3-13
見本市会場は古い倉庫を改造したような展示場だった。
幸い会場内は空調が効いていて涼しい。むしろ寒いくらいだ。
母は父と私を先導するように前を歩いていた。歩幅が広く、ツカツカと足早に歩く。
ブースごとに会社名の入った金襴メーカーが軒を連ねていた。
「あらぁ、鴨川さんやないの!」
「あらあら、お久しぶりやね。お変わりない?」
母はどの業者にも顔が知れているようで、行く先々でそんな風に世間話をしていた。
「え! もしかして月子ちゃん!? いやー綺麗になってたから分からんかったわぁ」
「どうも……」
私はこういう場所がどうしても苦手だ。顔見知り程度のオバサンに絡まれるのと嫌になる。
母はそんなことお構いなしのようで、挨拶をするとすぐに別のブースに移動した。
そんな調子で母は私と父を連れ回していた。文句こそ言わないけれど父もぐったりしている。
「今年は当たり年かもしれんね。真新しい柄も増えたし」
「せやな。でも虹子、お前見積もり書貰いすぎちゃうか?」
「そうか? こんなもんやろ。来年は新成人多いみたいやからな」
両親はそんな風に商売の話を延々と繰り返していた。
「月子? 疲れたんやったらエレベーター前で待っとってええで? なぁ虹子? ええやろ?」
「しゃーないな……。したら月子。お母さんたちはもう少し見るとこあるから待っとき!」
どうやら父が助け船を出してくれたようだ。これでようやく解放される。
私は両親と別れると会場入り口のエレベーター前のソファーに腰を下ろした。
遠目に両親が商談している様子が見えた。雰囲気から熱心に商談しているらしい。
思えば母はいつもこうなのだ。夢中になると周りのことなどお構いなしだ。
私は心底父に同情した。本当はこんなに必死に商売したくないだろうに……。
「あれ? 鴨川……さん? ですよね?」
私が休んでいると見覚えのある女の子に声を掛けられた。
見覚えはある。ただ、誰かは思い出せない。彼女も私と同じように子振り袖で袴姿だった。
「はい? あの……どこかで? 会いました?」
「ああ、すいません。神戸でお会いしました。ほら、鴨川さん逢子ちゃんたちに会いに来たでしょ?」
そう言われて私はようやく思い出した。
「あ! あんときの! なんでここにおるん?」
「えーと、今日は見本市出展のお手伝いです。ブース設営と案内の人手が足りなかったので」
彼女は照れ笑いすると自身の家族のブースを指差した。
「ああ、あの会社の娘さんやったんか! やっぱりウチも仕入れてたで!」
「わー。ありがとうございます! あとで両親にも伝えておきますね!」
そのとき初めて知ったのだけれど、彼女は中学一年らしい。
三坂さんや佐藤くんとは家が近所で昔から仲が良かったとか。
「ほんまに偶然やね。こんなとこで会えるとは思わんかった」
「ほんと! また会いたいと思ってたんで良かったです!」
それから私たちは改めて自己紹介した――。




