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美香と光子と優子の爆笑ストーリー。光子と優子29歳  作者: リンダ


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校外学習

映画館の薄暗い客席に、春介と春海はクラスメイトたちと並んで座っていた。


◆ 学校の平和学習・映画館へ


「はい、それじゃあ静かに座ってくださーい。これから観る映画は『蒸気の町の約束』。

 広島と長崎で、普通の生活を送っとった人たちの物語です」


担任の先生が前でそう話すと、

教室のノリのまま来ていたクラスの空気が、すこしだけ引き締まった。


「ねぇねぇ、春介んとこの“爆笑のおばちゃん”が出る映画なんやろ?」

前の席の男子が振り向く。


「“爆笑のおばちゃん”言うなや。光子おばちゃんと優子おばちゃんやけん」

春介が苦笑しつつ、小声でツッコむ。


春海は、ちょっとだけ胸を張って言う。


「でもね、今日のは爆笑のやつやないっちゃん。

 戦争と原爆のお話で、うちもテレビCM見ただけで、ちょっとドキドキしとる…」


それでも周りからは、


「芸能人の親戚おるって、ずる〜い」

「サインもらってきてって言えばよかった!」


なんて、いつものように軽い声が飛んでくる。


春介と春海は、苦笑いしながらも、

心のどこかで、今日だけは“おもしろい親戚自慢”とは違う日になる予感がしていた。


照明が落ち、館内が暗くなる。

スクリーンの中に、白い文字が浮かび上がった。


『蒸気の町の約束』

監督:中原翔

出演:青柳光子(大村幸 役)、柳川優子(大村恵 役)…


自分たちのよく知る名前が映し出された瞬間、

春介と春海の背筋に、ぞわりと冷たいものが走った。



◆ スクリーンの中の「幸」と「恵」


映画の中の光子は、もう「光子おばちゃん」ではなかった。


長崎の小さな家で、

質素な和服を着て、恋人の勝男の弁当を握る“幸”。


「……行かんでほしいなんて、言えんよね。

 あの人、汽車ば動かす仕事、ほんとに好きやけん」


柔らかく笑うその目の奥には、不安と覚悟が混ざっている。


春介は、心の中で思わずつぶやいた。


(おばちゃん、こんな顔するんや…

 いつも“洗濯機プリン事件”とか“鼻からスポドリ事件”で大爆笑しよう人やのに)


優子もまた、スクリーンの中では別人だった。


「幸姉ちゃん、なんか胸騒ぎがするっちゃ…

 いやな夢ばっかり見ると」


“恵”として、姉を心配そうに見上げる瞳。

ツインテールも、派手なステージ衣装もない。

そこにいるのは、一人の妹だった。


春海は、気づいたら膝の上で手をギュッと握りしめていた。


(優子おばちゃん、いつもなら

 「今日も元気におならブー・セーフティロック!」とか言うとに……

 今日は何もふざけん…)



◆ 白い光と、ふっと消える笑顔


物語が進み、

幸が弁当を持って街を歩く、あの“運命の朝”のシーンが訪れる。


「勝男さん、今日も無事故で帰ってきてね。

 あんたの汽車が走る限り、うちは大丈夫やけん…」


そうつぶやいて笑う幸。

その笑顔は、春介や春海が家で何度も見てきた“本物の笑顔”と同じだった。


次の瞬間――


スクリーンいっぱいに、

真っ白な光。


音が、一瞬だけ消える。


映画だと分かっていても、

春介の喉がひゅっと鳴った。


白がゆっくりと暗くなり、

そこにはもう、さっきまで歩いていた人々の姿はなかった。


静かなざわめきが、客席のあちこちから漏れる。


春海の頬を、

何かがすっと伝っていった。


(消えたんや……

 さっきまで笑っとったのに…

 お味噌汁こぼして「わ〜!」って笑いよった人たちやったかもしれんのに…)


