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その音楽スタジオはかなり風変わりな外観をしていた。
瀟洒な造りの門に庭には黄色と赤の薔薇が咲き乱れている。
イメージとしてはゴシックロリータの少女が黒い日傘を差して歩いていそうな感じだ。
「なんやえらいセイヨーセイヨーした建物やな……」
セイヨーセイヨー? 健次の言葉の意味が一瞬理解出来なかった。
西洋西洋。かと数秒後に気づく。
「せやね。したら行こか? 中から逢子ちゃんぽい声も聞こえるから間違いないと思うで」
私たちはその西洋館に足を踏み入れた。
建物の内部は予想に反して近代的な内装をしていた。
たしかに柱や建具に関しては古くさくアンティークだったけれど、壁紙や各部屋の扉は普通のスタジオだ。
受付には大正モダンな着物姿の10代ぐらいの女の子が1人で座っている。
彼女の着物は左右で柄が違っていた。
左側が麻の葉で右側は亀甲。どちらも日本古来の吉祥文様だ。
家業が家業だけに私はこの手の柄には馴染みがある。
「こんにちは!」
「はい! いらっしぃませ」
彼女は愛想良く私たちに微笑んだ。営業スマイル……。ではないと思う。
「『レイズ』さんってバンド今、スタジオにいますか?」
「はい! 逢子ちゃんのお友達の方ですね! 2階の『青海波』って部屋で練習中です!」
青海波? またしても吉祥文様だ。
「ありがとう……。もしかしてここの部屋の名前って吉祥文様なん?」
「はい! そうなんです! よくご存じですね」
「やっぱりな……。いや、ウチの親が着物問屋しとるんで知ってました。毎日嫌ってほどみるから」
嫌ってほど……。本当に嫌ってほど毎日関わっている。
それほどまでに和装は私にとって身近な存在だった。
「へー! すごい! 実は私の祖母がここのオーナーしてまして……。あ、祖母は金襴の織士なんですよ。だからライブハウスなのにこんな名前になっちゃってます」
「ああ、それでか……。ウチと同業者やったなら納得やな」
金襴緞子……。まさに私の領分だ。
「おばあちゃんも歳なんでそろそろ引退するみたいですけどね……。もしかしたらおばあちゃんの作った金襴、そちらでも取り合って貰ってるかもですね!」
「ハハハ、そうかもしれませんね。家帰ったら親に聞いてみますわ」
私たちの横で健次はつまらなそうに立ち尽くしていた。
和装について盛り上がる女子なんて男からしたら興味がないのだろうと思う。
私は彼女に礼を告げるとそのまま佐藤君たちのいるスタジオへと向かった。
レトロな木製の階段を昇り2階に上がるとカラオケルームのように部屋が並んでいた。
やはり部屋の名前は吉祥文様だ。立涌、鴛鴦、矢絣……。
そんな名前の部屋が続く。私は自分の好きな吉祥文様の名前を探してみた。
私は七宝という模様が好きだった。
浄土の宝を表したシンプルな柄なのだけれど、これは私が幼い頃から見慣れた模様なのだ。
祖父母が最初にくれた浴衣が七宝で、それが気に入って今でも夏はその柄を着ている。
浄土とはいったいどんな場所なのだろう? と私はよく考えていた。
苦しみもなく心安らぐ世界。少なくとも今ここにはない世界。
そんな世界、本当にあるかは疑問だけれど……。
「お、ここやな!」
健次は青海波の部屋の前を見つけると扉を指差した。
「したら……。行くか……」
私たちは意を決してその扉を開いた――。




