3-9
1992年8月。
京都市内は本格的な夏を迎えていた。府内は連日の30度越えの真夏日で、みんな暑さから逃げるのに必死だった。
健次は栞と別れたショックからか、いつも以上に部活にのめり込んでいるようだ。
きっと何かしていないと気が変になるのだろう。気持ちは分かる。分からなくもない。
私はというとヘリウムが抜け始めた風船のように中途半端な気持ちだった。
浮き上がるわけでも、沈み込むわけでもない。そんな気持ち。
たしかに栞がいなくなったのはショックだし悲しいと思う。
これから栞と過ごす時間がないと思うと寂しいし、すごく勿体ない気もする。
しかし、その感情には執着だとか期待は含まれてはいなかった。
『まぁ、縁があったらまた会えるやろ』と私は考えることにした。
もし2度と会わなければ、私たちの関係はそこまでだってことだ……。
「なぁ、月子? ちょっと紹介した奴おんねん」
健次はまるでお伺いを立てるような言い方をした。
「紹介? なんや? 男やったら今は間におうてるで」
「いや……。男であることには変わりないんやけど……。別に彼氏彼女って意味やないから」
健次は怪訝な顔になった。まだ失恋のショックから立ち直っていないのか、今ひとつ元気がない。
「ん? どーゆうこと?」
「あんな、お前バンドやりたいゆーとったやろ? 実はバスケ部の練習試合相手でドラムやっとる奴おんねん!」
「ああ……。そうゆーことな」
健次の話だとその男はドラムが上手いらしい。何でも幼少期からドラムの練習をしていたとか。
「どや? 会うてみる気ないか? お前さえ良ければ都合つけるから」
「……。ええよ。会うだけ会うてみるわ。将来的にはドラム探さなあかんと思っとったし」
私はとりあえずその男に会うことにした。気に入らなければ蹴っ飛ばせば良いだけだ――。
そのドラマーは奈良県のに公立中学校に通っている生徒らしい。
健次とはバスケ部の合同練習で仲良くなったとか……。
正直な話。私はそのドラマーに対して期待していなかった。
おそらく『レイズ』の舞洲ヒロよりもレベルは低いだろう。そんな風に思っていた。
しかし……。この出会いが私にとって4つ目の大きな出会いとなった――。




