ファーレン・オアシス
リアードはわたしを丁度10年前に拾ったと言っていた。
つまりこの人と最後に会ったのは10年以上前、わたしが2歳より下の頃だ。
記憶なんてあるわけない。
なのにどうしてこんなに胸がざわめくのか。
ルアにはまだ理解出来なかった。
「この人が、わたしの、お母さ、ん」
何か引っかかる感じはあるが、実感は湧かない。
それに例えこの人が本当の母なのだと言われても、わたしを今日まで育てたのはリアードだ。わたしの中の母さんはリアードだということは永遠に変わらない。
わたしを産んだ人が、聖女だということも信じられない。
絵の中の女性は水色のレースの衣装に身を包み、こちらを向いて微笑んでいた。その姿はとても綺麗で、胸元には、わたしが持っているものとそっくりな石のペンダントが輝いていた。
絵を指でなぞる。
シェーラ様より、少し年上ぐらいだろうか。
「これが、ファーレン・オアシスが使っていた輝石よ。見て、似たような模様があるでしょう」
人物画の横に石の絵もあった。
薄く青みががっていて、濃淡が綺麗だ。
そして模様もペンダントの金具も、確かにわたしのとそっくり。
「髪の色や顔立ちも似ているし、確かにルアちゃんは、ファーレン・オアシスの子供だと思うの」
自分の髪を指でつまむ。
誰かが洗ってくれたのだろう。
いつもより艶々のさらさらだった。
自分でも、自分の髪がこんな鮮やかな緑色であることを初めて知った。
山の暮らしでは、あまり髪を洗えなかったし、何よりすぐに汚れるので、もっと薄汚れた緑色に見えていたのだ。
「似て、いますか」
「ええ、顔立ちも輝石の模様もよく似ているわ。輝石の模様は本人の魔力を表しているのだけど、そういうのも遺伝が関係してくるのよ」
そうなのか。
「説明をわざわざありがとうございました。でもひとつ……分からないんですが、なんで今更こんなこと……わたしは、捨てられた子なのに」
そう、わたしは捨てられたはずだ。
森の中に。
なのに、どうしてこんな話をするのだろう。
ふと、昔リアードに言われた言葉が頭をよぎった。
「きっと、何か特別が事情があったんだろうよ」
そうなのだろうか。本当に、事情があったからなのだろうか。
シェーラ様は一瞬驚いた顔をして、悲しそうに言った。
「ねえ、ルアちゃん。ルアちゃんにとって辛い話かもしれないけれど、……貴女のお母様、ファーレン・オアシスは10年前の戦いの後、力尽きて亡くなってしまったのよ」
「………」
「戦いの時、赤ん坊だったあなたは悪魔に誘拐された。それを助けたファーレンはあなたを森に隠し、また悪魔を倒しに行った。悪魔はなんとか倒したけれど、その代わりに城で力尽きてしまったの」
「ファーレンからの伝言ですぐにあなたの捜索が始まったけれど、とうとう見つからなかった」
それはきっと、リアードが当時旅をしていたからだ。
わたしを拾ったのは今住んでいた山じゃない。
リアードは医者だった。
わたしも昔はいろんなところに連れ回された記憶がある。
「それでもファーレンは最後最後まで、あなたの無事を信じていたらしいわ。あの子は優しい人に拾われて、元気に生きているって」
言葉が続かなかった。
心臓がうまく機能しなくて、心をぐちゃぐちゃとかき混ぜられているような感じだ。
信じられない。いや、信じたくなかった。
「だからルアちゃ…」
「もういいです!」
シェーラ様の肩がびくりと動く。
「もう、聞きたくないです。頭が、痛くなってきました。……ごめんなさい」
「こちらこそ、ごめんなさい。あなたが今、とても辛いのは分かっているつもりよ。でもどうしても早くあなたに伝えなければならなくて……ルアちゃんはこれから先どこか宛はあるの?」
「ありません」
「そうなの……じゃあ暫くここで暮らして」
そのかわり、とシェーラ様が一枚の紙を渡してくる。
「これについて、考えてみて」
面白い、続きが気になると感じたら、評価☆&ブックマークをしてくださるととてもとても嬉しいです(*⁰▿⁰*)




