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6月上旬。
私と栞は二条城近くのライブハウスを訪れた。
やはりというか、何というか……。健次も一緒だ。
「なんでケンちゃんも一緒に来るんや?」
「別に良いやろ? 俺もバンド興味あんねん!」
「へー……。それは知らんかった……。てかケンちゃん、何か楽器出来るん?」
私の質問に健次は「今ギター練習中や!」と食い気味に答える。
栞はそんな私たちのやりとりを終始困った笑顔を浮かべて眺めていた。
自分の彼氏と女友達が目の前で喧嘩している……。
そんなカオスな状況を見るのはいったいどんな気持ちなのだろうか?
「ま、あれだよ! 岸田君も今練習中なんだよ! ねっ!」
栞は助け船でも出すように健次をフォローした。
「栞はええ彼女やなー。理解あるし、優しいし……。ケンちゃん良かったなー」
私は健次に皮肉を言うと、彼の頭を軽く小突く。
「ちょ!? おま、ふざけんなやマジ!?」
「ほんま大事にしーやー。栞も! ケンちゃんけっこうだらしないから気をつけたほうがええで!」
彼らとそんなやりとりが出来るのが、私としては嬉しかった。
本来であればあのまま縁が切れていても、おかしくなかっただけに余計そう思う。
「えーと……。今日は月子ちゃんの友達が出てるんだっけ?」
「ああ、ま……。友達ってわけでもない……。顔見知り以上友達未満みたいなもんかな?」
我ながら言っていて意味が分らない。
佐藤亨一とは楽器屋で一回話しただけの間柄でしかない。
ある程度の時間、話はしたけれど友達というには心許ない。
「なんやねんその関係?」
「いやな……。楽器屋で初めて会うて、何か気になる子やったから……」
「はぁ? なんやイケメンか?」
本当にこの男はデリカシーがない。
ついこの前、失恋した女に掛ける言葉がそれかと思う。
「ちゃうて!! なんや気味の悪い子でなー。でもなんか気になんねん!」
「そっかぁ。でも月子ちゃんが気になるなんて珍しいよね。あんまり男子に興味持たないのに」
「せやなー。きっと音楽関係やから気になるんやと思う。ま、行ってみたらわかるで!」
それから私たちは痴話喧嘩しながらライブハウスの中に入った――。
私がライブハウスというものに入ったのはその日が初めてだった。
壇上を照らすように大きな照明器具が上から吊され、ステージ前には大きなU字の柵が設置してある。
「いやー! 初めて来たけどなんかすごない!?」
「ほんとだねー。私ライブとか初めてだから少し緊張するよ……」
ライブ処女2人は緊張していた。
健次はあまり緊張していないようだけれど。
「ライブ久々やなー。俺もたまに来るんやで? バスケ部内でもバンドやっとる奴おるしな」
心なしか健次は上機嫌に見える。
「そうなんや……。私は弦楽器あんまりやらんから知らんなー。ギターもコード弾ける程度やし」
「ハハハ、ギターおもろいで! あとで聴かしたるわ。てか月子ぉ? その佐藤亨一ゆう男は何の楽器やっとるんや?」
「ああ、たしかベースやで! 本人はベース・ドラム・ギター・キーボードみんなやっとるみたいにゆーとったな」
佐藤亨一は楽器が一通り出来るらしい。
詳しくは知らないけれど、彼は幼い頃から楽器に触れる環境で育ったようだ。
きっと音楽に造詣の深い家庭なのだろう。
「はぁー!! なんやすごいな! それ聞いたら俺もその男に興味出てきたわ!」
そんな話をしていると会場の照明が落ちて暗くなってきた。
「あ、始まるみたいだよ!」
栞はそわそわしながら私の腕にしがみつく。
しがみつく相手が違う気もするけれど、あえてツッコミはいれない。
少しすると歓声と共にステージに最初のバンドメンバーが姿を現した……。




