第三話 騎士の血とは
剣の立ち合いは一人一戦。これで俺も終わったのだ。安堵のため息を控室でした俺は、木刀と盾を次の人のために控室の椅子に立て掛けておいた。
俺の剣の立ち合いを見ていた人はきっと呆れていただろう。いや、見る価値もないのだ。
控室から出た俺は、また来た道を戻り教室へと向かっていた。まだ痛みの余韻があるようだ。おなかのあたりがまだ気持ち悪い。
教室へ戻ると、俺に気づいたマティスがにっと笑って迎えてくれた。他の人は笑顔だったり、がっかりした表情だった。勝敗がつくゲームなため、仕方ない。
「おかえり、あっさり負けたな」
「え?見ていたのか?」
「まぁ、一応勝てるかなーなんて思っていたんだが、クレイスが勝てるわけないか」
「だったら最初から見るなよ・・・」
近くの椅子に座り、マティスと話していた。女子の方の校舎ではきっと魔法の勉強に励んでいるのだろう。メアリは大丈夫だろうか。
しかし、メアリは生真面目な奴だ。きっと何事もいずれこなすだろう。今はメアリの心配より自分のこの弱さについて考えるべきだろうか。
などと考えていると、マティスの方から話が振られた。
「俺は勝ったよ、当たり前だがな」
「マティスの相手が弱かっただけかもしれないぞ?」
「だとしても勝ちは勝ちだろ?」
「そうだけど・・・」
少し自慢したがるのがマティスの性格だ。かなりマイペースであり、誰とも絡むことができる。たまにイラっとくることもなくはないが、最高の友達を持ったのは確信できる。
「改めて思ったんだけど、男が魔法やってもよくない?」
「まだそんなこというのかクレイス。剣の方が楽しいじゃないか」
「君はそう思っているかもしれないけど・・・」
俺は男が剣を使う、というこの世界の規則について疑問を抱き続けている。なぜ男は剣、女は魔法なのだと。もちろん大人になって、それなりの実績をもっていれば男でも魔法、女でも剣を扱うことができる。しかし子供の頃は決められているなんて、そこは選択肢があってもいいと俺は思っていた。
剣は「命を絶つ武器」として先生に教えられている。もちろん魔法も命を絶たせる武器のようなものだ。
しかし、男で兵についている人でも、実際敵の肉を切ったことある人なんてほんの一握りだ。実際切れば肉体が引き裂かれ、血が飛び、手には気持ち悪い感触が残る。
簡単に言えば、この世界の男性、実際敵の命を絶つことなんて恐れているに違いない。
まだ魔法の方がやりやすい。プーロウだって、実際敵を斬る前からその場から逃げるに違いない。
だから、剣なんて扱いたくなかった。
「・・・」
「どうしたんだよ、クレイス」
「あぁ・・・ごめん、ぼーっとしてた・・・」
あまりに思いにふけっていて周りの音をかき消していたのだろう。意識を取り戻し、マティスに俺は話を振った。
「あのさ、学校の右側に小っちゃい小屋があるよな」
「なんだよいきなり、まぁあるけど・・・」
「あの小屋の中って何が入っているか知っているか?」
「え?なんだろう・・・」
マティスは知らないようだ。実はこの学校の右側には木に隠れた木製の小屋があるのだ。キド先生が俺にこっそり話してくれたことなのだ。なぜ、俺に話してくれたかは知らないが。
「誰にも言うなよ?あの中にはな、本物の剣が入っているんだってさ」
「え?本物?」
「あぁ、鞘に入っている、金属の剣があるってさ」
「そんな、命を絶つ武器がそんなところにあるわけないだろ?」
「いや、間違いないって。俺もなんであるかは知らないけど、きっと護身用だと思う」
キド先生が、「あそこの小屋にはな、木刀じゃなく、剣が入っているんじゃよ」と俺に言ったのだ。きっと本当だろう。
まぁ、これくらいの話しか俺の中にあるネタはない。もうそろそろ剣の立ち合いの最後の人も終わる時間だろう。
「まぁ、もうそろそろ終わる時間だろう。今日は昼前に帰れるわけだし、気楽だな」
俺がそういうと、マティスも笑う。剣の立ち合いの日は本当に楽だった。
「じゃあ、帰ったら遊ぼうぜ」
「わかった」
約束を交わし、俺は下校を待った。
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メアリは教室で本を読みながら皆と授業を受けていた。本に記されているのは基礎の呪文。危ないものは控えめで、水、風、あとそれの応用くらいだ。
(・・・これくらいはわかるんだけどなぁ・・・)
もうメアリは基礎はわかっているのだ。あまり先生の話は聞かず、別のことを考えている。
ふと窓をみると、何故だろうか。男子がもう一斉に下校している。村の橋を渡る男子たち。なぜ今日彼らは早いのだろう。そんなことを思っていると、確かクレイス兄さんから「剣の立ち合い」ということを言ってたのを思い出す。おそらくそれに関係しているのだろう。
