2-11
青海波の扉を開くと4人がセッションしていた。
オリジナルの楽曲らしく、初めて聴いた曲だ。
ヴォーカルの三坂逢子は私たちが入ってきたことに気づかないのか絶唱中だ。
「こんにちは……」
恐る恐る声を掛ける。
「は! ああ、いらっしゃい! 待っとったで」
三坂さんは驚きながら笑顔で挨拶してくれた。
「すんません。練習中に入ったりして……」
「かまへんよー。てか来てくれたほんまありがと! みんなー、休憩にしよ」
「はいよー。鴨川さんいらっしゃい。ようこそ神戸へ」
彼らは個性的なバンドだった。ヴォーカルの個性が強すぎるけれど、それ以外のメンバーも決して負けては居ない。
ドラムの舞洲さんを除けば全員、ノリがよかったし非常に絡みやすい。
「で? 今日は岸田くんのギター練習やったね?」
三坂さんはタオルで汗を拭いながら健次に尋ねた。
「そうです……。俺ギター始めたんやけど何からやったらええか……」
「了解! したら繁樹に教わったらええで! この人こんなでもめっちゃギター上手いから!」
手前味噌……。ではない。羽島くんは本当にギター演奏が上手かった。
それから健次は手取り足取り羽島くんにギターを教わっていた。
その様子は本当に素人のファーストレッスンだった。
弦のギターの構え方から弦の押さえ方まできっちり矯正される。
ひたむきに練習する健次の姿はとても新鮮だった。
普段、割と適当な彼からは想像出来ないほど真剣な顔をしている。
「したらウチらは適当にダベってようか? 亨一ぃ! ちょっとマクド買ってきてー」
「はいよ。逢子はダブチだよね? ヒロは照り焼きで……。鴨川さんは? どうする?」
「えーと……。ウチも照り焼きで……。ケンちゃんはビックマックで!」
図々しいと思いながら私は佐藤くんに注文を伝えた。
三坂さんと舞洲さんは本当に仲が良かった。呼吸が合っていて、お互いに小さな気遣いを忘れてはいないように見える。
その関係は私と栞のそれに近いと思う。
「にしてもヒロ上手くなったなー。大したもんやでほんま。私のが置いてかれそうな勢いや」
「そんなでものないで……。私はただひたすら練習しとるだけやし。逢子のが大変やろ。色々やることもあるやろ?」
「まー。忙しいは忙しいけどな……。でも亨一が手伝ってくれるから比較的楽やで? 1人でやってたらさすがに投げ出すと思うわ」
理想的なバンド。彼らは私の目にはそう映った。
「えーなー。ウチもバンドしたいわぁ。ケンちゃんがとりあえずギターで、あとはドラムとベースおったらええんやけど」
「最初のメンバー集めは大変やろな……。ウチらはたまたま同じ中学でみんなおったから楽やったけど、募集掛けて気が合うメンツ揃えんのはしんどいと思う。ま、何とかなるとは思うで? 月子ちゃんは歌うんが好きなんやろ?」
「せや! ウチは歌うんがずっと好きやねん。いつか絶対に武道館行くって決めとるからね!」
そう言って少しだけ後悔した。
ほぼ初対面の相手に夢を語るのは何となく気恥ずかしい。
でも、三坂さんは嬉しそうに肯きながら「ええね」と言ってくれた。
「あーあ、ほんまにバンドしたいわぁ。あと2人揃ったら速攻でバンドするんやけどなぁ」
「アハハハハ、したら募集掛けたらええよ。とりあえずでええからセッションして気がおうたらバンドやってみるのがええと思う」
三坂さんは本当に気さくな女の子だ。
彼女もきっと歌うのが好きで、それを生きがいに生きているのだろう――。
そんな話をしていると佐藤くんが戻ってきた。




