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第39話 今のお姉ちゃんね、少女漫画読んでるときの顔してるよ

「お姉ちゃんも花火大会行くの?」

「友達と一緒に行くつもり」

「じゃあさ、行きと帰りは一緒に行こうよ」


夜道怖いし、と妹は口にした。



今日は花火大会。

通学する道中の川沿いで開催される。



「誰と行くの?」

「…友達とか」

「とか?」

「とか」


含みのある言い方が気になったけど、あまり聞いてほしくなさそう。


深くは追及しなかった。



まだ明るい夕方、私たちは家から出た。


どちらとも普通に外出するときの服装。

浴衣は流石に着ないかな。


動きにくいし。


「中学校はどう?」


何気なく尋ねる。


「結構楽しいよ」

「好きな人とかできた?」

「遠慮なく聞いてくるじゃん」

「あえてね」


あえて、と呟きながら目的地に向かう。


「お姉ちゃんはどうなの?」

「中学校の頃と変わらないかな」

「私は小学校の頃と変わらないけど」



信号を渡ると、目的地の少し手前に夜野さんがいた。


「意外と早めに来てたんだね」

「今着いた」


応える夜野さん。


3人で目的地に向かう。


「夜野さんも浴衣は着てないか」

「着ないね」


こっちは付き添いのつもりだから、と付け加える。


てかさ、と言って夜野さんは続ける。


「私が今日来る必要あった?」

「もちろん」

「だって『おしゃれな浴衣が見たい』みたいなこと言ってたじゃん」

「むしろ花火大会に行って何を見るの?」

「花火でしょ」


花火大会で花火は脇役だと思ってた。

漫画とかだったら見開き1ページの背景だし。


「前家に来た時にも思ったんですけど」


妹が丁寧な口調で話しかけているから、おそらく夜野さんに言っているのだろう。


「意外ですよね、お姉ちゃんと仲が良いって」


だってお姉ちゃん、人と関わるときはちょっと距離とるからと補足した。


人並みに距離を取ってるつもりなんだけど。


「まぁ私も人と距離取るし、似たようなものかな」

今回誘ったのはグレーゾーンだけど、と夜野さん。


グレーゾーンってことは、四捨五入したら白だし無問題だね。




目的地に到着。


帰りは何時にここに集合することを確認して妹と別れた。


夜野さんと2人で歩き始める。


「思ったより浴衣着てる人いないね」


周囲を見渡しても、浴衣姿の人はそこまで多くなかった。


「もうちょっとしたら増えるんじゃない?」


花火大会が始まるの、まだあと1時間ちょいあるわけだし、と応える夜野さん。



屋台でたこ焼きを買った。

どこか座れる場所がないか探す。


河川敷の土手のところで、なるべく綺麗な場所を探して腰を下ろした。


夜野さんはスマホを眺めているので、私も真似してスマホを取り出す。

たこ焼きを口に入れながら、特に会話もせずに時間を潰した。


「あれ、もしかして深山さん?」


背後から呼ばれた気がしたので振り返る。


そこにいたのは秋谷さんたち。

5人くらいのグループだった。


「秋谷さんも来てたんだね」

「うん」


人込みとか嫌いなんだけど、と小声で伝えられる。


たくさん友達がいると大変だね。

秋谷さんにリスペクトだ。


他の女の子とは特に面識もないし待たせたら悪い。

そこで秋谷さんとは別れた。


「そういえば秋谷さん、夏休みに水族館行ったみたいな投稿してたな」


しばらくしてから夜野さんが呟いた。


「ちなみに夜野さんは水族館行ったことある?」

「何回かあるよ、結構近いし」

「私、行ったことないんだよね」

「深山が水族館に行ったことがない、という事実だけ受け取っておこうかな」


まぁそうなるよね。


あまり気にしないで遠くを眺めた。

浴衣を着ている人も増えてきている。


遠くからだと流石によく見えないけど。


「…そういえば、浴衣見てどうするつもりなの?」


おもむろに夜野さんに尋ねられた。


「ごめん、その前に夜野さんに聞きたいことがあるんだけどさ」

「なに?」


そう言ってスマホから顔を上げる。


「夜野さんって沈黙が我慢できないタイプ?」

「相手が聞く姿勢だったら私が話した方がいいのかなって思うけど」

「へぇー…・・」

「ちょっと、私のこといじめようとしてない?」


まさか。


「で、なんだっけ、私が浴衣を見てどうするか?」


夜野さんは頷く。


「まぁ正直、赤の他人の浴衣姿なんて見ても大して興味湧かないよね」

「本当に正直だ」


私が来た意味ないじゃん、と呟く。


「ただ、何か起きないかなって思って」

「何かって?」

「ほらあるじゃん。約束もしていないのに彼とばったり遭遇、みたいな出来事!」


逆に約束もしないしばったり遭遇もしない作品があるんだったら斬新だと思う。


「フィクションの話?」

「いや?」

「残念だけどこの世界はフィクションじゃないから」


そういう予定調和みたいなことは起きないと思うよ、と夜野さん。


「じゃあもし、ここでなにか起きたらこの世界はフィクションっていうことだ」

「まぁそれでいいけど」


そういって夜野さんは残り1つのたこ焼きを口に入れた。


「ごめん親から電話きた」


そういって夜野さんは離れていった。



なんとなく夜空を眺める。

今日の月はいつもより大きいような気がする。


「…あれ、深山さん?」



100点のタイミングで、77点くらいの人物に声を掛けられた。



「ここで浴衣を着てないってところに、ある意味物語を感じるね」


そう言って後ろを振り向いた。

そこにいたのはいつもと変わらない吉川くん。


まぁお隣どうぞ、と私が座っていた場所を譲る。

どうも、と言って吉川くんは腰を下ろした。


「夏休みどうだった?」


吉川くんに尋ねる。


「ほとんどいつも通りだったかな」


友達とゲームしたり、水族館に行ったり、と説明する。


「ふーん」


適当に相槌を打つ。


え、水族館?

