第1話「これはアレかな?異世界転生というやつなのかな?」
インフルエンザ。それはとても恐ろしい病気だ。高校生にもなって年中半袖を地で行くある意味最強な俺の友人春陽川大翔を三日も寝込ませただけでは飽き足らず我が校に学年閉鎖なるものを発生させやがった。今年のインフルエンザは相当質が悪いと見た。
そして、今日。あろうことか俺が二年間片思いをしている村河瑠璃もインフルエンザに感染したのが発覚した。
(あぁぁぁ~~ッ!俺の癒しがァァァァ)
そんな村河が欠席したことで今日の俺のテンションはすこぶる低くなってしまった。そんな俺の心境を察したのか普段何かと話しかけてくるクラスメイトも今日ばかりは話しかけてこなかった。そんなこんなで最悪の一日の授業が全て終了し、最後に担任による終礼が終わると俺は足早に教室を去る。本来であれば、クラスの連中と談笑しながら帰ったりするのだろうが俺はそうしない。何故なら俺はあまり教室.......というか、クラスの連中が好きではないからだ。別に俺は極度の人見知りという訳ではなく、受け答えもそれなりに出来る自信はある。しかし、あいつらのペースに合わせていると正直命が何個あっても足りない。
そんな機嫌がどん底な俺が向かう先は、学校内で唯一心休まる場。文芸部の部室だ。とはいっても、今はまだその部室も空いておらず、部長がカギを持ってきてくれるのを待つ
えぇ?自分で取りに行けって?絶対に嫌だね。この文芸部の顧問は俺と相性が最悪でソレをお互い理解しているからお互い関わることはほとんどない。幸いあっちも掛け持ちしているもう一つの部活の方が忙しいようでこちらに来ることなどまずない。そんな理由で俺は今日も今日とてこの冬の凍てつく気温の中、部長が来るのを待つのであった
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「あっ、成瀬君ッ!今日も早いね」
部室の前で待つこと数分。聞き馴染みのある明るく太陽のような声が聞こえてくる。
「こんにちわ、比呂さん。いつも鍵取ってきてくれてありがとねぇ.......あの忌まわしきクソ顧問が居なければ俺が取ってくるのに」
「もぉ、口が悪いよ。大翔も言ってたでしょ?仲良くって」
そう。この女子生徒こそ我が文芸部部長にして俺の親友。春陽川大翔の彼女である。名前は比呂咲樹という。愛しき俺の片恋相手である村河瑠璃の大親友である
この比呂という人間はとにかく優秀で勉学においては学内でも選りすぐりである。しかしながら運動神経と手先に致命的な欠陥を有しており、座学で得た得点分実技で落とすという離れ業を見せてくれるとても面白い人だ。
「ハハハッソレは無理だよ。アレと仲良くなんて未来永劫不可能だよ。それにしても大翔と瑠璃。早く元気になってくれないかな。特に瑠璃は.......このままじゃ俺は軽く二万回は死ねる」
「相変わらず瑠璃のことが大好きだね。まぁ、私もあの二人が居てくれないと寂しいかな」
軽口をたたきながら、いそいそと部室の端に置いてあるストーブを付ける。旧式ではあるがこの凍える真冬の中でもしっかりと活躍してくれる頼りになる存在だ。
しばらくは今日あった授業の話や昨日見つけた小説について談笑をしつつ、いつも通り読書を始める。静かな時間が続き、徐々に温まってきた部屋と昨夜から一睡もしていなかったことも相まって、俺はいつの間にか夢の中へとダイブしていたのだった
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「ありゃ.......成瀬君寝ちゃったか」
私の名前は比呂咲樹だ。こう見えて勉強に関しては学内でもそれなりの順位を維持していると自負している。運動なんかは........今後に乞うご期待なのだが。まぁ、私の話はいい。普段はここに私の大好きな大親友の瑠璃と彼氏の大翔が居て、読書などする暇がない程に賑やかなのだが今日は二人ともインフルエンザでお休みだ。先輩は引退して、一個下の後輩たちはインフルエンザによって学年閉鎖
「こうやって静かに読書をするのも悪くないなぁ.......今度読書週間でも作ってみんなでひたすら本を読むって時間を作るのもアリかも」
長机を挟んで突っ伏して寝ている成瀬を見ながら皆で黙々と読書をしている光景を想像する。しかし………
「プッ……似合わないかな」
あの大翔が静かに読書をする姿なんて可笑しすぎると思わず吹き出してしまう。
(こうしてゆっくり過ごせるのもあと1年かぁ)
現在2年生であり、来年は受験生だ。この部室に集まる頻度も少なくなるだろう。
そんな事を考えながら物思いに耽っていたその時だった。
「ッ⁉なに?」
