入隊
「今年の入隊は10名、そのうち2名の指導を任せる……お前なら問題ないと思うが、まあ、最前線に出たくなったら、いつでも言ってくれ」
「承知致しました。ご配慮、感謝致します」
総司令室を出入りできる人間は限られている。淡いブロンドの髪を1つに束ねて、姿勢よく部屋を後にした女性の胸には、4つの星が輝いていた。
「コイロ先輩、俺はとても嬉しいですよ。先輩が復帰されるなんて」
軽薄な態度で女性に近づいた青年の胸には、5つの星が輝いている。
「久しぶり。君もずいぶん出世したね。私は正直、自信ないんだけど」
「問題ないですよ。困っても困らなくても、いつでも呼んでください。何よりあなたを優先しますから」
「滅多なこと言わないの……何年振り?」
「……11年振りです」
「ユウキ! お前がペアかよ! いや~安心だな」
「そっくりそのまま返すよ、フィスト。顔見知りはおまえしかいないからね」
入隊式後、寄宿舎で荷物をほどきながら、2人の少年は会話した。共に15歳で、義務教育を修了したばかりである。最も現在は、かつての高等学校、現在の博士課程一期に進学する者など10000人に1人いるかいないかである。
「ナノマシンが悪みたいに思ってる人も多いけど、俺なんか仮死状態で生まれたのを助けて貰ってるからなあ~。医者を諦めた以上、第2の選択肢が入隊なんて、人には笑われるけどなっ」
フィストと呼ばれた少年は、いたずらっぽく笑った。彼は生まれつき心臓に重篤な病気を抱えており、機械医療のおかげで助かったのである。
「まあでも、機械に救ってもらった俺だから、おかしな機械たちの目を覚まさせてやるって気持ちは誰にも負けないぜ」
「フィストらしいよ。僕だって負けていられないな」
「学年トップのお前に言われても、燃えるだけだぜ、俺が」
「本当に気持ちのいいやつだ。おまえは」
2人は改めて互いのジャケットを見合った。左胸には六角形の空黒がある。階級に応じて星が埋まってゆくのである。
「1カ月もすりゃ、1つ星だ。俺たちの手で、戦争を終わらせてやろうぜ」
「ああ。頑張ろう」
14時に予定されている指導教官との顔合わせには時間があるため、2人は食堂へ向かうことにした。
「他の隊員もいるのかな?」
「いるだろ。全員に挨拶してやるか」
同部屋の同期が食堂で大声で自己紹介するとは、ユウキは思ってもみなかった。カレーライスが安くて美味であった。
「うお! めっちゃ美人! ハッピー!」
「隊務規定違反でないなら、殴ります」
指導教官の女性は、苦笑いを浮かべて否定した。
「元気な子たちね。私はコイロ・フルール。君たちの指導教官を務めます。よろしくお願いします」
「フィスト・コブシです!」
「ユウキ・アケガタです」
よろしくお願いします、と、2人の少年は叫んだ。
「ま、まあ。前線に出ない時は気楽にね。今日から1カ月、君たちには武器や装備の扱い方とか、隊務の心得なんかをマスターしてもらいます。最終的に、私と一緒に1つ星任務に出発して、資質十分なら合格、星が授与されます」
「はい! コイロ指導教官、よろしくお願いします!」
「う、うん。実は私も指導教官は初めてで、そんな仰々しくなくていいよ。コイロさんって呼んで」
「了解です! コイロさん!」
宿舎。
「いや~、ツイてるなあ。テンション上がっちまうよ」
「おまえ、今日の午前中に言ってたことは何だったんだよ」
ユウキの言葉に、フィストは凛として答えた。
「無感情に仕事だけするなんて、それこそ機械と変わらねえじゃねえか。俺は、自分が死んでたかもしれないと知ってから、感情は隠さないことに決めてんだ」
ユウキは一瞬呆気にとられたような顔をした。それから笑った。
「コイロさんに迷惑かけるなよ」
「当然だ。おまえこそな」
もう俺たちも載っているのかな、とフィストが言い出し、2人はデータベースを開いた。
「お、載ってんじゃん。俺のほうがちょいイケメン!」
「星ゼロで威張れないだろ。コイロさんはどうなんだろ」
「お、なんだおまえも気になんのか?」
「情報収集は基本だろ、フィストくん」
初めての指導教官ということは、昇格したばかりではないかとフィストが言い、ユウキも頷いた。
「28歳? 見えねえ~。でも妥当か~」
「いちいち失礼なやつだな」
「入隊が16年前……12歳? 嘘だろ?」
「待て、その続き……13歳で7つ星になってる」
何かの間違いじゃないか、と2人は目を疑ったが、次の瞬間、自動更新がかかった。一切の記述は消え、ただ1行、「4月1日、4つ星認定」とだけあった。




