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歓迎会をはじめたいんですが

 すっかり暗くなってしまった街中を歩いて、僕たちは家へと戻った。


「ここがこれから暮らす家だよ」


 突然あらわれた建物にぽかんと口を開いたジョシュアくんに、そう説明する。

 ジョシュアくんはしばらくの間、口をぱくぱくと開けたり閉めたりしていたのだけど、やがて


「すごい……」


 と言葉をこぼした。

 たしかにこの建物はすごい。

 同じくらいの大きさの建物自体はいくらでもあるし、街の中でさえこれ以上に大きい建物はあるのだけど、ここまでの存在感を発揮するのはここだけだ。

 しかも悪目立ちしているわけではなく、存在感がありながらもしっかりと街に溶け込んでいるのがさらにすごい。


「はやく行こ?」


 ジョシュアくんの手を取りながら家へと入る。

 扉の向こうでは、きれいに整理された部屋が出迎えてくれていた。

 まだ暮らして実質1日くらいしか経っていない家だけれど、豪華でありながらもやりすぎじゃない絶妙なセンスに、すっかり虜となってしまっていた。


「……それじゃあ、やろうか」

「うん、それじゃあショウくんは食器の用意をして」


 まだどれがどれだかわからないジョシュアくんをソファに座らせて、食器棚へと向かっていく。

 彼を歓迎するために食器を用意したのだ。

 ジョシュアくんが眠っているとき、ミシェとふたりで立てていた計画だ。


「えっと、食器は……」


 食器棚の金色に塗装された取っ手を、震える指で開ける。

 そしてその中から青い装飾がほどこされた、美しいティーカップに手をつけた。

 依頼に向かう前の朝食では木製の器を使ったのだけれど、当然といわんばかりに陶磁器でできた食器もある。

 どれもこれも繊細な細工がほどこされていて、もし壊れたら……と考えると、怖くてとても使えないような代物だ。

 だけど今日は歓迎の日、勇気をだして、このどこからどう見ても高い茶器を使ってお茶を淹れることにした。

 絶対に割ってしまわないよう、慎重に、慎重に食器を持っていく。

 ティーカップとティースタンドを人数分用意したら、今度はミシェに食器を持っていく番だ。

 割れないよう、慎重に、慎重に……。


「ミシェ、持ってきたよ」

「あ、ありがとう。……そういえば」


 これどう? とミシェが丸くてふわふわした、ふしぎな物体を出す。

 これはマフィンといって、玉子の白身と砂糖、そしてアーモンドを使った新しいお菓子だそうだ。

 ここを清掃してくれている人たちが持ってきてくれたもので、ものすごくおいしかったらしい。

 元々砂糖は貴重なもので、貴族でさえおいそれと食べられるようなものではなかったのだけど、最近になって量産する方法が発明された。

 だから最近は普通に市場でも出回っているらしいのだけれど、僕たちが子どものころはなかったものだ。

 淡いピンクをした未知の物体。

 しかもおいしいとあれば、食べる以外の選択肢は残されていなかった。


「それじゃあ、お言葉に甘えて……」


 ミシェの手から、マフィンをひとかじりする。

 一瞬だけサクッと歯にぶつかったかと思うと、それからは空気のような食感と甘みが口いっぱいに広がった。

 新しい、しかもとてもおいしいものだ。

 僕はこの見たことのない食べ物に、もう魅了されてしまっていた。


「これ、おいしいね……!」

「でしょ? ジョシュアくんにもこれあげよう?」


 きっと喜ぶよ! とミシェは笑った。

 ――楽しい歓迎会になりそうだ。

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