自分が恥ずかしくなりました。こんな簡単に頭に血が上っていてはお姉さまの側仕えとして失格です。
「霊災というのは人知を超えたものが人に災いをもたらすことです」
「んー、ということはこの間の雨のハイジャックは霊災だったのね」
「あ、はい。そうです。一応、霊災としてお祖母さまに報告してあります。よろしかったですか?」
「別にいいわよ。それにしても、恐怖の大王が霊災ね」
手紙には霊災の具体的な内容については何も触れられていませんでした。たとえ人外の事柄だといっても何が起きるかが分からないければお姉さまや天さまでも対策の立てようがないのではないでしょうか。
「理事長は何が起きるのか言ってた?」
「何も。ただ、これはかぐや姫さまに見せるべきだと言って持たされました」
「私に?」
そう言ってお姉さまは手紙をもう一度受け取ると、首を傾げながらもう一度文面に目を走らせました。
「……分からないわね」
「そうですか」
「でも、どっちにしても仙狐は今日中に保護したほうがよさそうだわ。行きましょう」
「どこに行くんですか?」
「決まってるわ。六本木よ」