暗くなってきた外とは正反対に部室の天井が輝きだす。部屋の電気が暴走したにしては急すぎるし、流石に無理がある光量だ。比呂は目を細めて、光源である天井を見る。天井には今までなかった絵のような、文字のようなものが刻まれ始める
「成瀬君ッ!」
この異常事態に呑気に涎を垂らして寝ている成瀬を起こそうと大きな声で名前を呼ぶ。しかし、その瞬間部室は消え、成瀬と比呂だけが何もない真っ白な空間に瞬間移動する。
その光景に比呂は固まってしまい、声も出せなくなってしまう
その時だった
―世界を……魔王から、救ってください―
「ッ!?」
その瞬間どこからともなく女性の声が比呂の頭の中に響き渡る。その声に反応しようとするが、遠のく意識がそれを許さなかったのだった
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次に比呂が目を覚ました時、地面に突っ伏しているのがすぐにわかった。そして、そこが元居た文芸部室ではない事にも。今の季節は真冬であり、明らかに今いる場所が外なのにも関わらず暖かな日の光に包まれ、青々と木々が生い茂っている。挙句の果てには空を見上げれば明らかに鳥ではない異形の形をした何かが空を飛んでいた。それは明らかに地球上には存在しないであろう何かだった。
この状況に比呂は一つの結論にたどり着く。その結論とは………
「これはアレかな?異世界転生というやつなのかな?」
以前成瀬が神作だと言って比呂に読ませた異世界転生もののライトノベルを思い出す
(私たちの場合生まれ変わりではなく何者かに召喚されたか何かってところなのかな?それにあの声……キーワードは『世界』『魔王から救う』。うん、これは成瀬君が読んでたやつと同じだ)
こんな時に成瀬君に勧められた小説が役に立つとは……比呂は心の底からびっくりする。
「って、あれッ⁉成瀬君⁉」
そこで思い出す。すぐ近くで呑気に寝ていた友人の事を……
思わず周りを見渡す。同じ空間にいて、同じ陣によってこちらの世界に来たのだから同じ場所にいるものとばかり考えていた比呂だったが、あまりの静けさに周りを見渡し成瀬の姿を探す
(あ、どうしよう……これ絶対不味いやつじゃないかしら)
比呂の中で様々な考えが錯綜する。比呂にとって成瀬真一という男の印象は『ポンコツ。おバカ。お人好し』の三拍子が揃った見ていてとても面白い友人だ。身体能力も運動神経も比呂なんかよりも百倍マシなのは知っているが、それでも肝心な場面では高確率で何かやらかすあたりから成瀬が近くにいないという事はそれだけでネガティブな考えが頭の大多数を占領してしまう。
「いや、いったん落ち着こう。大丈夫。成瀬君なら多分なんとかしてくれる………」
自分を落ち着かせるための言葉を口ずさむ。しかし、頭に浮かぶのは忘れ物常習犯。階段踏み外し、骨折突き指する成瀬の姿だった。
「えっと……こんな時まずどうするんだっけ」
溢れ出す成瀬ドジ集を振り払い、記憶を整理する。
異世界転生or転移系の作品って、大体自身の情報が数値化されてたり、それっぽいオンリーワンの特別な力があったりするよね……
成瀬の言葉が頭をよぎる
「ッ‼これだ……えっと、ステータスオープンッ!」
(これでいいんだっけ?)
半信半疑で声に出す。すると……
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名前:比呂 咲樹
種族:人間
魔法適性《水》
称号:異世界人、勇者
LV:1
HP:18/18
MP:35/35
固有スキル
『召喚』……召喚可能数(1)
スキル
鑑定
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(で、出ちゃった………)
目の前に現れたそれに驚く。しかし、その内容は想像していたものとは違った。
「な、なんかパッとしない。成瀬君から借りたライトノベルではもっとすごい数字とかスキルとかあったような気がしたんだけど」
現実と理想のギャップに落胆する。だが、比呂は現実に異世界転移なる物を経験してしまった以上。このステータスはどうしようもないと割り切ることにしたのだった。
「固有スキル『召喚』って事は、私は呼び出した何かで敵と戦う訳ね。下の数字はそのまま召喚できるか数のことかな?」
ざっと、ステータスに目を通した比呂は固有スキルの欄にある召喚に目を止める。
「よし、考えても何も始まらない。固有スキル『召喚』発動ッ!」
一瞬の躊躇もなく、召喚のスキルを発動させる。そして、次の瞬間、比呂の目の前に転移の時と同じような光が眩く輝きだす。
(何ッ⁉また転移⁉)
しかし、それはすぐに収まり、発光元へ視線を向けるとそこには一匹の子犬がお座りしていたのだった。
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