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理事長室

 透は不在の札が掛かっている理事長室へ戻った。透はレイラを逃がせた事に、安堵の溜息をついてドアを閉めると、レイラがソファに座っていた。

「灯台下暗し、って言うでしょ?」

理事長室と会議室はほんの目と鼻の先だ。

「だからって……」

「高校、懐かしくて……。この先、学校を訪れる機会があるかも分からないし」

「いくらでもあると思うけれど。今、ウロウロするのは良い事ではないと思うよ。アントン達は一緒じゃないの?」

レイラはこっくり頷いた。レイラは気を使って、アントンとマルコヴィッチを二人にしたのだ。


「私は幼稚園の方へ戻るから、アントン達に車で迎えに来てもらった方がいい」

「……透は冷たいな」

透はレイラが軽口を叩いているのかと思って見ると、シュンとしている。透は溜息をついた。

「レイラが一般人なら、こんなに気を使わないよ」

「欧州の王室だってスキャンダルはあるよ。透は日本の皇室を基準に考えているから、そう言う風に言うんでしょ。私は婚約発表していない婚約者といるだけなのに」

透は二人分の紅茶を入れ、砂糖2本とミルクと一緒に手渡す。

「砂糖2本とミルク、って覚えてたんだ。でも今はもう大人になったから、砂糖はいらない」

透は何故か、レイラに関する事は、細かい事まで覚えていた。

「代わりに強いお酒を入れる?」

「……何? 続きをしたいの?」

透は慌てて首を横に振った。ここは学校だ。


「これから、日本とサファノバを行き来し、観光も盛んにしようと言うなら、イメージを大事にしなくては」

「それなら、あのMVを逆手にとって、パパラッチを相手に婚約発表をしてしまうと言うのはどうかな?」

「レイラは家臣達を説得していないし、私は母が反対とまでいかなくても賛成でもない。まずはそこを片付けないと。記者たちは面白おかしく書き立てるから」


 透はレイラが突っ走ってしまう事に危うさを感じた。燃え尽き症候群ではないが、結婚がゴールでは「めでたし、めでたし」で終わってしまう。その後を思い描いているのだろかと心配になる。ずっと、人生が穏やかであれば良いが、そう言う時ばかりではないだろう。透はこの先ずっと、レイラと人生を共にしたいと思えば思うほど、レイラの想いが一過性では無いと良いのだが、と心配になる。一過性にしては長い一過性ではあるが……。心配していても、始まらないと、立ち上がった。

「さぁ、これを飲み終わったら、お互いやらなきゃいけない事をしなくてはね」

透はレイラに声をかけた。帰宅したら、まずは母に気持ちよく祝福してもらえるように根気よく説得し続けなければならない。

「今日、透の家に挨拶に行くから」

「え!? 昨日の今日で?」

「私は明日には帰国しなければならないから。匠の養父母と、匠に会いに。一応、透のお母様にも」

レイラは3人の好みを聞いて、メモした。夕方までに調達して来なければ、と思ったのだ。

「この後、校内を見てまわったりしないように」

「はい、透先生」

「レイラに言われると恥ずかしいな……。じゃあ、後で」

透は部屋を出ながら、アントンに連絡し、レイラを迎えに来てくれるよう頼んだ。

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