赤いのは夕焼けと
放課後、ほとんどの生徒は帰路についた中、私と島田は日直作業で教室に残っていた。
「島田〜助けて〜〜飴あげるからぁ」
「いらねーよどうせまたハッカのだろ」
チッばれたか。
「てか女子力とかわかんねーけど、会長に相談した方が早いんじゃないの?」
「それじゃ意味ないでしょうがー…」
だるーんと机に突っ伏して息を吐く。
これでも昔は売れっ子キッズモデルだ。
いろんな表情をするのは得意だったのに、上目遣いすら出来ないとは…何がダメなのか
「………………」
机に突っ伏したまま、島田の袖をそろりと気をつけて優しく摘まみ、見上げる。
「ッ!え、な、なんだよ⁉︎」
「あー島田になら出来るんだけどなぁ」
「…何してるんだい?」
「「うぉぉ⁉︎会長⁉︎」」
私と島田の悲鳴が重なる。
微笑みながら目が1ミクロンも笑っていない会長がいつの間にか島田の背後まで来ていた。
「か、会長、これは違うんです」
「島田くん、書類、生徒会室に運んであるから300セット今日中に作ってくれるかな?「いや会長あれまだ時間あるやつじゃ」頼むね」
ワタワタ手を振る島田に死刑宣告が下された。
「くそーいっつもこれだよ!お前のせいだからな!」
あ、言い逃げだ。涙を浮かべながら走り去る、残念なイケメンだ。
島田、あんたの犠牲は忘れない。黙祷。
「さくらさんは、島田くんと本当に仲がいいね」
うぉぉ!てか残された方がやばいじゃん!
こ、ここは何事もなくサラリとかわすべし!!
「いえ、普通ですよ」
「へぇ?普通の仲の男子の袖を握って上目遣いするの?」
「いえ、あれはなんというかたまたま」
まさか言えない会長に似合うよう女子力鍛えようとしてるなんて。
なんか、空気が………重い………?
「ねぇ?さくらさん??どうなの???」
こ、これはまずい。
全身からエマージェンシーな汗が出る。
立ち上がり逃げ腰になる私を、会長はじわりじわりと追い詰め。
背中が壁についたところで、そっと両腕に閉じ込められてしまう。
デジャヴなんですけどーー!!!!
くっ、同じ攻撃は2度は食らわない!
サッと腰を低くして包囲網をくぐりぬけ、逃げ出す。
ふっ!
どや顔は一瞬。
ぐぁっ!焦りすぎて出口と反対の窓側に抜け出しちゃった!
背後から怒りオーラがビシバシ飛んでくるのを感じる。ヤバイヤバイわかんないけど怖すぎる!
そう、そしてこんな風に焦った時、人間は正常な判断が出来なくなることがあります。
「ぬぁぁ!」
シャッ!!
「………何してるの?」
「………隠みの…術………」
………わかってますよ、えぇ、カーテンに隠れてもどうしようもないくらい。
ブルブル震えながら審判の時を待つ。
と、その時。
私の体がは、カーテンにくるまれたままフワリと腕に包み込まれた。
見た目よりも広くたくましい感触で爽やかな香りが鼻先をくすぐり、一気に顔が熱くなる。
「さくらさんの浮気者」
「はぁぁ⁉︎だ、誰が浮気者ですか!」
ちょっと!!カーテン越しに耳元で喋らないでください頼むから!!
「僕というものがありながら、島田君にあんなに親しげにして……いっそのこと僕の目にしか触れないところに閉じ込めてしまおうか?」
「ひぃっ!」
デブ専の次はヤンデレ属性出てくるとかこの人のスペック底知れねぇ!!
後継ぐ会社大丈夫なの⁉︎
「か、会長!」
「ん?」
意を決して腕を振りほどくようにカーテンからガバリと飛びでつつ腰を90度に折る。
言いたくなかったけど、怖いより恥ずかしい方がましだ!
「実は会長の隣にいて違和感ない女子力を身につけるために島田に色々教わってましたごめんなさい!」
よく考えたらなぜ私がここまでしなきゃならないのか若干疑問ではあるけど、返事を濁したまま他の男子と仲よさげにしてたら確かに性格悪いかもしれない。
「それ、は…僕の隣に並びたいって…思ってくれてるってことかな?」
会長、なんか声が震えてる?
礼をしたまま顔だけ上げると、バチっと目があう。
「会長」
「………っ」
「顔、真っ赤」
「し、仕方ないじゃないか、さくらさんからそんな風に思われてるなんて初めて聞いたんだから」
口元を手で覆い、横を向くけど、耳まで赤くなってしまっている。
なんか…
「プッあははは!」
なんだ、いつでもスマートな人だと思ってたけど、別にそんなことないじゃん。
笑い転げる私を見て目を丸くする会長。
そのうち会長もつられて笑い出し、夕焼けに染まる教室で2人しばらく笑いあった。