それは、まだ言葉にならない感情だった。

でも、確かな喪失だけが、胸の奥に刺さっていた。



◆ 恵の最期と、「生きとる」自分たち


やがて舞台は長崎へと移り、

全身に火傷を負った恵が、臨時救護所で横たわるシーンになる。


春海は、息をするのも忘れるほどスクリーンを見つめた。


(優子おばちゃん……痛そう…

 でも、泣き叫ばんで、ずっと誰かのこと考えよる顔や…)


「幸姉ちゃん、広島に行ったとよね…

 うち、ずっと信じとったと…

 汽車の音聞こえたら、また笑いながら帰ってくるって…」


恵の声が、かすれながら広がる。


春介は、何度もテレビで見た

“優子おばちゃんのツッコミボイス”と同じ声なのに、

全然違う重さで胸に落ちてくるのを感じた。


「……もし、もう会えんのやったら…

 せめて、空の上で一緒に汽車ば見よるけん…

 戦争なんか、二度と来んごと、

 神様にようけお願いしとくけん…」


最後に、

恵が少しだけ笑って、静かに目を閉じる。


スクリーンの中から音が消えても、

春介には、自分の心臓の音だけがやたら大きく聞こえた。


(なんで…

 なんで、こんな優しい人たちが、先に行かないかんとやろ…

 なんで、普通に朝起きて、お弁当作って、汽車乗って…

 ただそれだけで、こんな目に遭わないかんとや…)


