チエガとマグネダル その3
「斬りかかったって、どうしてなの」
「グランギルマスのワルダーがいなければ、[トレダの街]を乗っ取れるから凶行に及んだ──っていうのが、公式の動機」
「違うの?」
「実際は、贅沢三昧で怠けているワルダーを諌めるために意見を言ったら傷つけられた。というのが真相らしいわ」
「らしい?」
「なにせチエガはすぐにクビになって[資格無し]になっちゃったから、直接は聞いてないの。噂話によるとたぶんそうじゃないかなぁって」
「家族やヤシンからは何も聞いてないの」
「トレダのトップを襲おうとした大スキャンダルだからね。
カーター家はお取り潰し、ヤシンも含めて[資格無し]になるところを、チエガが全部背負って免れたの。
実際はヤシンまでクビにしたら仕事がまわらなくなるから、ワルダー側が全部押しつけたってところかしら」
「それで北部スラム街に来たと。なんで北部スラム街にしたのかしら」
「そのちょっと前にマグネダルがギルマスをクビになって[資格無し]になってたから、頼ったんじゃないかなぁ」
「チエガとマグネダルは知り合いだったの」
「う〜んどうだろう。ギルマスだったから顔見知りくらいならあるかも」
「そう」
アンナは何か裏があるような気がしたが、それが何なのかわからなかった。
「ありがとうビアンカ。それじゃあ気をつけて帰ってね」
アンナは資料を返すと素っ気なくご苦労様と、チエガのところへ向かう。
「えっ、ちょっ、ちょっとアンヌ、それだけ? 御褒美わ? 御褒美わぁ〜?」
ビアンカが半泣きで追いすがろうととしたが、シンシアがさり気なく間に入って阻止する。
「だから本当に危ないから帰りなさい」
「はあ? アンタなによ、ジャマしないでよ」
「ジャマなのは貴女よ。夜のスラム街で自分を守れるの」
「ふん、大したことないわよ」
ムキになるビアンカに、シンシアは振り向きざまいきなり背負って投げ、地面に叩きつける。
「いっ……痛ったぁ……」
「私はアン──ヌの護衛よ。せめてこれをかわせるくらいじゃないとムリだから帰りなさい」
シンシアは突き放すように言うと、アンナとともに先に進む。
「ちょっと──待ちなさいよ。あたしはチエガの同期なのよ、連れてきなさい、役に立つから、でなきゃ勝手についていくわよ」
痛みをこらえながら立ち上がり、それでもついていくという。
アンナはやれやれと、シンシアに連れて行くように命じた。
※ ※ ※ ※ ※
絡んでくる小悪党をアンナとシンシアが撃退しながらすすむ。そしてチエガの砦にたどり着いた。
「や、やっと着いたぁ。重かったぁ〜」
アンナ達は戦いやすいように荷物をビアンカに持たせていた。
「そのくらいの荷物で弱音を吐くなんて」
「こっちは事務方なの。ペンより重たいものなんて持ったことないのよ」
シンシアに噛みつくビアンカに、まだ元気があるなとアンナは笑う。
「さてと。チエガー、ビアンカよー、夜遅くに悪いけど入れてー」
──反応が無い──
「チエガー、入れてってばー」
──反応が(省略)──
「チエガー」
──反応(省略)──
ブチッ
「チエガ、入れろってんの、いい加減にしないとアンタの恋愛遍歴全部ぶちまけるわよっ、子供の頃好きな子の前でお漏らししてフラれたこととか──」
「うるさいっ、こんな夜中に迷惑かけるなっ」
ようやく返事があり、砦の大門が少し開く。そしてチエガが腕を組み不機嫌そうに出てきた。
「まったく相変わらず慎みがないわねぇ。相変わらずとっかえひっかえ遊んでるのかい」
「まあね」
皮肉を言ったのに軽く流されて、チエガはよけい不機嫌になる。
「まったく……。それにしてもまた妙な組み合わせで来たな」
チエガはアンナに話しかける。
「夜遅くに来てごめんなさい。子供たちはもう寝てるかしら。お土産を持ってきたわ」
「そうよ、このあたしが担いでいたんだから受け取りなさいよ」
「ビアンカ、少し黙って」
「……はい」
アンナがぴしゃりと言うと、ビアンカはしゅんとなる。
アンナとビアンカのやりとりに、またしてもチエガは妙だなと顔をゆがめる。
「ビアンカ、アン──」
「アンヌは冒険者としてギルドに登録して、ビアンカ嬢はその時の担当です。私はアンヌの護衛でシンシアといいます」
シンシアがかぶさるように早口で言うと、それで何かあると察したチエガは、話を合わせることにした。
「……とりあえず中に入りな。やれやれ、最近は騒がしいことが続くな」
※ ※ ※ ※ ※
普段は子供たちの遊び場なのだろう。それなりに広い場所に案内され、テキトーな物でイスとテーブルを用意された。
「ちょっと、応接用のイスとかテーブル無いの」
「うるさいな、ほとんど誰も来ないから要らないんだよ」
「それにしたって」
「ビアンカ、お嬢サマのお前と違ってこっちは[資格無し]なんだ。贅沢言うな」
チエガとのやりとりにアンナが聞きとがめる。
「ビアンカ、お嬢サマってどういうこと」
「えっと〜」
代わりにチエガが言う。
「なんだ知らないのか。ビアンカは[トレダの街]では有数の大金持ちレイズ家の娘だぞ」




