24話 涙目
迷宮攻略後、町の冒険者ギルドにその事を報告すると迷宮が完全に閉じているかを確認する為に冒険者を派遣するとのことで、5日後にもう一度ギルドへ来てほしいと言われた。なんせ、この碧焔の迷宮が出現してから10年余りが経過したが誰一人として攻略できなかった迷宮が、つい数日前にやってきた少女に攻略されたと言われても信じられないのも無理はない。比呂はここ数日間連日迷宮に籠りっきりだったという事あり、大いに羽を伸ばすことにした。迷宮内で討伐した魔物をギルドに提出したところ金貨3枚。銀貨500枚を手に入れることが出来た
(う~ん……このペースだと多分間に合わんな)
「ヴォンッ!」
「どうしたの?」
堅いベッドの上に寝転がっていた比呂は成瀬の方へ顔だけを向ける。そんな比呂に影を使って魔物を狩ってくるというジェスチャーをする。
「あんまり無茶しちゃだめだからね?あと、あまり遅くならないようにね?」
「ヴォンッ!」
以前も同じようなことをしていたので、今回はその意思を組んでくれるのが早かった。念のために比呂の影オン赤に影狼を20体程待機させ、成瀬は町を出るのだった
(行け)
(((((ッ!)))))
影の中に常にストックし続けている影狼たちに魔物を狩ってくるように命令する。今回は攻撃魔法を仕込まず、影袋のみを仕込むことにした。レベル上げの効率は下がってしまうが、それでも倒した魔物の死骸を集め、金に換えるためには仕方がない
膨大な数の影狼たちは町の周辺に潜む魔物を1時間もしないうちに片付け、更に奥へ奥へと進んでいく。日が暮れる頃には成瀬の影袋の中には夥しい数の魔物の死体が収納されることとなった
「す、すいません。これ以上はこちらでの買取が出来ません」
それは翌日ギルドへ討伐した魔物の換金をしに行ったときのことだった。影袋の中から300匹程出したところで受付の職員が涙目になりながら奥へと走っていってしまい、何事かと戸惑っていると涙目で逃げていった職員がメガネをかけた物腰柔らかそうな小太りなおじさんを連れてやってきた。そのおじさんが放った第一声が先ほどの言葉という事だ。
「なぜこれ以上の買取が出来ないんですか?」
「実は――」
個室へ通された比呂と成瀬はこの小太りなおじさん……というかこのエンテイの町のギルド支部長の話から詳細を聞くこととなった。エンテイの支部長曰く成瀬が短期間に何度も大量の魔物の買取を頼んだことによってこのギルドが保有する資金が底を尽き掛けてしまっており、他の依頼を含め、このままではギルドとしての機能が一時麻痺してしまうらしい
「ソレは、なんというか本当にすいません」
事情を聴いた比呂はとても申し訳なさそうに頭を下げる
「い、いえッ!とんでもないです。こちらとしても周辺が安全になったことで商人の馬車が安全に出入りすることが出来るようになります。寧ろ私共がお礼を申し上げるべきです。本当にありがとございます」
そう言って、エンテイの支部長は比呂へ頭を下げるのだった
「い、いえ……そう言う事でしたらお役に立ててよかったです。それにもしお礼を言うのであれば私ではなくこの子に行ってください。私が指示をしなくても周辺の魔物を全てやっつけてくれたんです。」
「そうだったんですね。とても聡明で強い魔獣を使役したんですね。本当にありがとう」
そういうと今度は成瀬と同じ目線までしゃがみ込み深く感謝の言葉を継げるのだった
「さて、全ての魔物を買い取ることはできませんが、今回の件を踏まえサキさんの冒険者等級を8級から7級へ昇給させます」
「ありがとうございます」
「それで諸々の手続きなのですが、あと数日もすれば碧焔の迷宮の件の報告が届きます。疑う訳ではありませんが、もし、この件が本当なのであれば更にもう一つ等級をあげますので、その時に一気に片付けましょう」
「わかりました。よろしくお願いします」
一悶着あったもののその後は宿でのんびりと過ごした。三日目は比呂の提案であまり人気のない低報酬の依頼をすることになった。猫探しに溝にたまった泥上げ。果ては老人が住む家の庭の草むしりなど比呂が中心となって依頼をこなした。その日の合計報酬は銅貨15枚ほどと労力に見合わない結果となった。魔物をこれでもかと換金した成瀬としてはこんな依頼を受ける必要はないと思ったが、依頼主たちから感謝された比呂は泥だらけになり、疲労しながらもとても良い笑顔を浮かべていたのだった
次の日。比呂は、慣れない肉体労働で体を酷使した結果ものの見事に筋肉痛になってしまい、ベッドから起き上がれなくなってしまった
(慣れないことするからぁ~)
そんな比呂に呆れながら比呂の介護に取り組むのだった
5日目。ついに迷宮跡地に派遣していた冒険者たちが帰ってきたという事で筋肉痛で未だ動けぬ比呂を背に乗せた成瀬は冒険者ギルドへと向かうのだった
「碧焔の迷宮攻略の件についてなのですが、俄かに信じられない話ではありますが、派遣した冒険者たちからの報告でもしっかりと迷宮は消滅し、この町の付近まで広がっていた迷宮の影響も消え去っていることが確認できましたので、この件を上へ報告させていただきます。承認が下り次第あなたの冒険者等級を5級へ昇格することになるんですけど………あの、大丈夫ですか?」
顔色の悪い比呂に思わず支部長は説明を止める
「ありがとうございます。ただの筋肉痛なので気にしないでください」
「そ、そうですか……」
満身創痍といった表情で答える比呂に支部長は思わず子が引きつってしまう
(おいおい、顔真っ青じゃねーかッ)
普段運動なんて滅多にしない比呂にとって初めての肉体労働。それは本人が思っている以上に肉体を酷使してしまっていたのだ
「あ、そう言えば昨日は複数の依頼を受けてくださりありがとうございます。あぁいった依頼は定期的に出るのですがどれも労力の割にあまりよい報酬は得られないので冒険者の誰も受けたがらないんです」
「どうせ私は戦いではほとんど役に立ちませんからね。ちょっとでも町の人たちの役に立ちたいんです」
「そうでしたか……では、話は以上になります。サキさんの方から聞いておきたいことなどはございますか?」
そこで比呂はふととある人物のことが脳裏に浮かぶ。それは比呂と一緒にこの世界へ転移してきたかもしれない比呂の友人
「実は人を探しているんです。年は私と同じで黒髪での男の子なんですけど」
(あ………)
比呂の質問に成瀬は内心ドキッっとする
「黒髪の少年ですか……この国ではかなり珍しいのでもしこの国にいるのであれば噂くらいは聞くかもしれません。お名前を伺ってもいいですか?」
「成瀬真一です」
「ナルセ・シンイチさんですね。黒髪に家名……もしかして東方にある島国。大和国のお方ですか?」
「大和……国?」
「違いましたか?」
曰く大和国とは東方に浮かぶ島国の呼び名であり、特殊な気候と独特な潮の流れ故に外に出ることはできても中に入ることはできぬ閉鎖国家となっているのだとか
「もし噂を耳にする機会がありましたらお伝えしましょう」
「よろしくお願いします」
深々と頭を下げる比呂に成瀬はとても申し訳なさを覚える
(すいません、ここにいるんですよ。貴女が探している奴は……)
その後は特にこれと言った予定もなかった二人は比呂の酷使した筋肉を労わるべく宿へ帰るのだった