そういえば、秋谷さんも水族館行ったって聞いたな。


「ちなみにいつ行った?」


流石に誰と行ったかを直接聞くのはどうかなと思い、日にちだけ確認する。

吉川くんの話を聞きながら、秋谷さんの投稿を確認する。


同じ日だった。


まぁ別にいいんだけど?

いいんだけどね。

へぇーそっか…


「深山さんはどうだった?」


吉川くんは普通の様子で私に尋ねてきた。


「宿題して、ご飯食べて、寝てただけかも…あ、待って、そういえば私ネット小説読んだ」


前に吉川くんが教えてくれたヤツ、と言いながらそのサイトを見せる。


そこで少し話が盛り上がった。

どういう作品を読んでるか、それを見てどう思ったか、などなど。



「あ、始まったじゃん」


どちらともなく呟いた。


花火が夜空に咲く。

思い返せば、生で見るのは数年ぶりかも。


小休止に入ってから私は吉川くんに話しかける。


「花火と言えばさ、ちょうど花火の音がセリフをかき消すみたいなシーンあるじゃん」

「あるね」


少女漫画とかでもあるの?と聞き返された。


うん、と頷いてから続ける。

「あれさ、実際どうなるか試してみない?」

「いいけど」


何をするの? と花火を見ながら吉川くんが尋ねる。


「花火の音と同時にこれを言って」


スマホで文を入力し、吉川くんに送信する。


「え、これ言うの?」

「むしろ花火の音が鳴ってるときに「花火綺麗ですね」なんて普通のセリフを相手が言ってると思う?」

「まぁそうだけど…」


吉川くんは周りを確認してから、ちょうど花火が打ちあがるタイミングでセリフを耳打ちする。



「愛しているよ、かなでちゃん」



「全然聞こえるじゃん」

やっぱああいうのってフィクションなんだね、と感想を告げる。


「コレ、僕が恥ずかしいだけじゃない?」

「大丈夫、私にはちゃんと聞こえたから!」

「ちゃんと聞こえてるのが問題なんだけど」


吉川くんを横目にぱたぱたと手で顔を仰ぐ。


その後は黙って花火を見続けた。



「次は二学期かな」

「そうだね」


じゃあまた、と言って私たちは別れた。


ひとりになってすぐ、夜野さんが近づいてきた。


「夜野さん電話長かったね」

「電話自体はすぐ終わったんだけどさ」


深山の隣に吉川くんがいたから、と夜野さん。


「じゃあどうしてたの?」

「離れたところで立って見てた」

「ごめん、帰りに何か奢るよ」

「まぁそれでチャラにしてもいいかな」


人の流れに沿って、私たちは目的地に向かう。


「さっき何してたの?」

「何って?」

「なんか吉川くん、深山に耳打ちしてなかった?」

「うん。花火の音で隣にいる人の声が本当に聞こえなくなるか試してたんだ」

「…また面倒なことを」


で、どうだった?とそこまで興味がなさそうな感じで聞いてきた。


「えっとねー…ごめん、ちょっと待って」


手で口元を隠す。


「まぁ、あんまり聞こえなかったかな?」

「なんで疑問形?」


そう言って夜野さんはこちらに視線を向ける。


「完全に聞き取れなかった、みたいな?」

「なんか口角上がってるけど」

「いや?」

「いやってなに?」

「とりあえず否定だけはしておこうかな、って…」


集合場所に妹が立っているのが見えた。


「どうだった、楽しかった?」


話を変えるために妹に話しかける。


「結構楽しかったよ」

「ほら、こういうところで素直に楽しかった、って言えるところが違うよね」

「お姉ちゃんは何やっても、まぁまぁだったかな、っていうもんね」


帰りは、夜野さんと妹が話で少し盛り上がった。


主に私の話で。


途中のコンビニで買ったデザートを夜野さんに献上して別れた。



「お姉ちゃんさ、花火大会でなんかあったでしょ」

「いや、別に?」

「絶対嘘じゃん」


なんかいつもと違うし、と妹は付け加える。


「そんなことないよ?」

「今のお姉ちゃんね、少女漫画読んでるときの顔してるよ」


なにその顔。


「それはこっちのセリフだけど?」


妹の話にすり替える。


「私はいいことあったし」


素直に応えた。


「へぇー…」

「聞く雰囲気出してるけど、お姉ちゃんが言わないと教えないから」


あと、適当なこと言って私に本当のこと言わせるのもナシね、と釘を刺される。


「…まぁ、嬉しいことは胸に秘めておくべきだよね」


お互いに恥ずかしい思いをするのはごめんだ。


「ほら、やっぱりいいことあったんじゃん!」


妹のほうが一枚上手だった。

その後は当たり障りのない会話をして、家に到着した。




お風呂に入り、ベッドで寝転がりながら漫画を読む。


そういえばさっき、妹に「少女漫画を読んでるときの顔してる」って言われたな。

少し読み進めてから、スマホのカメラを自撮りモードにして確認してみた。


ちょっと口元緩んでるけど、そんなに変な表情はしてないじゃん。


やっぱりいつも通りだって。


一通り満足してから私は部屋の電気を消した。

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