3-16
のど自慢大会の前日。
栞から手紙が届いた。可愛らしいパステルカラーの封筒にデフォルメされたユニコーンがプリントされている。
手紙自体はとても簡素で、内容も当たり障りがない。
東京は京都より暑いとか、新学期に向けて準備しているとかその程度だ。
内容よりも気になったのは栞の書いた文字そのものだ。便せんに綴られた文字は勢いに任せて書いたように見えた。
普段の栞はもっとか細く、しなやかな文字を書くのだ。別に今回の便せんの文字が乱雑とまで言わないけれど、栞本来の文字には見えなかった。
そこには私への感情がぶちまけられているように感じる。
言葉の意味や言い回しや内容ではない。もっと本能に近い部分で。
おそらく栞は怒っているのだろう。根拠はないけれど確信はあった。
その栞の文字には『今回は私が身を引いたけれど次はないぞ』という意味が込められているように感じた。感じざるえなかった。
言葉で交わしてこそいないけれど、私は栞に大きな借りを作ってしまったのかもしれない。
人生を掛けても返せないほどの大きな借りを……。
のど自慢大会当日。私はこの前の着物に袖を通した。
初めは地味だと感じたその子振り袖も着慣れてしまうと悪くないと思う。
「お母さんこの着物いくらしたん?」
私は着付けしてくれている母にそう尋ねた。母は私の質問に「せやね」とだけ応える。
どうやら値段を応えたくはないらしい。
「これけっこう良い絹使こうてるやろ?」
私は質問を変えた。これなら応えるはずだ。
「これはな。特級の正絹やで。それに……。西陣の中でも上物やからね」
「そうやろね。そんな気はしてたで……」
母は終始テキパキと私を着付けてくれた。着物に関してだけは母に敵う気がしない。
「でも珍しいな。あんたが子振り袖着たいなんて言うとは思わんかったで?」
「今日は特別やねん」
「……。ま、何でもええわ。あんたが少しでも和装に興味持ってくれたらウチは嬉しいしな」
母は珍しく私に優しく接してくれた。
母とこうして一緒にいると改めて思う。私はこの女の娘だと。ずっと認めたくなかった。けれど……。
14歳の私はあまりにも母に似ていると思う。顔立ちはもとより、声、体型、性格。その全てが母のコピー品のようだ。
だから私が母に抱いているのは紛れもなく同族嫌悪だろう。悲しいけれど。
着付けが終わると私は府民ホールへと向かった。心音が少しだけ早くなっていた。