早く帰っている男子たちを見て、羨ましいと思いながらまた前に顔を戻した。
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全く何も考えず歩いていると、俺は足をかけてしまった。
「うわっ!」
どすっと音が響き、川の上をつなぐ橋の上で俺はこけてしまったのだ。
膝を地面に思い切りこすってしまったせいで膝からは血が流れていた。
「大丈夫かクレイス?」
心配して近寄ってきたマティスは、少しびっくりして俺の膝を見ていた。
「すりむいたのか・・・家に早く戻って水で流そう。そしたら上から包帯まけば多分大丈夫だとおもうぜ」
「あぁ、そうだな・・・」
俺は少し痛みを我慢しながら立つ。
改めて血を見る。赤く、液状の血。皆と同じ、体の中に回る血。
しかし、俺は自分の血を見て少し嫌な気持ちになる。
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俺が血を初めて見たのは、今から数年前。俺が6歳の頃だろうか。
同じようにころんですりむいてできた膝の傷口から出てきた血。しかしかなり流血があり、起き上がるとき血が地面に一滴二滴落ちたのだ。
あ、と思い落ちた血をみようとすると、そこで俺はびっくりたのだ。
「あ・・・あれ?血が・・・ない?」
俺の血が、落ちた場所にはなかったのだ。
すこし膝を振り、血が飛ぶのを俺は確認する。着地点に血が付くのをみると、その地は瞬く間に消滅した。
血というのはこんなに早く消えるはずがない。友達の血を見たときは、消滅なんてしなかった。血はそこに残って、ふいたり洗ったりして落とすしかないはず。
「僕の血・・・すぐ消える・・・」
なぜ自分の血だけすぐ消えるのだろうか。
垂れている血はまだ消えてない。しかし地面に落ちるとすぐ消える。なぜだろう。なぜなんだろうか。
「・・・」
そして俺は、村の小学校に入りそこで出会ったのがキド爺だ。
俺は、数年前に経験した血の消滅の疑問を思い切ってキド爺に語ったのだ
「キド先生。少し質問があります」
「ん?なんじゃ」
「血って、すぐ消えるものなんですか?」
「どういうことじゃ?」
「血って、地面に落ちると残りますよね」
「そりゃあ、そうじゃな」
「けど、僕の血って地面に落ちるとすぐ消えるんです・・・」
「なに?すぐ消えるじゃと?」
「はい。血がすぐにすっと消えるんです。残らないんです・・・」
「・・・」
「キド先生?」
「・・・ちょっと待っとれ」
キド爺が書物をあさると、一つの本を机に持ってきたのだ。
「ちょっと君の話じゃと信じがたいが・・・」
「え?」
ぺらっと、ページをめくる。本に記されているのは血の写真であった。
近くには種族の名前、特徴、などなど書かれていた。
「君の血がその特徴となると・・・すこしまずいんじゃ」
ページをめくりながら語っているキド爺の顔は、神妙だった
「これじゃ」といい、俺にページを見せたキド爺。
「もしその血が本当なら、この血じゃ・・・」
指さしたのは、名前である。
「なんて書いているんですか?」
「これはじゃな・・・〈Blood of Knight〉と言うんじゃ・・・」
ブラッドオブナイト?
聞いたことない言葉だった。疑問を持ちキド爺に問いかける。
「これは騎士の血、と言われるものじゃ。語ってやろう・・・」
キド爺は、渋い顔しながら語り始めた。
「騎士の血とはな、数ある血の中で最も嫌われている血・・・である。この血は、血の中でもっとも近接戦闘に長けている血じゃ。この血を持ったものは、剣の扱いがもっとも素早く、切れよく、確実に良いものにある。相手の動きなど、動体視力も長けている。この血を継いだものは、王を守ることになるのじゃ」
聞く限り、どこも嫌われるとは思えない。だがきっと後半にわかるのだろう。
「騎士の血は、人々を守るために使うものだと王は言ったのじゃ。騎士の血を持つ者は限りなく少ない。騎士長や兵長にみとめられるのは当たり前じゃった・・・。しかし、事の発端はある事件じゃ。騎士の血を持ったものが、罪のないひとを殺したというのじゃ」
罪の・・・ない人を?
「騎士の血を持ったものが、王都の人たちを暗殺し続けたというなんとも不可解な事件があったんじゃ。まぁいずれ・・・見つかって処刑されたのじゃが・・・。あれでもう騎士の血は恐れられて継承者はいないと思っていたんだが・・・」
俺を見るキド爺。
「殺しの血じゃ。もしこのことがばれたら、クレイス。君は間違いなく処刑される。なんとしても、その血の秘密を守るんじゃ。よいな」
「は・・・はい・・・」
俺は、この日から、自分の中に流れる血を恐れたのだ。殺人の血を。




