王城への招待と、恋に落ちた末っ子王女
「お城のフルコース……!? いくいく! 絶対行く!」
「お肉! お肉食べたい!」
先日、海でのバカンスですっかり意気投合した第6子(三女)の王女ミリスから、「お城に遊びに来ない?」という招待状が届いた。最初は「堅苦しいのは嫌だ」と渋っていた双子のリーゼとロッテだが、『王宮専属シェフの極上肉料理』というワードに釣られて即決した。
「姉ちゃんたちだけだとお城を壊しかねないし、俺も行くよ。王都の市場で珍しい食材も見てみたいし」
というわけで、12歳の万能調理人・テオも付き添いとして王城へ赴くことになった。
(※ちなみにミラは「お城の蔵書はもう全部空間転移で読んだからいい」と留守番、ベルンも「王族に神眼がバレたら面倒だ」と居残りである)。
王城の豪華な応接室。
「よく来てくれたわね、リーゼ、ロッテ! それにテオ君も!」
豪奢なドレスを着こなしたミリスが満面の笑みで出迎えてくれた。
そして彼女の後ろには、ずらりと並ぶ見目麗しい男女の姿があった。
「紹介するわ! 私のきょうだいたちよ」
ミリスの言葉通り、そこには王国の頂点に立つ王族たちが勢揃いしていた。彼らは皆、王族特有の高い魔力と一流の教育を受けており、全員がSランク冒険者に肉薄するほどの実力者たちである。
「やれやれ。ミリスが城を抜け出して連れてきた平民と聞いてどんなものかと思ったが……」
と、少し疲れた顔で息を吐くのは、29歳の長男(第一王子)グラジオ。
その横で扇子を優雅に広げているのは、鋭い眼光を持つ27歳の長女(第一王女)リリア。
腕を組み、武闘派のオーラを放つ22歳の次男(第二王子)ダンデ。
魔導書を片手に知的な視線を向ける19歳の三男(第三王子)アスター。
そして、ミリスによく似た勝気な顔立ちの18歳の次女(第二王女)アイリ。
彼らの後ろには、まだ幼さを残す13歳の四女(第四王女)、末っ子のマリーが、もじもじと姉たちの陰に隠れてこちらを覗き込んでいる。
王族のきょうだいは男3人、女4人の計7人。ミリスはその中で6番目の子供(三女)にあたる。
「ふん。見たところ大した魔力も感じないが……本当にこんな小娘たちが巨大な古代の魔物を倒したというのか?」
次男のダンデが、値踏みするように双子を睨む。
「あー、お城ってなんか肩凝るね、お姉ちゃん」
「うん、お腹空いた。早くお肉出てこないかなー」
双子は王族のプレッシャーなどどこ吹く風。無意識に「んーっ」と伸びをした。
その瞬間。
双子の腰の長剣と鉄のガントレットから、制御しきれない暴力的な魔力圧がドロリと漏れ出し、応接室の分厚い大理石の床がピキピキと音を立ててひび割れた。
「「「なっ……!?」」」
先ほどまで余裕を見せていたグラジオやリリアたち兄姉が、一斉に顔色を変えて武器や杖に手をかけた。
自分たち王族(Sランク相当)の魔力など束になっても敵わない、次元の違う「純粋な暴力」の気配。
「ミ、ミリス……! なんだこの化け物(双子)たちは……!」
「だから言ったでしょ? 私の剣よりずっと強いって」
ミリスが得意げに胸を張る中、王族たちは滝のような冷や汗を流し、「こ、こやつらを怒らせてはいかん……城が消し飛ぶ」と即座に態度を改めた。
一方その頃。
緊迫(?)する兄姉たちから少し離れた場所で、13歳の末っ子王女マリーは、緊張のあまり手元を狂わせていた。
客人をもてなそうと、自分でティーポットを持ってお茶を淹れようとしたのだが、手が震えて滑り落ちてしまったのだ。
「あっ……!」
ガシャン、と陶器が割れ、熱湯がドレスにかかる――はずだった。
「危ないですよ、マリー様」
――フワッ。
マリーの目の前で、落ちるはずのティーポットが空中でピタリと静止した。
エプロン姿の少年、テオが指先を向け、無詠唱かつ無動作で『風』と『重力』の魔術を完璧にコントロールしたのだ。
それだけでなく、こぼれかけた紅茶の温度を『火』と『氷』の複合魔術で瞬時に適温(85度)に調整し、マリーが持っていたカップへと一滴の狂いもなく注ぎ入れてみせた。
「はい、どうぞ。王宮の最高級茶葉ですね。この温度が一番、香りが引き立ちますよ」
テオは優しく微笑み、カップをマリーに手渡した。
「あ、あ、あの……!」
マリーは、目を見開いてテオを見つめた。
王族として高度な魔術教育を受けている彼女だからこそ分かる。今、目の前の少年が息をするようにやってのけた「一切のノイズがない、完璧すぎる魔力循環」が、どれほど異常で、どれほど美しいものか。
そして何より、12歳という自分より一つ年下でありながら、この包容力と完璧な身のこなし。
マリーの顔が、一瞬にして真っ赤に染まった。
トクン、と。13歳の小さな胸が、これまでにないほど大きく跳ねる。
「て、テオ君……だよね? わ、私……マリーって言います……! 助けてくれて、あ、ありがとう……!」
「どういたしまして、マリー様」
そのやり取りを見ていた上の兄や姉たち(特に19歳の魔術派の三男アスター)は、
「な、なんだあの少年は!? 魔術の深淵に至っているぞ!?」
と再び泡を吹いて驚愕していたが、マリーの耳にはもう何も入っていなかった。
その後。
王宮のフルコース肉料理を平らげた双子は、「んー、お肉は美味しいけど、味付けはやっぱりテオの方が好きかな!」と豪語し、ミリスも「分かる!」と激しく同意。
帰りがけ、もじもじとテオに歩み寄ってきた末っ子のマリーが、上目遣いで彼の袖を掴んだ。
「あ、あのね、テオ君……! 今度、お茶の淹れ方とか……お料理とか、私に教えてくれないかな……?」
「ええ、もちろん。俺でよければいつでも」
爽やかに笑うテオの姿に、マリーは完全に恋に落ちてしまった。
かくして、規格外の双子が王族たちにトラウマ(と畏敬の念)を植え付けた裏で、万能の裏方少年は、図らずも一国の末っ子王女のハートを完璧に射抜いてしまうのだった。
【花言葉モチーフの王族きょうだいたち】
長男(29):グラジオ(グラジオラス:勝利、用意周到)
長女(27):リリア(百合/リリィ:威厳、純潔)
次男(22):ダンデ(タンポポ/ダンデライオン:神託、力強さ)
三男(19):アスター(紫苑/アスター:追憶、知恵)
次女(18):アイリ(アイリス:希望、吉報)
三女(16):ミリス(アマリリス:誇り、輝くばかりの美しさ)
四女(13):マリー(マリーゴールド:変わらぬ愛、可憐)




