エピローグ 選ばれた日
それから、季節がひとつ変わった。
こはるは今日もレッスン場にいた。
「もう一回お願いします!」
間違える。
戻る。
また間違える。
また戻る。
相変わらず不器用で、本番前には胃が痛くなる。
それでも、やめなかった。
できなければ、もう一回。
失敗したら、もう一回。
それだけを続けた。
◇
「次回作の選抜メンバーを発表します」
16人が集められた。
名前が、一人ずつ呼ばれていく。
こはるは両手を握った。
期待しないなんて、もうできなかった。
入りたい。
選ばれたい。
もっと前へ行きたい。
いつか――ゼロ番に立ちたい。
だから、怖くても願った。
そして。
「こはる」
一瞬、何も聞こえなくなった。
「……え?」
「こはる。選抜です」
顔を上げる。
「……私?」
「返事!」
「あっ……はい!」
声が裏返って、笑いが起きた。
でも、すぐに涙が落ちた。
「……はい」
もう一度。
今度はちゃんと。
「ありがとうございます」
◇
発表が終わると、15人に囲まれた。
「おめでとう!」
「やったじゃん!」
「泣いてる!」
「泣いてない!」
その向こうに、真姫がいた。
こはるは駆け寄る。
「……入った」
「うん」
「選ばれた」
「うん」
「私が」
真姫が笑った。
「おめでと」
その一言で、また泣いた。
◇
翌日。
新しいフォーメーション表が配られた。
自分の名前がある。
何度見ても、消えない。
そして、その少し前。
中央――ゼロ番。
蒼井真姫。
まだ遠い。
でも今度は同じフォーメーション表の中にいる。
「何見てるの?」
真姫が横から覗く。
こはるはゼロ番を指した。
「ここ」
「ん?」
「まだ諦めてないから」
真姫が笑う。
「知ってる」
「いつか取るから」
「私から?」
「……うん」
言ってから恥ずかしくなった。
「やっぱ今のなし!」
「もう遅い」
「忘れろって言ってんだろーがよぉ!」
そして、二人で笑った。
◇
初めての選抜レッスン。
こはるは、自分の立ち位置へ向かった。
ゼロ番ではない。
それでも。
鏡の中には、選抜として立つ自分がいる。
歌なら莉歌。
センターなら真姫。
ダンスなら、もっと上手い子がいる。
自分は、不器用で。
自信がなくて。
緊張すると胃が痛くて。
何度やってもうまくできなくて。
それでも――
やめなかった。
「こはる、始めるよ!」
「はい!」
音楽が流れる。
一、二、三、四。
少し遅れる。
でも、戻る。
もう失敗したくらいでは止まらない。
◇
レッスン後。
誰もいなくなった鏡の前で、一人、ゼロ番へ立った。
あの自主練の日、立った場所。
あの頃は、似合わないと思った。
今も、まだ遠い。
それでも。
「……待ってろよ」
鏡の中の自分に笑う。
「いつか絶対――」
ぐぅぅ。
お腹が鳴った。
「…………」
こはるは吹き出した。
「その前に、ご飯に決まってんだろーがよぉ!」
扉を開ける。
「こはるー! ご飯行くよー!」
廊下の向こうで、15人が待っていた。
「行くー!」
走り出して――
一度だけ振り返る。
ゼロ番。
いつかでいい。
だって今日、一つだけ夢が叶った。
今はまだ、センターじゃない。
でも。
私は、ちゃんとアイドルになれた。
そして――
私の夢は、まだ終わっていない。




