3-10
8月上旬。
私たちはバスに揺られて二条城方面へ向かっていた。今から健次に紹介されたドラム候補と会う。
健次は以前からバスケ部関係で彼とは親交があったらしい。
私はあまりバスケットボールに詳しくないけれど、健次と同じポジションをしているとか。
車内から見える市内は陽炎で揺らいでいた。遠くに逃げ水が見え、坂から下ってくる人たちが幻のように見える。
「あんな月子。今から来る奴、少し癖が強いねん……」
車窓を見つめながら健次がぽつりと話した。
「癖?」
「ああ、口が悪いというか……。好き嫌い激しい性格というか……」
歯切れの悪さの権化のように健次は呟く。女々しいことこの上ない。
おそらく、健次は私とその男が対面して険悪になることを避けたいのだろう。
「まぁええよ……。どっちみち会うてみんと何も分からんから。もし合わんかったら適当に合わせてお茶濁すから」
いったいどんな男が来るのだろう? むしろ私は興味があった。
健次が私に会わせたくないと思うような男なら、さぞ『イカレテイル』はずだ。
待ち合わせ場所は市内のライブハウスだった。この間、佐藤くんたちがライブをした場所だ。
「しっかしお前、いつの間にあのライブハウスの店長たらし込んだんや? 普通、中学生にただで会場貸したりせんやろ?」
「たらし込んどりゃせんよ。ぜんぶ三坂さんのお陰や。なんか店長さん、三坂さんのお父さんと友達らしくてな」
これは先月末、『レイズ』の2人とセッションしたときに知ったことだ。
店長さんは三坂さんが赤ん坊の頃から知っていると言っていた。
「そら、運がええな。みっちゃんのドラム聴くん久しぶりやけど楽しみやで」
「ウチも楽しみやな……。出来たら舞洲さんぐらい叩けたら理想的なんやけど……」
どうしても『レイズ』のメンバーが頭に浮かぶ。
「ハハハ、あの子ドラム上手いもんな。ま……。みっちゃんも上手いから大丈夫やで」
やたら健次はその「みっちゃん」を信頼しているようだ――。
「みっちゃん」もとい、吉野充は私たちより先にライブハウスに到着していた。
背格好は健次より少しだけ低く、体型は健次よりどっしりしていた。
「おお、みっちゃんすまんすまん! 遅くなった」
「ほんまやで? 岸やんなんでいっつも遅刻するんや?」
言葉とは裏腹に吉野くんは笑顔だ。
「あの……。初めまして、鴨川です」
「こんちは! 岸やんから話は聞いとるで! なんやえらいべっぴんさんやな」
褒められた……。のだろう。しかも初対面で私の容姿を。
私は「ああ、どうも」としか返せなかった。容姿を褒められるのはあまり好きではない。
「したら中で話そか? 店長さんにも話通してあるからすぐにドラム出来ると思うし」
私が戸惑っているのを察したのか健次が口を挟んだ。私は「ああ、せやな」と軽く返す。
店内に入ると店長が入り口でスポーツ新聞を読みながらソファーでくつろいでいた。
窓は全開に開かれ、大きな扇風機が全開で回っている。
「店長さんこんにちは! 今日はありがとうございます」
「ああ、いらっしゃい鴨川さん。逢子がよろしく言っとったで! ドラムセットとアンプは用意してあるから自由に使ってええで」
私たちは店長さんにお礼を言うとそのままライブスタジオへ向かった。
ステージ上にはTAMAのドラムセットとKORGの大型のアンプに繋がれたフェンダーのストらとキャスターが置かれていた。
「はぇー。ちゃんと用意してくれたんやね」
「ほんまやな」
私と健次がそんな話をしていると吉野くんがステージ上のドラムセットに歩み寄った。
「すごいな……。俺のドラムよりかなり上等な奴や……」
吉野くんはドラムセットを感心するように眺める。
その視線は真剣そのもので、月並みの表現で言うなら瞳を輝かせていた。
「ちょっと叩いてみてもええ?」
「ええよ。てかそれ目的やからな」
私が答えると吉野くんは嬉しそうに笑った。無邪気な子供のように――。




