表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金魚戦記  作者: 悠布
1章 騰蛟起鳳
9/92

9話 修行

 修行! そう来たか。

 滝に打たれたり、無我の境地を目指したり、荒野を彷徨ったりするやつね。

 ОK、いいぜやってやる。





 はい、ということで。俺ことベニッピー、只今絶賛修行中です。

 何をしているのかって? おう、教えてやろう。


 目隠しをして、獰猛なサメの群れの中を一人、逃げ回っているんだ。

 悪鬼、じゃない、死神、でもない、ヘクターさん曰く、


「視力に頼らず、サメが持つ僅かな魔力を感知してください。

 殺気は当てになりませんよ。彼らにあるのは、本能的な食い気のみですから」


 だそうだ。なんとかそれをクリアすると、


「次はその状態のままで、この小さな籠に入ってもらいます。

 身体を使って泳ぐのではなく、魔法で籠を動かすのです」


 あっさり言う。


「え! どうやって!?」

「貴方ならすぐにコツを掴めると思います。その籠は、数回程度ならサメに噛まれても破壊されません。

 食べられる前に、頑張って慣れてくださいね」


 この世界にもスパルタが存在するのだろう。そして彼は、そこの出身に違いない。


 これにはマジでビビった。

 俺は呆然としている間に籠に閉じ込められ、再び危険地帯(デスゾーン)に放出された。

 

 魔力センサーに迫るサメの群れを目にして、必死に考える。

 この金属の柵に、自分の魔力を流して...それから? どうやって動かすんだ!?

 

 何もできないまま、1匹のサメにバクリと噛まれる。

 サメは籠の硬さと感触に驚いたようで、すぐに俺を離した。だが、また別のヤツが来るだろう。

 

 命綱であり枷でもある籠は、今の一撃で既にひしゃげている。

 

 2匹目が迫っているのを感知して、とりあえず回避を試みる。

 籠本体は一旦諦めて、周囲の海水ごと移動するのだ。

 イメージは...シャボン玉だ。石鹸の膜の中も外も空気なのに、風に吹かれて飛んでいた。

 

 俺の魔力で球体の膜を形成し、右へ回避しろ! と念じる。

 海水ボールは動き出したが……あまりにも遅い。

 しまった、流したエネルギーが足りなかったのか!?

 

 そして、虚しくも2匹目のサメにもガブリとやられる。


 グニャリと変形した柵を見て、ふと思う。

 これ、直せるんじゃね? と。

 

 先程流した魔力を、マリオネット使いが人形を操るように、動かしてみる。

 すると、柵が動いた。

 そうか。籠本体じゃなくて、俺の魔力を操作すればいいのか。


 後は簡単だった。

 最初に作ったシャボン玉の動きが遅かったのは、どうやら水の抵抗をモロに受けていたからのようだった。

 スカスカの籠の方が、少ないエネルギーで素早く動かせる。

 それに、物理的な…()(しろ)みたいなものがあった方が、魔法初心者の俺にはイメージを実現しやすかった。


「流石ですね。予想通りでもあり、予想以上でもあります。結界の基礎まで習得してしまうとは」

「結界?...それより、貴方は宰相だろう。俺の訓練なんかよりも、他に大事な仕事があるんじゃないのか」

「通常ならば、こういった訓練は兵隊の管轄なのですがね。今回は、効率と機密保持のため、私の重要な仕事の一部です」

「そうか。で、どうだ? 少しは使い物になりそうか」

「ふふふ、勿論ですよ。ですがベニッピーさん、貴方の実力はまだまだこれから引き出すのです。ふふふふふ……」


 怖い。


 そんな調子で悪魔の所業...じゃない、鬼の修行は進んでいった。

 海底の石ころで龍宮城のミニチュアを作らされたり、海水から空気を抽出して巨大な泡を作ったり、さらにその中に火の玉を浮かべたり。

 カエルウオを操って城壁のコケ清掃をしたり、体当たりで邪魔な岩を砕いたり。

 竜宮城の周囲に海流を生み出そうとした時には、危うく全魔力を大海原に出血大サービスするところだった。

 

「魔力が枯渇すると、生命力が変換されていきますので、注意してくださいね」

「なにそれ早く言って!」

「しかし、うまい具合にピッタリ空にすると、最大魔力量は増えていきます。筋トレと同じようなものですよ」

「筋トレってそんなに難しかったっけ?」

「できるだけ、毎回空にしていきましょう。貴方はまだお若いので、相当伸びますよ」

「おにっ...オンリングが食べたいなぁ!そろそろ腹減ったよ」

「残念ながら、今は玉ねぎの備蓄は無かったはずです。代わりにイカリングはいかがですか?」


 ということで、現在イカの群れを魔力探知中。

 お...、来たようだ。大群ではないが、食事には十分な数がいる。

 

 俺は気配を消して、さらに警戒されないように身体を縮めて泳ぎだす。

 群れに接近したところで、ピカッと尾びれを光らせた。

 一斉に近寄ってくる小型のイカたち一匹一匹の位置を確認する。

 そして、


「はい、電撃ショック~!」


 一斉に、ピンポイントに電流を流した。

 普通に電気を発生させたら俺を含めて感電するが、そこは魔法で電線を作るのだ。

 

 心停止したイカ軍団を引き寄せ、広げた網に放り込む。

 傍で見ていたヘクターが嬉しそうに笑った。


「狩りが上達してきましたね。修行の成果がでて何よりです」

「ああ。ヘクターさんのおかげで、色々な事が出来るようになったよ。副業として、よろずやベニちゃんでも開業しようかな」

「それは良いかもしれません」


 城に戻り、厨房の空気室にてイカリングを揚げる。

 ここで働いているのは、空気呼吸もできる者たちだ。


「おやベニッピーさん。今回はイカですかい」

「まだ沢山あるから、食材として使ってくれ」

「へへっ、ありがてぇ。アンタが捕ってくる食材は、いつも仮死状態で新鮮っすな。食料調達班に異動しちゃくんねえかねぇ」

「そうだな。今の仕事(修行)が片付いたら、ここに配属されるかもしれないな」

「おぉ、そんときゃ歓迎の宴だ。楽しみにしててくだせぇ」


 そう言うわりに、全くそうなると思っていない顔だな。

 でも確かに、城の修繕作業係とかも有り得るか。ヘクターさん、ミニチュア城の出来栄えに感心してたし。

 俺にしか出来ない仕事をしてもらう…って言っていたよな。なんだろう。


 揚げあがったホカホカのリングを皿に盛り、レモンの輪切りを添えて泡で包む。

 それを魔法で牽引しながら廊下を進み、執務室の扉を開ける。


「よぉガル。イカリング作ったぜ、食べるか?」

「もちろん、有難くいただくよ。ヘクターに聞いて待っていたんだ。揚げ物は久しぶりだなぁ」


 あれ、おかしいな、ガルの声なのに何かいつもと違う。

 ついでに、すぐに視界に入ってくるあの巨体が居ないんだが。


 不審に思って声の出所を探す。

 すると、普段は無い大きな泡が漂っていて、その中に人影が二つ見える。

 人影は、こちらに向かって大きく手を振った。


「ベニッピー、早く入っておいでよ。揚げたてで食べねば勿体無い」

「...っ、お前かい! ってか、ヘクターさんもかよ!!」




 人化していたのは、いつもの二人だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