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金持ちの青年と居候の少女  作者: 燈華
第一章 とにもかくにも日常編

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少女と青年と青年の友人1

「本当は別に会わなくてもいいと思うんだけど、もう会っているし、一応ちゃんと紹介しておくね」

「おいっ!」


男性が慌てたように突っ込む。

青年はそれを取り合わない。

淡々と名前だけを告げて紹介を終えた。


「もっと他にもあるだろうが」

「何? 腐れ縁とでも言っておけばいいのか?」


男性が溜め息をついて少女に苦笑を向ける。


「まあ、親同士が仲良くて幼い頃から知っている幼馴染みなんだ」

「だから仲がいいんですね」

「ん? そう見えるか?」

「はい。貴方には遠慮がありませんから」

「気を遣う必要がないからだよ」

「それが仲良しということではないのですか?」


怫然とした顔で青年が黙り込む。

素直じゃないと微笑ましくなる。

目を丸くした男性がにやりと笑う。

青年が男性を睨むが、彼はさらりと流している。

本当に仲がいい。


にこにこと微笑(わら)っていると男性の視線が少女に向いた。


「彼女のことも紹介してくれよ」


青年が渋々と頷いて紹介してくれる。

少女の名前を聞いて何故か男性が驚く。


「どうしましたか?」


軽く首を傾げて訊けば我に返ったようだ。

男性は少し眉尻を下げて微笑(わら)う。


「悪い。珍しい名前だと思ってな」


ああ、と納得する。


「この国の人間ではないので」

「近隣、ではないよな?」

「そうですね。遠い、国です」

「そうか」


何事か考えるように男性は黙り込んだ。


どうしたのだろう?

この国は閉じているわけではないと聞いているのだけど。


少女が困惑していると青年が怫然として言う。


「手続きは僕のほうできちんとやったよ。不法滞在ではないよ」

「ああ、まあそうだろうな」


気のない様子で頷いた男性の視線が少女に向く。


「文字のほうは読めるのか?」

「簡単なものでしたら」

「そうか」


また考え込む。

青年はそんな男性を不機嫌に睨む。

それさえも気にしない、というより気づいていないようだ。


このままでは青年がもういいかと退室させてしまいそうだ。

それでは失礼だ。

だが少女では青年を止められない。


少女がはらはらしていると、青年がそれに気づいたのか苦笑した。

どうやら少女の気持ちを慮ってくれたらしく待つ態勢になる。


やがて考えることを終えたのか男性が伏せていた視線を少女に向ける。


「今度絵本を贈らせてくれ」


青年が男性を睨む。

男性はそれを気にせず少女を見ている。

その視線がどこか緊張したような真面目なもので。

何かあるのかと不安になる。


「絵本、ですか?」

「ああ。この国の信仰についての絵本だ」

「ああ、それは是非知りたいです」


信仰というのは馬鹿にできないものだ。

それによって戦争が起きることもあるのだ。

きちんと知っておくべきことだった。


「ああ、それはよかった」


男性の表情が緩む。

拒否されると思ったのかもしれない。

少女は学ぶことが好きだが、それは一度会って少し立ち話したくらいの男性には知らないことだった。


「ありがとうございます」


男性が微笑む。


「いや。我が国(うち)のことを知ろうとしてくれて有り難い」


少女は緩く首を振る。

暮らしていくならその国のことを知ろうとするのは当然だ。

知ることで無駄な諍いも避けることができる。


そんな少女に男性は微笑みを浮かべる。

それから存外鋭い視線を青年に向けた。


「本来ならお前が用意すべきものだったんじゃないか?」


青年はわずかに顔をしかめた。


「順番ってものがある。そのうち用意するつもりだったんだ」

「信仰のものはどう考えても早めがいいだろうが」

「いろいろあるんだよ」


青年が段階を踏んで勉強させてくれていることには気づいていた。

少女もつい文化面での違いに慣れることを優先してしまっていた。

それで青年が叱られるのは申し訳ない。


「いろいろ、ね」

「そう、いろいろとね」


青年と男性の視線がぶつかり合う。

そのまま少しの間睨み合いが続いた。

はあと男性が溜め息をつく。


「これ以上は俺が口出しすることじゃないか」

「そうだよ」


男性は少女に視線を向けた。


「もし何か困ることがあったら相談してくれ。この男に迷惑をかけられた時も相談に乗る」

「ありがとうございます」

「わざわざお前に相談する必要はない。僕か屋敷の者にすればいい」

「お前への文句を屋敷の者に言えるわけがないだろうが」

「それは僕に直接言えばいい」

「言えないこともあるだろう」


青年の視線が少女に向く。


「僕は何を言われても怒らないから何でも言ってほしい」

「ええっと、はい」

「約束だよ? 必ず僕に言ってね?」

「はい。何かあったら相談しますね」

「何にもなくても話してほしい」

「はい」


青年は満足そうに微笑(わら)う。

男性はやれやれと肩を(すく)めている。

それから男性は少女に苦笑して見せた。


男性の口が動く。

声を伴わずに告げてくる。


ーーいつでも相談に乗る。


それに少女は感謝の念を込めて微かに頷いた。

読んでいただき、ありがとうございました。


誤字報告をありがとうございます。訂正してあります。

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