4−6 覚悟
再び、アラドの剣を天へと突き刺す。
先ほどよりもさらに強力な引力で空間のエネルギーを集約してく。
「何してるんだ!早く逃げろ!次の攻撃は絶対にやばい!なんだか分からないけど、さっきより格段に力が増している気がする!」
晴は自分の状況を棚上げして思わず声を上げる。
一方の少女が、根を生やしたかのように、頑なに晴の前を動こうとしないからだ。
「このままじゃ、君もただじゃ済まない!さっさと逃げろ!!」
すると少女は首だけで晴の方を振り返り、少し驚いたような表情のあと、
「ありがとう。でも、大丈夫」
穏やかに微笑んで、そう言った。
「なめやがってえぁぁっ!!」
アラドの雄叫びに合わせて、刀身が真っ赤に染まる。
今までよりも、さらに濃く、深い真紅に。
「あばよ5th。残念だが、喧嘩を売る相手を間違えたな」
白刃に黒い焔が宿る。
ここまでか。そう覚悟したその時だった。
「止めろ、アラド」
放たれる低い声。アラドの背後の空間が歪んだかと思うと、次の瞬間にはその空間を占有していたのは大男の巨躯だった。
男は素手でアラドの燃る剣を鷲掴みにしていた。
その黒短髪の男は、離れた位置に居たはずのもう一人のローブ男、グラーツ。
「な……、た、隊長?」
「いますぐその天業を閉じろ」
グラーツは眉間に深く皺を刻み、アラドに言う。
「でもアイツは!」
「いいから閉じろ。分からんのか?こんなものぶっ放せば、アイツらどころか、ここ一帯が焼け野原と化すぞ」
グラーツは右手に掴んだ赤い剣を顎で指して言う。
その凄みに当てられたのか、先ほどの狂気もどこへやら、アラドは渋々と剣を下げる。
高密に充填されていた活力は散逸し、刀身は元の曇りない銀色を取り戻す。
「状況が変わった。ここは俺にまかせろ」
グラーツが一歩出る。
少女は、手にした剣をグッとより強く握り直した。
心なしか、アラドと対峙している時よりも険しい顔をしているように見えた。
「ロルカ隊員。どういうつもりだ」
太い声が問い質す。
「お前は今、標的であるその小僧を庇い、仲間である俺たちに対して刃を向けている。これは明らかな反逆行為だ。この場で即、その両手首を落とされても何等文句の言えない状況にある。それを承知の上での行動か?」
「…………」
銀髪の少女――ロルカを呼ばれた彼女は、押し黙ったままだ。
「俺たちの任務は罪人の捕縛。それを忘れたわけではあるまいな?」
「…………」
「どうなんだ!」
「……いいえ」
「ふん。ならば、剣を納め、大人しくこちらに来い。そうすれば、お前への攻撃は行わない」
「は?何言ってんすか!隊長!」
想定外のグラーツの譲歩に、アラドが声を張り上げた。
「あいつは裏切り者だ!余計な問答は無用ですよ!元々寝返る気で任に着いたか、それか誰かに操られてやがるに違いねェ。あの悪党と、とっととぶった斬っちまえばいいんですよ!」
「よせ、アラド」
グラーツがアラドを諫める。
剣を納めようが、アラドの攻撃的で激情的な姿勢は変化ないようだ。
「この人に危害を加えないと約束してくれるなら、退きます」
怖々と、声を絞り出すようにロルカは言った。
「はァ!?巫山戯てんのかてめぇ?そいつはとんでもねぇ大罪人なんだぞ!本当だったら、俺が今直ぐ叩っ斬ってやってもいいくらいの人間なんだ。そいつに対して、『危害を加えるな』なんて、とち狂ってるにも程があるぜ!!」
「アラド、少し黙っていろ」
グラーツが辟易したように溜息を吐く。
「ロルカ隊員、俺の回答が何と答えるか分かっているよな?無論、そんな約束はできない」
グラーツは断固とした態度で跳ね除けた。
「その男はふん縛って強制連行する。抵抗すれば、痛めつけもする。死なない程度にな。もちろん、その男だけでなく、お前も、徹底的に叩いて無力化したのち、拘束する。俺たちに剣を向ける限り」
ロルカがグラーツを苦々しげに睨め付ける。
初めてロルカから感情変化らしい表情が現れた。それだけグラーツという男の存在は、ロルカにとっても脅威ということなのだろうか。
なにせ、あの激昂したアラドを言葉一つで引かせる程だ。
その実、この大男、言葉上は淡々としているものの、周囲に与える迫力はアラドのものを大きく凌駕する。
「さぁ、わかったら、そこを退け。ロルカ隊員」
「それは…………それだけは出来ない」
ロルカの手を持つ剣は震えていた。
「どうしてもか?」
コクリ。ロルカが首肯する。
「だったらどうする?その小僧を護って、俺たちと剣を交えるか?よもや、俺とアラドを相手に、お前が勝てるなどとは思っていないだろうな」
「…………」
沈黙は肯定の意。
アラドはともかく、グラーツに対しては、ロルカの実力などとうに及ばないことを、ロルカ自身、十分理解しているのだ。しかし、
「それでも、退かない」
「ふん。死ぬぞ?」
「……覚悟の上です。刺し違えてでも、あなた達を止める……!」
声こそ震えていたが、その目には確かな闘気が宿っていた。
ロルカは本気だ。本気でグラーツたちを止める気でいる。
それがグラーツにもありありと伝わった。
「チッ……どいつもこいつも、大馬鹿野郎共が」
グラーツは苦々しげに歯噛みした。
そして少しだけ思案し、
「アラド、引くぞ」
手にした剣を腰鞘に収めるような仕草をする。すると、剣は立ち所に青い光の粒になって霧散する。




