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最初のバンドはロックバンドだった。メンバー構成はヴォーカル・ギター・ベース・ドラム・キーボードというテンプレート通りのメンツだ。
正直な話、彼らの演奏はあまり上手くなかった。
あくまで学内の軽音部が部活の延長線でやっているだけのように感じる。
「なんや……。あんまうまないね……」
「お前はほんまに失礼な奴やなー。聞こえたらどうすんねん?」
健次に諭されたが聞こえるはずがない。ライブハウス内はドラムとギターの音で満たされ、私の声など彼らには届かないだろう。
「でも……。楽しそうだよね!」
「せやな、趣味レベルやったら楽しいかもしれへんね」
我ながら辛辣だと思う。しかし、私自身、楽器がある程度出来る手前、そこを妥協して見ることは出来なかった。
彼らの演奏が終わると次のバンドに移る。
2組とも聞き慣れたメロディが多い。メジャーアティストの楽曲ばかりのようだ。
「コピーやね」
「まぁアマチュアやからな。俺も練習は基本コピーやで?」
「オリジナルって難しいんかなぁ?」
そこにいる多くのバンドはコピーバンドだった。彼らは自分たちが憧れているバンドの曲を必死に練習しているのだろう。
そんなコピーバンド2組が演奏を終わた。会場は熱を帯び、6月の嫌な湿気がライブハウス内に満ちていた。
「なぁ月子? お前の知り合いが出とるバンドなんちゅう名前なんや?」
「ああ、たしか『レイズ』ゆう名前やったで! 佐藤君の話やとロックバンドらしい」
佐藤亨一のバンドは『レイズ』という名前だった。珍しいバンド構成のバンドでヴォーカルとドラムは女性らしい。
4ピースバンドとしては割と変わったメンバー構成だと思う。
「たしかに変わっとるな。あ、次のバンド始まるみたいやで」
そんな話をしていると、次のバンドがステージに現れた。
「あ、このバンドやで!」
そこに登場したのは『レイズ』だった。話に聞いていた通り、男子2人、女子2人の4ピースバンドのようだ。
「どうも皆さん! 初めまして! 『レイズ』です!」
ヴォーカルの女の子が挨拶すると会場から歓声が沸いた。
「なんや人気なんやな」
「せやね」
彼らが登場すると会場は今日一番の盛り上がりを見せる。どうやら彼ら目当ての客は多いらしい。
「すごいねー。『レイズ』さん人気者なんだね」
「ほんまやな。あ、あの左側におるんが佐藤君やで!」
佐藤亨一はステージに向かって左側でベースを構えている。その様子はまるで熟練のベーシストのようで堂々としていた。
「では聴いて下さい! 『DAY&NIGHT』」
ヴォーカルが曲紹介をすると会場内に激しいドラム音が鳴り響いた。
エフェクターの色に染まったフライングVの音色がドラムのリズムと混ざり合い、イントロが豪雨のように押し寄せてくる。
ヴォーカルの女の子の歌声は話す声とはまるで違う。彼女の声は芯のある強い歌声で自由自在に変化する高い技術もあるようだ。好みはあるだろうけれど歌唱力はかなり高いと思う。
そして……。何より驚いたのベースだった。ロックバンドに詳しくない私から見ても、このバンドの要がベースであることは明白だった。
佐藤亨一のベースは、《完璧》という言葉がとても似合うと思う。彼の作り出す独特のノリは『レイズ』全体に行き渡り、まるで一つの生き物のようにも見えた。
私は完全に彼らに飲まれていた。他のコピーバンドとは明らかに質が違う。
単純にオリジナル楽曲を演奏しているからではない。
おそらく、彼らは互いが互いを高め合える存在なのだと思う。
掛ける蹴るように演奏する彼らを見ていると、自分が夢見ていた場所がそこであるような気がした。
私は心の奥底から「ウチもああなりたい」と思った――。




