第一話 ゼラニウム
五月某日
桜の木が葉桜に変わるこの頃
朝六時、ある少年が目を覚ます。
俺の名前は冬風 ココロ(12)。
名前が女子みたいという理由で一時期虐められていた。
そのことを、両親に言ってこんな名前嫌だって言ったらすごく怒られた。
その時の親父の顔は思い出したくない。もう、一つのトラウマになった。
でも、両親が教えてくれた名前の理由に感動した。
それ以来、この名前が好きになった。
名前の理由は、心優しい人間になってほしい。
ちなみに、カタカナなのは気まぐれらしい。
心優しい人間か……
ココロ……それは、考えたり、感じたり、知ったりする働き。
また、その働きの元になっているとされるもの。
さらに、思い。考え。気持ち。思いやり。情け。真心。……など。
いろいろな意味がある。
そして、心の働きによって生まれるものが『感情』である。
感情を一言で言い表すならば、『喜怒哀楽』だ。
人間は喜怒哀楽の感情がもとになって、いろんな感情がある。
……って俺は、何アニメの主人公みたいになってんだよ!)
俺は、日課のジョギングに行くために運動着に着替えていた。
その時、俺はあることに気付いた。
「あれ……さっきまで考えていたことをもし口に出していたら。
さらに、それを誰かが聞いていたら……
俺、ただのナルシストだ!」
ガチャ
その時、部屋のドアが開いた。
「お兄ちゃん、朝からうるさい!
それと、お兄ちゃんは元からナルシストだから。」
部屋に入ってきたのは
妹の、冬風 咲(11)だ。
「無慈悲だ……
も、もう少し兄を敬う気持ちはないのか。
「ないよ~
それと、コンビニで飲み物買ってきてね。
お・に・い・ちゃ・ん☆」
「あざとい……
まぁ、とりあえず分かった。」
「いってらっしゃ~い」
「あぁ、いってきます」
そう言って俺は、家を出た。
「あっ!今日テストの返却日だ。
点数が楽しみだ。」
俺は、ぶちゃっけ頭がいい。
小学生の時も、たった一度凡ミスで満点を逃したがそれ以外はすべて満点だった。
しばらく走った後
俺は、コンビニにいた。
もちろん咲から頼まれた飲み物と自分用のアイスを買うためだ。
だったのだが、咲からアイスも買ってきてとメールで言われた。
そして、適当に買ってコンビニを出た。
「さて、帰るか。」
ココロは家へと歩みを進めた。
「お帰り~
お兄ちゃん。」
「あぁ、ただいま……あ!」
俺は、咲が手に持っているものを見て驚いた。
「ん?どうしたのお兄ちゃん。」
「いやいや咲さんや、『どうしたの』じゃないよ。
なんで俺にアイス買ってきてって頼んでんのにあなたはアイスを食べているんだい?」
「これね、朝お茶飲もうとして、氷を入れようとして
冷凍庫?開けたら、なんとアイスがあったんだ。」
冷凍庫のところに?がついたことを突っ込みたかったが言わなかった。
否、言えなかった。
俺も冷蔵庫の引き出しの名称なんて知らないからだ。
「まぁ、ほれアイスだ。」
「ありが……」
途中まで言って、咲の言葉が切れた。
「どうした咲?」
「私これ嫌い。」
「いらないなら返せ。」
ココロのものすごく低い声にビビった咲は
椅子の上で縮こまっていた。
「い、いえありがたくいただきます。
お兄様。」
「まったく最近は、我儘が過ぎるぞ。」
「はい、気を付けます。」
「あー、今回のことは水に流すから、そんなに縮こまらないで。
それより学校の準備しろ。」
「もう終わってるよ~」
「速くね?
いつもだったら『ちょっと待って~』
とか言うのに。」
言い終わった時、ココロはあるものに目がついた。
「お~い咲「フフフ、もうこの前の私とは違うのだよ。」
ココロは、はーとため息をついて
もう一度咲を呼んだ
「お~い咲。」
「ん?何お兄ちゃん。
早くいかないと遅刻しちゃうよ。」
「あの机に置いてあるものなんだ?」
ココロがそういうと
咲は、机を見て驚きの声を上げた。
「あ~!私の筆箱それに教科書もなんで鞄入れたはずなのに?」
「お前のことだ入れた『夢』でも見たんだろ。
さっさと入れて学校行くぞ。」
「うん」
咲は小さくうなずき、筆箱と教科書を鞄に入れた。
こんなやり取りをしつつ、ようやく家を出るのであった。
「お兄ちゃん、今日中間テストの返却日だったね。
家で見してよ。」
「へいへい」
等くだらない会話をしていたら、すぐに咲の小学校に着いた。
「ばいば~い、お兄ちゃん。」
「はいはい、行ってらっしゃい。」
これが、冬風兄妹の朝の日常の風景だった。
そんな、日常が今日壊れるなんて俺は知る由もなかった。
「さて、俺も行くか。」
俺の通う中学校は、家から結構遠い。
そのため俺は、学校に着いた時にはもうへとへとになっている。
「あ~ようやく着いた。
遠すぎ疲れた面倒くさい。」
俺は、愚痴を垂れながら教室に向かった。
「おはようございます」
ガラッと教室の扉を開けて、挨拶を済ませた。
すると、クラスのいろいろなところから挨拶が返ってきた。
「お~おはようココロちゃん。」
「いい加減ちゃん付けで呼ぶのやめろ。」
今、挨拶を返してきたのは、小手毬 耀こでまり よう
俺の親友だ。
「お、おはよう冬風君。」
「ん?ああ、おはよう相模原。」
今のは、女子の中では一番仲のいい相模原 夏鈴さがみはら かりん
なぜか、俺と相模原が挨拶をするとクラスの皆がにやけている。
だが、それも毎日のことなので慣れた。
「なぁ、耀なんでいっつもにやけてるんだ?」
さすがに、ちょっと気になった。
「さぁ、なんでだろうな~」
「ん?あぁ、昨日のテレビが面白くて思い出し笑いか。
それなら納得だわ、面白かったし。
でも、なんで毎日にやけてるんだ?
