小姑の威圧と、愛の料理対決
「――テオ君。お茶を淹れるわ」
「いえ、その……お義姉様? 私が淹れますから!」
王都近郊の浮遊島、そのキッチン。異様な緊張感が張り詰めていた。
セリア、王国最強の騎士団長。その美貌とストイックさは王国の憧れだが、今この瞬間、彼女の瞳からは「人類最強」の覇気ではなく、「大事な弟をたぶらかした(?)小娘を排除する」という、どす黒い小姑の執念がメラメラと燃え上がっていた。
「いいえ、いいのよ。テオ君が一番落ち着くのは、私の淹れたお茶なの。……そうよね、テオ君?」
「え、あ、はい。セリアお姉ちゃんのお茶は美味しいですけど……マリー様、そんなに無理しなくて大丈夫ですよ」
12歳の万能少年テオは、キッチンの板場で困り果てていた。
セリアは最強の騎士として鍛え抜かれた完璧な所作で、ティーポットを構える。その所作一つ一つに、もはや「戦闘モード」のオーラが漂っている。対するマリーは、13歳にして魔力20,000という規格外の才能を持つ末っ子王女。彼女もまた、テオのためにと、王宮の教育で培った「愛の紅茶(激甘)」を淹れようと必死だ。
「私が……テオ君の隣に相応しいのは私です!」
マリーが震える手で紅茶を注ごうとすると、セリアが神速の動きで割り込む。
「テオ君は、私が幼い頃からずっと育ててきたのよ。あなたがた王族の道楽で彼を汚さないでいただきたいわ」
「そ、そんなつもりじゃ……!」
二人の放つ魔力のぶつかり合いで、キッチンに置いてある調理器具がカチャカチャと音を立てて浮き上がる。
シルヴィアがその光景を遠くから見つめ、またしても胃薬を口に放り込んだ。
「……もういいわ。あの最強の騎士団長と、王国の末っ子王女がテオ君を巡って争っているのね。私が介入できる問題じゃないわ……」
マリーの放つ魔力が、部屋の温度を急激に上昇させる。13歳にして上級魔術を自在に操る彼女の才能は、間違いなく「規格外」だ。
だが、それ以上に……セリアの背後に立つ「人類最強」の圧が凄まじい。
「テオ君はね、私の大切な家族なの。彼を狙うなら、私を倒してからにしなさい」
最強の騎士団長が、冗談抜きで剣に手をかけようとしたその時。
「あー、もう二人とも! どっちもお茶の準備とかいいから、この『クラーケンの触手』をさばくの手伝ってよ! 今日の夕飯に間に合わない!」
テオの無邪気な一喝が、キッチンの空気を氷解させた。
「「えっ……」」
セリアとマリーが同時に動きを止める。
テオは一切の迷いなく、両手に巨大なクラーケンの触手を抱え、包丁を突き出した。
「セリアお姉ちゃんは、その怪力でこっちを叩き潰して! マリー様は、その高魔力で火加減を……弱火で一定に保って! それができるなら、俺の手伝いとして認めてあげます!」
最強の騎士団長と、天才王女。
二人は一瞬顔を見合わせた後、テオの言葉に「了解!!」と叫んで、クラーケンの解体という「共同作業」に身を投じた。
……こうして、王国最強の騎士団長と、規格外の才能を持つ王女の愛の争いは、テオの夕飯作りによって強制的に解決されたのだった。
ちなみにその夜。テオの作った料理を食べたマリーは「おいしい……っ! テオ君と結婚したら毎日これが食べられるの!?」と顔を真っ赤にし、それを見たセリアは「テオ君の配偶者は、私が納得した相手じゃないと認めないわよ……!」とブツブツ言いながら最強の剣技を空に振り下ろしていた。
平和……なのかもしれない、この一家。




