チエガとマグネダル その4
「ホントなの、ビアンカ」
「まあね。家が金持ちなだけで、あたしには関係ないわ」
アンナが訊くとビアンカはこともなげに言う。
「レイズ家は宿泊施設をたくさん持っていてな、安価な安宿から高価な高級ホテルまで幅広くやっていて[ホテル王]とまわりに呼ばれている。
おかげでギルドには入ってこない情報を泊り客から得て、それを商売にも役立てている。
ワルダーもその情報が欲しいからレイズ家には一目おいているのさ」
チエガの言葉にアンナは疑問を持つ。
「ならビアンカはどうしてギルドで働いてるの」
「あたしは家を継ぐ気ないもの」
「どうして」
「父は婿をとって跡継ぎにする気なの。あたしに仕事をさせる気ないのよ。女はなめられるからっていうから。だったら婿じゃなくて養子でもいいじゃない。あたしには関係ないわ、だからひとりで生きていけるように働いてるの」
「そのわりには家を利用しまくってるだろ。自分ところのホテルとか、とっかえひっかえの遊び相手に使ってるの知ってるぞ」
チエガの言葉にアンナはビアンカをじろりと睨む。
「いーじゃんべつにぃ。今のところはウチのモノだしぃ」
「変わらないな。で、なんで来たんだ。というかアンヌとどういう関係なんだ」
チエガの質問に、ビアンカはもじもじしながらアンナの腕をとる。
「えへへ〜、こういう か・ん・け・い」
顔を蕩かしアンナにじゃれつくビアンカを見て、アンナの正体を知ってるチエガはさすがに驚く。
「え、まさか、ホントなの?」
「ホント、ホント。アンヌはあたしの こ・い・び・と」
「ちがいます」
ビアンカを引き離しながらアンナは否定する。
「ビアンカ、貴女が私を襲おうとしたの許してないわよ。勝手に恋人にならないで」
「い〜じゃん、過ぎたことだし〜。あんなに燃えたじゃない〜」
「私は燃えてないわよ。ジャマだから離れてなさい」
冷たく言いはなされて、またもやしゅんとするビアンカ。
チエガはなにがあったか、大体を察した。
「チエガ、話を進めるわよ。ビアンカからだいたいのことは聞いたわ。ワルダーに仕返しをするつもりなの」
「あたりまえだ。こんな目にあわされて泣き寝入りできるか。この手でワルダーを殺す──うっ」
チエガが赤髪で隠れた右目を押さえる。
「どうしたの」
「なんでもない。とにかくアンヌの仲間になる気はない、帰りな」
チエガの言葉にビアンカが驚く。
「え、アンヌそれどういうこと。チエガを旅商人にするつもりなの」
「旅商人?」
今度はチエガが訊ねる。
「あー、ビアンカ、私はとある部族の族長の娘なの。今のままでは部族の先行きが暗いから、優秀な人材が欲しいのよ。それで旅商人になってそういう方を探してるの」
「ああそういうこと。どうりで所作が洗練されてるわけだわ。でもなるほどねぇ、チエガに目をつけるとは流石だわ。あたしの恋人だけはあるわね」
「恋人じゃないの」
「でもチエガ、そういうことならアンヌの仲間になったら? ここで居座っても嫌がらせ程度にしかならないわよ」
「うるさいな、関係無いんだから引っ込んでなよ。ワルダーをこの手で──うっ」
またもや右目をおさえるチエガ。
「チエガ、右目が痛いの?」
アンナが訊ねると、チエガは赤髪をずらして右目を見せる。
右目は──縦に切られた傷があり、その周辺には黒いモヤが漂っていた。
「それは」
「ワルダーに傷つけられたのさ、ペズンナイフでな」
「ペズンナイフ?」
「[呪物]さ。それで切られると[切った相手への怨みを痛みに変える呪い]に苛まれるナイフだ」
チエガが吐き捨てるように言うと、ビアンカが眉をしかめる。
「ワルダーに? え? チエガがワルダーを襲ったんじゃないの」
「ちがう! 私がワルダーに襲われたんだ」
「どういうこと? 何があったか教えてよ」
ビアンカの問いに、忌々しそうにチエガは話しはじめる。
「……私がギルドにいた頃、ワルダーは仕事を全部任せて贅沢三昧をしていた。
ワルダーは賢い。だがそのうえに[悪]とか[ズル]がつくがな。アンヌ、ビアンカ、[ヒトを動かす力]とは何だと思う」
「そんなもんカネと愛に決まってるでしょ。ねぇ〜アンヌ〜」
ビアンカは即答する。
「アンヌは?」
「……ビアンカの言うカネ、つまり[財力]。それと組織ならば[権力]、あとは残念ながら[暴力]かしら」
「そう。ふたりが言う通り[権力][財力][暴力]そしてビアンカのいう愛は[魅力]という力と言い換えられる。この4つがヒトを動かす力だ。
ワルダーはグランギルマスとして[権力]を持っている。同時に[財力]もな。だからギルド職員である私は従うしかなかった。ここまでは仕方ないし、正直ワルダーが口を挟まない方が仕事がまわってやりやすかったよ。
アンヌ、ワルダーに会ったことは?」
「あるわ」
「どう思った」
「え〜っと……愛人にならないかと誘われたわ。丁重に御断りしたけど」
「はあ!? あたしのアンヌにそんなこと言ったのぉ!!」
「ビアンカ、静かにして。何も無かったんだから。だから好ましい方ではないと言わざるをえないという感じかしら」
「ふふん、アンヌらしい言い方だな。素直に[嫌なヤツ]でもいいんだぜ」
「それじゃ、チエガと同じよ、に言い直すわ」
これには4名とも笑うしかなかった。




