プロローグ:『敗北者たちの終着駅』
脳が痺れるほどの快楽を、人は何と呼ぶだろうか。
スマホの画面をタップした一瞬の、眩い虹色の光。
パチンコ台の大当たりがけたたましい音とともに液晶を埋め尽くす絶頂。
グラスに注がれた黄金色の液体が喉を滑り落ちる感覚。
SNSの通知が止まらず、数字が跳ね上がっていく万能感。
ドーパミン。
脳を溶かすその極小の物質に人生を狂わされた者を、世間は笑って「依存症」と呼ぶ。
彼らは破滅する。
消費者金融の枠を使い切り、職を失い、家族に見捨てられ、それでもなお「あと一回」「あと一口だけ」と欲望の奴隷になり果てる。
だが、どれほど底辺に落ちようとも、欲望が尽きることはない。
……では、もしも。
その「脳汁が出る瞬間」を目前におあずけされ、命をかけた我慢比べを強制されたとしたら?
「ようこそ、敗北者たちの終着駅へ」
暗闇の中、巨大な監視モニター群の前に座る仮面の人物が、愉悦に満ちた声で呟く。
画面に映し出されているのは、無機質なコンクリートの部屋に集められた最初の五人の狂人たち。
「欲望に負ければ待っているのは即刻の死。耐え抜いた者だけに与えられるのは、あらゆる望みを叶える万能の権利。……実にシンプルで、美しく、そして醜い」
仮面の人物は、手元にある真っ赤なスイッチにゆっくりと指を置いた。
「さあ、見せてくれ。君たちのプライドと、狂気と、惨めな禁断症状を。命と欲望、最後まで手放さずにいられるのは……一体誰だ?」
ギィィ……バタン
重厚な鉄の扉が閉じられ、地獄のカウントダウンが静かに動き始めた。




