浮世離れした2人
雲嵐の出征を見送った後、暗い顔で官庁へ向かう。
そんな日に仕事に来なくてもいいと言われたけれど、何かしていた方が気が紛れる。
ぼーっと馬に揺られ、賢い馬に宮廷の広場へ運ばれる。雲嵐のバカ。雲嵐の大バ、、、
黒地に薄紫の花、それを縁取る銀の刺繍。満開の笑顔に、心を覆っていた黒い雲が吹き飛んだ。
「香香、サンザシ飴はどこに売っているかしら?」
いつもいきなり。
「瑞華様! お一人で出歩かれているのですか?」
「魅音も近くにいます。サンザシ飴を探してもらっています」
私はすとっと馬から降り、両手を合わせてお辞儀をした。
「あら。もう私は皇帝の娘でも何でもないから、頭を下げる必要なんてないのですよ」
「皇帝の崩御、心よりお悔やみ申し上げます」
「丁寧にありがとう。でもね、私はほとんど話したこともないのです。亡くなられ方も、寂しい埋葬も哀れだとは思ったけれど、どこか知らない世界の遠い人のようなのです。それよりも、サンザシ飴を」
「瑞華様、今、サンザシ飴の季節ではありません。だから売っていないのです」
「そうなの。残念。魅音ももうすぐ戻ってくるでしょう」
「今、後宮でご不便はありませんか?」
「ええ。人は減りましたが、前とそれほど変わりません。あ、魅音が戻って来ました」
白馬で魅音さんが登場。サンザシ飴が手に入らなかった魅音さんは、片手で手綱を握り、もう一方の手に焼き鳥をごっそり持っていた。いつものことながら、この2人って、浮世離れしてる。
魅音さんに焼き鳥を1本いただきました。いつもだったらその場で齧りついてる。でも、遠慮しちゃったよ。熱々がうまうまなんだけどね。
で、仕事の後、後宮に遊びに行くことになった。というか、お泊まり。後宮だよ、後宮。
どんなきらきらしたとこなんだろ。美人ばっかかな。わくわくのどきどき。
「後宮へ行くのですよ」
自慢げに話したら、李氏様から「皇帝の墓参りをするように」と言われ、供物を用意された。
すでに旧体制は崩れているので、後宮への出入りは自由。けれど、皆、以前と同じように、後宮へは足を踏み入れない。皇帝のご遺体が安置されていた場所も墓も後宮の敷地内なのだそう。
死後、皇帝の棺の側にまで行ったのは、墓掘り人や僧の他は、後宮の者達だけ。
「内閣府長もですか?」
「男は誰も入らない。後宮は宦官だけだ」
後宮の中、皇帝の寝所があった建物は、火事の痕が生々しかった。焼け崩れた黒い木々が横たわる。
墓は、後宮の外れにぽつりとあった。一般の人より多少大きめの石の墓標があっただけ。隣には、皇帝の息子2人と孫の墓標。妃達の墓は離れた場所にあった。
本来だったら皇帝は、寺を建てて祀るのに。
妃を殺し、息子を殺し、孫を殺し、首を吊った。計り知れない孤独。生も死も死後も。成仏してください。
合掌。
後宮は想像以上に女だらけ。あっちにも女、こっちにも女。
建物も調度品も素晴らしく、きらっきらな世界。
「皇后様は、皆に、自らの身の振り方を考えるようおっしゃったのです。特定の人は、ここに残るように言われているのですが」
「特定の人とはどなたなのですか?」
「外国から嫁いだ妃や高原地域から嫁いだ妃、北部から嫁いだ妃です」
「人質として価値のある人というわけですね」
「ええ」
「あの、今日、魅音さんはどうされたのですか?」
いつも瑞華様の傍にぴったりと仕えているのに姿が見えない。
「魅音は火事のときに知り合った人と、ちょっと」
あ”ー。そーゆーことね。オトコ。後宮縛りがなくなったもんね。変わり身早っ。
「瑞華様はどうされるのですか? 北の国へのお輿入れは自然消滅なのでしょうか?」
結婚嫌がってたから、この状況は嬉しいかも。
「それが」
「それが?」
「文を書いたのです。皇女でない私は結婚する価値のない女ですと。そうしましたら……」




