14.デート
名前を呼ばれるたびに体中に走る温かいもの。
愛しいというその気持ちがこんなにも私に幸せを感じさせる。
たったの一週間がこんなにも待ち遠しいものだとは思わなかった。
毎日の授業にも何処か身が入らないなんて言ったら笑われるだろうか。
ただ聞いているだけの講義。
それがこんなにも長いものだったなんて。
やっと迎えた週末は生憎の雨。
日頃の行いが悪かっただろうか。
雨の日は髪が広がるからと二つに結って、膝丈のスカートにお気に入りのブラウス。
かっこよくなっていた匠の隣にいて少しでも釣り合うようにと背伸びする。
待ち合わせは結華も何度か足を運んだことのあるショッピングモールがある駅の改札前。
天候が悪い事もあってか駅に着くと人で溢れ返っている。
その中で割と人が少なくて、けれど目印となるものがある所に陣取る。
時間は約束の30分前を指している。
少し早く来過ぎたかもしれない。
「早いね」
携帯で連絡を取ろうとした途端に背後から明らかに結華に向けられて声が掛かる。
その人物を確かめると結華の表情が自然に満面の笑みとなる。
「匠こそ。まだ30分も前だよー」
「すげー早く目が覚めたから」
「遠足前とか早起きするタチだった?(笑)」
「結華もな(笑)」
外は雨だというのに私達の間には全くというほど影響していない。
『しっくりくる』
そう感じるのは幼い時を知っているからだろうか?
まだ何にも染まらない真っ白なその人の本質を――。
「時間早いけど」
「行こっか♪」
どちらからともなく差し出された手を繋ぐ。
手を繋ぐ事に違和感を感じない、――温かくてよく馴染む匠の手。
ショッピングセンターに来たのはどれくらいぶりだっただろう?
「買いたいものある?」
「ん~特に…ないかな。匠は?」
「そうだなぁ。んじゃ付き合って?」
「ん」
匠に手を引かれながら広いショッピングセンター内を歩く。
カラフルなカラーが店内を明るく彩っている。
いつもよりも色が鮮やかに見えるのは匠が隣にいるからだろうか?
「ここ」
連れて来られたのはイベント会場。
「――…うっわぁ」
「好きだろ?こういうの」
匠の言葉に首だけを縦に振る。
目の前に広がるのは沢山の写真。
一人でいることが多かった私は自然に本を読む事が多くなった。
その中で好きだったのが写真集。
見るだけでいろいろな場所に行ける――その感覚が小さい頃から好きだった。
何にも調べてないような振りしてこんな事を用意していたなんて。
「ほら、行くぞ」
「…うん」
優しいんだね、昔から。
どこかあいつと同じにおいがする。
あいつが――匠に似ているんだろうか。
――あぁそうか。
二人とも同じなんだ。
さりげなく、本当になんでもないことのように――気付かない事もある――そんな風にかけてくれる優しさが――。
掴んだ手をそれとなく握りしめる。
感謝の想いが手から伝わるようにと。
「――う…わぁ…」
展示場に足を踏み入れた途端、結華は目に飛び込んできた写真に文字通り心を奪われる。
並べられた写真に飾られているのは主に森や川を撮影した風景写真達。
季節によって。
天候によって。
高度によって。
色々な表情を見せる自然。
一枚一枚撮られた写真の全てに意味の篭められた写真達。
その存在感に。
その雄大さに。
他には何も見えなくなる。
匠といることすら忘却の彼方に忘れ去って――一人写真展を回る。
「――ふっ、相変わらずかぁ~」
存在が忘れられているのは少し寂しいが――元々結華は集中すると周りが見えなくなるタチなのを知っているため、匠側に憤りはない。
逆に変わっていない事を嬉しいと感じるぐらいだ。
何より熱中するぐらい好みのものでよかったという安堵もあるし――サプライズは大成功。
一人見て回る結華の姿を見送りながら、匠も写真を見て回るためにパネルの方へと歩いて行った。
ここで書き貯めしている分は終わりになります☆
あとはラブラブ…なはず?
更新は遅々となるかもしれませんが、気長に待って頂けると嬉しいです☆