ん~?まぁ、なんでもいいか」
((((((鈍感!!!))))))
クラスの心の声がはもった。
「なぁ、ココロちゃんほんとに気付かないの?」
「へ?何がだ?耀。
あと、ちゃん付けやめろ。」
「呆れた、お前がそこまで鈍感だったとは。
なぁ~相模原さん。」
「えっ!あっ、うん。
って何言わせるの~!」
耀と相模原が、話していることがわからない俺は頭に?を浮かべていた。
「何の話だ?」
「つまりだなココロちゃん。
相模原さんはだな~お前の「わーやめて、やめて。」ごめんごめん。」
「えっ!ねぇ、マジで何の話?」
「も~この話は終わり!」
「結局、何の話?」
「やっぱり相模原さんをからかうのは、面白いな~。」
結局、ココロは何の話か分からなかった。
ちなみに、クラスメイトは終始にやにやしていた。
「朝から、面白い二人をからかうのはいいがHR始めるぞ。」
ガラッとドアを開けて入ってきたのは、担任の先生だった。
手化、クラス公認の弄りキャラになった覚えはないのですが。
「え~早速皆さんお待ちかね、テスト返しの時間だ。
楽しみだな~。」
「いやだ~」
「見たくな~い」
教室の所々から、嫌と言う声が聞こえてきた。
「ココロちゃん相模原さん、テストの点数で勝負しようぜ。」
「いいぜ」
「いいよ」
こうして、テストの点数勝負が決まった。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り、全てのテストが配り終わった。
結果から言うと俺の勝ちだ。
一位はココロ(ALL満点 学年一位)
二位タイは夏鈴(数学99点他満点 学年二位タイ
二位タイは耀(理科99点他満点 学年二位タイ
という結果になった。
~一時間目終わりの休み時間~
「くっそー
一点差で負けた!」
「負けました
冬風君、頭いいんだね。」
「いやいや、耀も相模原も十分すごいよ。」
「あ、ありがとう冬風君。」
「あれ?相模原、お前顔赤いぞ?
まさか!風邪か!」
「ち、違うよ冬風君。」
「そ、そうか。
無理するなよ。
ん?なんでまた皆にやけてんの?」
クラスの皆が、朝と同じくにやけていた。
だが、ココロにはなぜにやけているのか分からなかった。
「とりあえず、休み時間もそろそろ終わるし座るか。」
「そ、そうだね」
「いや~やっぱりココロちゃんと相模原さんは、見てて面白い。」
最後の耀の言葉は、意味がココロには全く分からなかった。
~放課後~
「それじゃ、俺は帰るわ。
また明日な耀、相模原。」
俺は、部活にも委員会にも入っていない。
理由は簡単、帰るのが遅くなるのと、面倒くさいからだ。
「じゃぁな~ココロちゃん。」
「また明日ね、冬風君。」
こうして学校が終わり家へと向かった。
今日の授業が暇すぎて眠かったので、ウトウトしながら歩いていると
高架下を歩いていた、基本的にここは車通りが少ないが今日はやけに多かった。
中でも大型トラックが多くどっかの工事か?とか思いつつ歩いていた。
「・て・・い!!」
後ろから声が聞こえた。
だが、正直何を言っているのか聞こえなかった。
【眠くて頭が働いていないだけです。】
「・て・さい!!」
声が大きくなった。
だが、聞こえない。
【もう1度言います。眠くて頭が働いていないだけです。】
「逃げて下さい!!!!」
(逃げて下さい?どういうことだ?
えっ!嘘だろ。)
振り返ろうとして、横を見たら車が突っ込んできていた。
あっ死ぬ。ココロがそう思ったとき、俺の中で時間が止まった。
(あーもう、死ぬのか
早い人生の最後だな。
我が家族よ。
そして、耀。
最後に、相模原。)
止まっていた俺の時間が動き出した。
そして、俺の運命は終わった。
ガンッ
葉桜舞い散る涼しいこの頃
静かで平和な街に
先ほどまで元気だった一つの体から
悲しく鮮血が流れ出していた。
「いっ……いやーーーーー!!」
とある女性の叫び声が、事故現場に木霊していた。