気づけば、

春介の頬にも、大粒の涙が流れていた。


春海は横で、

すすり泣きをこらえきれずに、肩を震わせていた。



◆ 映画が終わったあと ― 教室での「振り返り」


学校に戻り、

教室では「平和学習・感想タイム」が始まっていた。


前の黒板には、先生が書いた大きなテーマ。


「当たり前の毎日が奪われる、ということ」


「どうやった? なんか感じたことがある人?」


最初は誰も手を挙げられない。

映画の余韻がまだ強くて、

いつもの“はいはーい!”という元気さが教室から消えていた。


やがて、一人の女子がそっと手を挙げる。


「幸さん、最後まで勝男さんのこと、心配しとって…

 自分のことより、誰かのこと考えとったのが…なんか…すごいなって思いました…」


別の男子が、遠慮がちに続ける。


「原爆って、社会の授業で“すごい爆弾”って聞きよったけど…

 “すごい”なんて言ったらいかんくらい、えげつなかったです…

 なんか、ほんとはもっと、言葉にできんくらい、ひどいことなんやなって…」


先生は頷きながら、

ゆっくりと板書していく。


「じゃあ…春介、春海」


不意に名前を呼ばれ、

二人は少しだけ体を硬くした。


クラスのみんなの視線が集まる。

「親戚やけんね」という、無言の空気。


春介は一度下を向いてから、

ぎゅっと拳を握って口を開いた。


「…えっと…

 光子おばちゃんも優子おばちゃんも、

 普段はアホみたいにギャグばっかりしよるんよ」


クラスから、クスッと小さな笑いが漏れる。

みんな、それは知っている。


「でも今日の映画は、

 そのギャグを全部封印して、

 “笑えん現実”の話をしよったと思う」


少し言葉を探して、続ける。


「うちんとこの家、

 “笑いで人を救いたい”って、みんなよう言いよるんやけど…

 今日の映画見て、

 “笑うことができんかった人たちが、たくさんおった”ってこと、

 初めて、ちゃんと分かった気がした」


隣で、春海もゆっくりと頷き、言葉を重ねる。


「…うち、いつも朝起きて、

 『おとーたん抱っこ〜』言うて、

 ママが『ちょっと待って!お味噌汁こぼれるけん!』って慌てるの見て、

 それで大笑いしよるんよね」


クラスにまた、柔らかい笑い。


春海は、その笑いをちゃんと受け止めてから、真剣な目になる。


「でも、広島と長崎の“あの日”には、

 そうやって笑う時間すら、奪われた人がいっぱいいたんやなって…

 だからうちは、

 “笑えるうちに、いっぱい笑っときたい”って思ったし…

 “笑える世の中ば、ちゃんと守らないかん”って思った…」


教室の空気が、静かに揺れた。


先生は、少しだけ目頭を押さえるようにしてから言う。


「…そうやね。

 “笑えること”って、すごく平和なことやもんね。

 ありがとう、二人とも」



◆ 家に帰ってから ― いつものリビングで


その日の夜。

リビングでは、春介と春海がソファに座り、

美香とアキラが向かい合っている。


テーブルの上には、

映画の半券が二枚。


「…映画、どうやった?」


アキラが静かに聞く。


春介は、しばらく黙ってから答えた。


「…すごかった。

 正直、きつかったけど…目ぇそらしたらいけん気がした」


春海は、ポツリと呟く。


「光子おばちゃんと優子おばちゃんが、

 “笑い”を一切使わずに、

 “祈り”みたいな演技しよるように見えた…」


美香は、二人の顔を順番に見て、

柔らかく微笑む。


「二人とも、ちゃんと観てきたね。

 ママもね、初めて試写で観たとき、

 もうボロボロ泣きよったとよ」


アキラが、天井を見上げるようにして言う。


「…事故で親父さんとお袋さん亡くしたとき、

 “何でうちなんや”って何回も思ったけど…

 戦争や原爆で家族を失った人たちの話を聞くたびに、

 “悔しさ”と“悲しさ”の重さって、数えきれんくらいあるんやって思い知らされる」


そのとき、テーブルの上のスマホが震えた。


画面には、

「光子おばちゃん」「優子おばちゃん」のビデオ通話着信。


アキラが「お、ナイスタイミング」と笑って出ると、

画面には、いつもの二人が写っていた。


「あ、春介〜、春海〜! 映画行ってきたと〜?」


「あんたら、寝とらんやった?爆睡しとらんやった?(笑)」


春介と春海は、スマホの前にちょこんと座り直す。


「…寝るわけなかろうもん…

 あれ観て寝よったら、人として終わっとるやろ」


「めっちゃ泣いたもん…

 おばちゃんたち、ずるい…あんなの…」


二人が涙目でそう言うと、

画面の向こうで、光子と優子がふっと表情を緩める。


光子

「泣かせるためだけに、やったわけやないとよ。

 “忘れんでほしいこと”が、いっぱいあったけん、やったと」


優子

「でもね、

 あんたたちが“笑える今”を大事にしようって思ってくれたなら、

 恵として、めっちゃうれしかよ」


春介が、少し鼻をすすりながら言う。


「…じゃあさ、

 うちらも“笑える今”を守るために、なんかできるかな」


春海も頷く。


「平和学習の作文でさ、

 “笑える毎日を守りたい”って書いて出してもいい?

