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戦場の惨状—紘一の悲しみと老人の慟哭

 戦いが終わった後、紘一は、戦場を歩いた。

医療班の仕事は、まだ続いていた。負傷者の治療、戦死者の確認。すべてを、やらなければならなかった。

紘一は、医師たちに指示を出した後、一人で戦場を歩いた。現実を、自分の目で見たかった。


 戦場は、悲惨な状態だった。至る所に、死体が転がっていた。武田兵の死体が、特に多かった。

馬の死体も、多かった。騎馬隊が、壊滅した証だった。

紘一は、その光景を見て、胸が痛んだ。一万名。それだけの人々が、この戦いで死んだ。

彼らにも、家族がいた。彼らを待つ人々が、いた。だが、もう、彼らは帰らない。


 紘一は、一人の若い武田兵の死体の前に、立ち止まった。

その兵は、二十歳くらいだった。胸に、銃弾を受けて、死んでいる。

顔は、苦しそうだった。紘一は、その兵の前に、膝をついた。そして、静かに、手を合わせた。


「安らかに」


 紘一の目から、涙がこぼれた。紘一は、この四十五年間で、多くの戦いを見てきた。

多くの死を、見てきた。だが、慣れることは、なかった。人の死は、いつも、悲しかった。


 紘一は、立ち上がった。そして、さらに歩いた。

紘一は、山県昌景の死体を見つけた。山県は、武田四名臣の一人だった。

勇猛で知られた武将だった。

だが、今、その山県も、死んでいる。紘一は、山県の前でも、手を合わせた。


「山県殿、安らかに」


 紘一は、馬場信春、内藤昌豊、原昌胤の死体も見つけた。すべて、手を合わせた。彼らは、敵だった。だが、武士として、立派に戦った。その勇気を、紘一は、尊敬した。


 紘一が、医療班陣営に戻ろうとした時、一人の老人が、戦場をさまよっているのを見た。

老人は、泣きながら、死体を探していた。


「息子......息子はどこだ......」


 紘一は、老人に近づいた。


「どうされましたか」


 老人は、紘一を見た。その目は、涙で濡れていた。


「息子が......武田の兵として、戦っていたのです......でも、見つからない......」


 老人の声は、震えていた。紘一は、老人を助けることにした。


「一緒に、探しましょう」


 紘一と老人は、戦場を歩いた。死体を、一つ一つ、確認した。

そして、ようやく、老人の息子を見つけた。若い兵だった。二十五歳くらいだろうか。槍傷を負って、死んでいた。


「息子......」


 老人は、息子の死体に、すがりついた。そして、泣いた。声を上げて、泣いた。


「なぜだ......なぜ、お前が死ななければならない......」


 老人の慟哭が、戦場に響いた。紘一は、その様子を見て、何も言えなかった。

ただ、黙って、立っていた。紘一の心も、深い悲しみに沈んだ。老人は、しばらく泣いた後、紘一を見た。


「ありがとうございました。せめて、息子を、見つけられました」


 紘一は、頭を下げた。


「いえ」


 老人は、息子の死体を、背負った。そして、歩き始めた。故郷に、連れて帰るのだろう。

紘一は、老人の後ろ姿を見送った。


「戦いは、やはり悲しい。勝者も、敗者も、みんな、悲しみを抱える」


 紘一は、医療班陣営に戻った。まだ、やるべきことがある。

負傷者の治療。戦死者の埋葬。すべてを、やり遂げなければならない。


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