久々の冒険者稼業と、物理による街道整備
「お肉! お肉の串焼き100本買うための資金を稼ぐよ!」
「おー!」
王都の冒険者ギルド。
元気いっぱいに扉を開け放ったのは、我が道を行く16歳の双子、リーゼとロッテである。
普段は浮遊島でテオの絶品料理を食べている彼女たちだが、たまには王都の屋台のジャンクな味が恋しくなるお年頃。今日はお小遣い稼ぎのために、久々にギルドへやってきたのだ。
「えーっと、一番高くて、すぐに終わる依頼はどれかなー?」
双子がクエストボードの前で物色を始めると、ギルド内の空気がピリッと張り詰めた。
先日、彼女たちの「Aランク魔物ごと地形を消し飛ばした報告書」を受理した初老のギルド長は、カウンターの奥でサッと強力胃薬を準備した。
「……お、おい。あの双子、アレを取ろうとしてるぞ」
「バカ、目を合わせるな。国軍が動くレベルの災害指定依頼だぞ……」
周囲の冒険者たちがザワつく中、リーゼがベリッと一枚の羊皮紙を剥がし、カウンターへ持ってきた。
「おじさん! これ受けるね!」
「……『岩山喰らい(マウンテン・イーター)』の討伐依頼だな。よ、よかろう」
ギルド長は引きつった笑顔でハンコを押した。
『岩山喰らい』。王都と隣国を繋ぐ主要な街道に突如として居座った、全長50メートルを超える巨大な岩のミミズである。硬い岩盤を食べては吐き出し、すでに街道を完全に塞いでしまっていた。
――数時間後。王都から少し離れた主要街道。
「うわぁ、本当に道が岩山みたいに塞がってるね」
「あ、あのデッカいミミズが犯人だ! ちょうど岩を食べてる!」
現場に到着した双子の目の前には、街道を塞ぐ巨大な岩の山と、その中で蠢く超巨大な岩ミミズの姿があった。
岩ミミズの表皮は鋼鉄よりも硬く、並の魔法や剣撃では傷一つつけられない。まさに生きた災害である。
「よし、お姉ちゃん! 私がアイツを引っこ抜くから、お姉ちゃんが細かく切って!」
「オッケー! ついでにこの邪魔な岩山もどかしちゃおう!」
作戦会議、わずか3秒。
ロッテはニカッと笑うと、腰を深く落とし、母の形見である鉄のガントレットに莫大な魔力をギュウウウッと圧縮させた。
「えいっ!」
ロッテが地面に向けて強烈なアッパーカットを放つ。
直接殴ったわけではない。地面を伝わった規格外の衝撃波が、岩ミミズの真下で大爆発を起こしたのだ。
『ギシャアアアアッ!?』
全長50メートルの超重量級モンスターが、悲鳴を上げながら、周囲の岩山もろとも上空数百メートルへと打ち上げられた。
「――『シッ!』」
その瞬間、リーゼが母の形見の長剣を抜き放ち、空中に向けて一閃、二閃、三閃と、目にも止まらぬ神速の剣圧を放った。
空中で無防備になった岩ミミズと巨大な岩山は、まるで豆腐のように綺麗な立方体にスパスパと切断され……ドスーン、ドスーン! と、寸分の狂いもなく元の街道へと落下してきた。
「ふぅ。こんなもんかな!」
リーゼが剣を鞘に納める。
ロッテの衝撃波で「完全に平らにならされた地面」の上に、リーゼが「綺麗に四角く切り揃えた岩石(とミミズの残骸)」が、まるで熟練の石工が敷き詰めたかのようにピッタリとパズル状にはまり込んでいる。
「わぁ! お姉ちゃん、道がすっごく平らで綺麗になったよ!」
「えへへ、私たちってば土木作業の才能もあるかも!」
巨大モンスターの討伐と、塞がれていた街道の復旧(超高精度の石畳化)。
国軍の大隊と一流の土木ギルドが数ヶ月かけて行うはずだった大事業を、双子は「おやつ代を稼ぐためのほんの数分の運動」として完遂してしまったのだ。
――その日の夕方。王都ギルド。
「……討伐証明部位として『綺麗に10センチ四方にカットされた岩ミミズの破片(数万個)』が納品された、だと?」
ギルド長は報告書を持つ手を震わせていた。
「は、はい。現場の確認に向かった職員によると、塞がれていた街道は、王城の中庭よりも平らで美しい石畳の道へと変貌していたそうです……。双子の剣圧と拳圧によって……」
「…………」
ギルド長は静かに引き出しを開け、胃薬を二錠取り出して噛み砕いた。
「まぁ……いい。被害を出さず、むしろインフラを完璧に整備してくれたのだ。何も問題はない。……ない、よな?」
「はい。ただ、あの道を今後『双子街道』と名付けるべきか、国境警備隊が頭を抱えているそうです」
そんな大人たちの苦悩など露知らず。
王都の広場では、討伐報酬の金貨が入った重い袋を揺らしながら、リーゼとロッテが満面の笑みでお肉の串焼きを両手に抱えていた。
「んーっ! やっぱり働いた後のお肉は最高だね!」
「ねー! 次はクレープ食べに行こっか!」
規格外の暴力で地形を平らにし、インフラまで整備してしまう双子の冒険者稼業。
彼女たちがギルドに顔を出すたびに王国の地図(とギルド長の胃壁)が更新されるのは、もはや逃れられない運命なのであった。




