2-9
数日後。私と健次は神戸を訪れた。
六月には珍しく快晴で、身体が汗でベタベタする。
「にしてもよくバスケ部休みもらえたな……。ケンちゃん休んだら練習ならんやろ?」
「今回は部全体休みやで! 顧問の寺田ちゃんが友達の結婚式で来れんらしいからな」
それでか……。と私は思った。健次が積極的に部活をサボるはずがない。
彼はこんな風でもバスケ部のエースだった。
お世辞ではなく、彼なしではバスケ部は勝てないと思う。
「あっついなぁ。六月やのにもう夏みたいやん!」
私は手で額の汗を拭う。
「せやな。もしかしたら府内より暑いかもしれんな」
太陽は悪戯に気温を上げていた。この時期にしてはあまりにも暑い。
「やっぱり栞は連れてこんで良かった……。あの子やったらぶっ倒れるでマジ」
「ああ、ほんまにな」
栞は今回お留守番だ。
例の雨の日に彼女に神戸に行く話をしたら「いいよ。行ってきなよ」とあっさりOKが出たのだ。
もっとも、栞が断るとも考えなかったけれど……。
その日。私たちは佐藤君たちに会うために神戸市内の音楽スタジオに向かっていた。
どうやら今日、彼らは合同練習をしているらしい。
「栞とこの前ちゃんと話したで!」
私は健次の顔を見ることなく呟いた。
「聞いたで! なんや女って面倒くさいなぁ。この前仲直りしたんやからそれ以上何話すんや?」
男よりはマシだ。と私は思った。当然口には出さない。
「まぁええやろ! ウチもあの子とギクシャクはしたくないんや。ま、栞は余計なことは言わんけどな」
「そうゆうもんかな? 俺としては仲良うしてさえくれれば問題ないけどな……」
それから私たちはバスに乗り、三宮駅から目的地へと向かった。
「なんやこじゃれたた街やね」
「神戸ゆーたらこんなやろ? 俺らの地元とは違うで」
神戸の市営バスから見える景観は、京都のそれとは違った。
レトロな洋館が何軒か立ち並び、ところどころに観光客向けの土産物屋が乱立している。
京都市内も観光地という点ではよく似ていたけれど、雰囲気は真逆だと思う。
「あ、このバス停やで!」
健次は次の停留所のアナウンスを聞くなり、すぐにブザーを押した。
「あのな……。子供やないんやからそんな勢い良く押さんでも止まるで……」
「別にええやろ! 俺はこうやってブザー押すんが好きなんや!」
本当に子どもみたい……。と思う。
思い返せば彼は幼少期からバスのブザーを押すのが好きだった。
1回。私が先に押したら本気で怒られたこともある。
バスは500メートルくらい走行すると停留所に停止した。
「たしかバス停の真ん前やったな……。あ、ここか!」
バス停の目の前にその音楽スタジオはあった。
古い洋館を改装したような建物で、一見すると音楽スタジオには見えない。
「雰囲気あるなー」
「せやね。中に佐藤君たちおるんかな?」
私たちはその洋館を下から上まで舐めるように見上げた――。




