05.1人
どことも知れない道を無我夢中に走っていた。
迷子だろうとは思うけど、そんなこと今の私には関係なかった。
人に聞くでも何かすれば帰れるんだから、今はそんな事かまってられなかった。
早くあの場から――否、あの二人から離れたかった。
別に何かされたわけじゃない。
何かあったわけじゃない。
ただ、耐えられなくなったんだ。
自分の中で何かが音を立てて切れた…そんな感じ。
二人の間にいることも。
二人を見ていることも。
「??」
気づいたとき目の前にある寂れた公園。
その人に忘れ去られたかのような寂れ具合がどうにも自分と重なって、結華は公園の敷地内に足を進めた。
寂れてはいたが、その公園は綺麗だった。
多分陽が当たるのであろう。
ジメジメした湿った空気はソコにはなく、どちらかというとここ最近忘れていた心地よい新緑の空気が漂う。
ブランコと滑り台、あとは鉄棒というだけの至極当たり前にあるような遊具しかない公園だったが、逆にそれが今の結華にとってはうれしかった。
ゴミゴミと色々な遊具がある公園を、結華はなぜか好きにはなれなかった。
ブランコの近くに行くと自分の膝よりも低い位置にあるブランコ。
高さがそうそう変わるものではないだろうから、自分の成長を垣間見ることが出来る。
「小さい時は座るのにも苦労したのに…」
元々人よりも成長の遅かった結華は、幼稚園にあるブランコに座るのも一苦労で、友達にブランコを抑えて貰いながら座る事だってあった。
色がはげて錆色に近くなったその鎖を前後に少し動かすと、キィーキィーと金属的な音が鳴る。
その音はどこか懐かしくて、まるで惹きつけられたかのように今の結華には小さすぎるといっても過言ではないブランコに腰を下ろす。
キィという短い金属音。
けれどブランコは悲鳴を上げることなく、結華を支えている。
足に少しの力を入れると、先ほどと同じようにキィーキィーと音を鳴らしながらも、ブランコはスムーズに動く。
その感覚はまるで小さい頃を思い出させる。
一人で公園に来るのは別に嫌いじゃない。
元々誰かと一緒に公園に来た記憶の方が少ないから。
「……ぃ…」
知らず知らず、口が一定のメロディーを奏で始める。
一人で行った近所の公園で、小さい頃に歌っていた曲。
低くもなく、高くもなく。
一定の調子で歌われるメロディー。
その公園の雰囲気を壊すこともなく、包み込むように響く歌。
結華の中に男の子の顔が浮かぶ。
名前も知らない、けれど公園で一人で歌っていると必ず現れた男の子。
短く切った髪。
利発的な印象そのままに、いつも結華をみると駆け寄ってくる。
友達といても、私の姿を見かけると友達と別れて必ずこちらに来た。
その事が、あの時の結華にはとてもうれしかった。
誰にも相手にされることも無かった自分に、少なからずかまってくれる男の子。
少し口が悪いところもあるけど、とても優しかった男の子。
ある日を境にプッツリと姿を見せなくなった男の子。
それから、結華は公園に行かなくなった。
今考えると、本当は彼に会いたくて公園に行っていたのかも知れない。
もう、確かめることは出来ないけれど。
結華は後から後から溢れてくる涙を拭おうともせず、そのまま歌い続けた。
結華自身、その涙が何に対しての涙だかわからなかったからだ。
自分の事なのに、まるで他人事のように溢れる涙…。
涙の理由など…重要な事とは思えなかった。
歌が終わりを告げる。
歌い終わると同時に、結華の中で渦巻いていた『何か』も止まる。
涙の後が残る顔…。
けれど場違いとも思えるような…そんな晴れ晴れとした顔を結華はしていた。
次話は明日7時に更新します~♪