 なんか、“戦争反対”って書くだけやなくて、

 もっと自分の言葉で書きたくなった…」


光子と優子は、顔を見合わせてにっこり笑った。


光子

「それ、最高やん」


優子

「うちらの映画、

 ちゃんと届いとるやん。

 …ありがとね、春介、春海」


画面越しの四人は、

静かに笑い合った。


その笑顔には、

いつもの“爆笑発電所モード”とは違う、

しっかりとした決意と、やさしい祈りが宿っていた。


そして翌日、

春介と春海の「平和学習の作文」は、

先生の手によって、

学校全体の掲示板に貼り出されることになる。


タイトルは、二人で考えたものだった。


『笑える毎日を、ぜったいに手放さん』





映画『蒸気の町の約束』は、誰も予想していなかったほどのロングランになった。


当初の公開予定は「まずは一ヶ月様子を見て、その後は成り行きで」という慎重なラインだったのが――

口コミとSNSの波が、静かに、しかし確実に広がっていった。


「戦争映画は苦手だけど、この作品は“家族の話”として見られた」

「東日本大震災を描いた作品でさえ重くて一度しか見られなかったのに、

 これはもう一回観たいと思ってしまう」

「原爆の悲惨さだけじゃなく、“笑いが奪われる”ということを描いてくれた」


やがて、公開館は地方にも広がり、

東日本大震災を扱った名作映画よりも長く、

異例のロングラン記録を更新していく。


監督・中原翔が、あるインタビューでこう語る。


「あの震災を描いた作品たちが、

 “現在”の痛みを見つめる映画だとしたら、

 『蒸気の町の約束』は“過去から現在へ続く痛み”と向き合う映画だと思っています。

 どちらも、長く長く語り継がれてほしい作品です」


そしてもう一つ、

世間を驚かせたポイントがあった。


「爆笑発電所」の中心メンバーである光子と優子が、

笑いを一切封じた重厚な役を演じきったこと。


バラエティ番組やワイドショーでは、


「え、あの“洗濯機プリン事件”の犯人コンビですよね?」

「鼻からスポドリ噴射の人が、あんな静かな泣きの演技を…?」


と、半分冗談まじり、半分本気の驚きが渦巻いていた。


二人のもとには、

連日のように取材依頼が舞い込む。



◆ 取材の合間 ― ひと息つく楽屋


都内テレビ局・スタジオの小さな楽屋。


さっきまで生放送の情報番組で、

映画と平和メッセージについて語ってきたばかりだ。


光子はソファにどさっと腰を下ろし、

ペットボトルのお茶を一口飲む。


「…はー、緊張したぁ。

 生放送で“おならブー”の話ばしそうになったけん、

 ずっと舌かみよった」


優子がスマホを見ながら笑う。


「でもよかったやん。

 ちゃんと映画の話できとったし、

 “爆笑だけやないんですね”って言われたし」


「それ、褒め言葉なんかなんか、よう分からんけどね」


そんな他愛もない会話を交わしながらも、

二人の胸の奥には、

映画がここまで広がったことへの戸惑いと、

それ以上の責任感がじんわりと灯っていた。


「…ねぇ優子」


「ん?」


「うちらさ、

 なんか“平和のアイコン”みたいに言われ始めとるけど…

 背負いきらんくらい、でっかいものも一緒に受け取った気がせん?」


優子はスマホを伏せ、

少し真面目な顔になる。


「…する。

 でも、背負いきらんくらいでちょうどいいんかもしれん。

 簡単に“分かりました”って顔したら、

 かえって失礼な気もするけん」


二人は顔を見合わせて、

同時に苦笑した。



◆ そのとき、スマホが震えた


その瞬間だった。


テーブルの上に置いてあった光子のスマホが、

けたたましく振動する。


画面には「美香お姉ちゃん」の名前。


「あ、姉ちゃんや。

 今の時間って、福岡は…いや、どっちも日本やけん同じか。

 なんねいきなり」


軽い調子で画面をスワイプした光子は、

「もしもし?」と笑いまじりに応じ――

次の瞬間、顔から血の気が引いた。


「……え?」


優子も、ただならぬ気配に体を起こす。


「ちょ、待って、

 ごめん、もういっかい言って…

 ――うそやろ…?」


楽屋の空気が、一瞬で変わった。


優子がそっと隣に寄り、

光子の顔を覗き込む。


「…光子?」


光子は、スマホを耳に当てたまま、

しばらく何も言えなかった。


やっとのことで、

ひとつひとつ言葉を絞り出す。


「…うん…うん、分かった。

 今すぐ、段取り変えて戻るけん…

 先生…なんて言いよる?

 ……そっか…」


通話を切ったあと、

光子はスマホをゆっくりテーブルに置き、

膝の上で両手を握りしめた。


優子

「…家で何かあった?」


少し間をおいて、

光子は震える声で言った。


「……安三郎ひいじいちゃん、

 容態が急に悪化して…

 さっき、救急車で運ばれたって…

 今、久留米の病院…集中治療室…」


言葉を区切るたびに、

胸の奥がギュッと締めつけられる。


赤嶺安三郎。

アキラのおじいちゃんであり、

春介・春海にとっては“ひいじいちゃん”。


家族旅行のたびに、

「よぉ来たなぁ」と笑って迎えてくれた人。

昔話とダジャレを延々と話し続け、

孫もひ孫も全員、順番にツッコミを入れさせられた“ボケのレジェンド”。


優子も息を呑む。


「…ついこの前まで、

 ビデオ通話で元気そうにしとったやん…

 “映画、観に行くけんのぉ”って…」


光子は、ぎゅっと唇を噛んだ。


「…うん。

 『わしが生きとるうちに、みっちゃんたちが出とる映画、

 ちゃんと劇場で観るんやけん』って…

 冗談やなくて、本気で言いよったのに…」



◆ すぐに動き出す姉妹


そこへ、

マネージャーがノックもそこそこに部屋へ飛び込んでくる。


「光子さん、優子さん。すみません、次の収録の件で――」


しかし二人の表情をひと目見て、

マネージャーの言葉が止まる。


優子が、静かに事情を話した。


「…安三郎ひいじいちゃんが、

 さっき救急搬送されたって。

 久留米です」


マネージャーの表情も、一瞬で変わる。


「……そうでしたか。

 分かりました。

 スケジュール、こっちで全部調整します。

 今日はもう、このまま福岡に飛びましょう」


光子

「でも、今日も明日も、

 映画の取材と舞台挨拶が…」


マネージャーは首を振る。


「命に関わるかもしれないご家族のことです。

 ここは、こちらに任せてください。

 仕事はまた取り返せます。

 でも、会えるかどうか分からない“最後の時間”は、

 誰にも取り戻せませんから」


その言葉に、

光子の目が潤む。


「……すみません。

 お願いします」



◆ 羽田へ向かう車の中


空港へ向かうハイヤーの車内。

外の景色は、いつもと同じ東京の街並みのはずなのに、

どこか遠くの世界の話みたいに見えた。


優子は、スマホで美香から送られてきたメッセージを確認する。


『今、おじいちゃんICUに入った。

 先生の話だと、今夜が山かもしれんって。

 春介と春海も、泣きがら病院に来た。

 二人とも、“映画のひいじいちゃん”とかぶっとて見えるって言いよる…』


隣で、光子が小さくつぶやく。


「……映画の中で、

 幸と恵ば“先に行かせてしまった側”の人たちの気持ち、

 ちょっとだけ分かった気がしよったけど…

 現実で、また“かもしれん”って状況になると…

 全然、心の準備なんてできとらんね…」


優子はシートベルトを握りしめながら、

静かに答える。


「…当たり前やろ。

 準備なんか、できんでいい。

 “慣れたらいかんこと”やもん、こういうのは」


少し沈黙があって、

優子がふっと笑う。


「でもさ、

 安三郎ひいじいちゃん、

絶対、言うよね」


「…なんて?」


優子は、

頭の中の“あの声”を再生するようにして言う。


「『わしの心配しとる暇があったら、

 はよ笑いのネタ考えんか〜い!』」


光子は、

不意に噴き出して、そしてすぐにまた涙ぐむ。


「…言いそう。

 言いそうすぎて、腹立つ…」


「腹立つけど、

 そんなこと言いながら、

 心の底では“よう来てくれたのぉ”って、絶対喜ぶやんね」


「…うん」


車は、

夕焼けに染まりかけた高速道路を、

静かに走っていく。


映画のロングランも、

メディアからの注目も、

SNSでの称賛も、

今この瞬間だけは、

すべて後ろに下がって見えた。


前にあるのは、

ひとりの家族の命の行方。


「間に合って」

「もう一度、あの声が聞きたい」


二人はそれぞれ、

心の中で同じ言葉を繰り返しながら、

ハンドルを握る運転手の視界の外で、

そっと互いの手を握り合った。


このあと、

久留米の病院で待っている光景が、

どんなものであっても――


“笑える日々の尊さ”を知ってしまった姉妹は、

その現実から目をそらさずに、

また次の一歩を踏み出していくことになる。

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