表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/114

軽音コンクール

 11月文化の日。

 今年の軽音のコンクールの決勝会場は、東京の京星高校の講堂で収容人数は千名を超える。必ず制服着用で受付し、顧問が付き添わなければ審査対象外になる。演奏時は衣装を着ても良いとなっているため、One smile for allのメンバーは前回と同じ衣装で挑む。髪を染める事は禁止のため、匠は黒染めのまま出場する事にした。軽音のコンクールなのに、随分厳しいと、森も匠も感じた。


 菊は見たがっていたはずなのに、急にエレキの音は苦手だから、と珍しく来ない事になった。レイラが来るときいたせいかもしれなかった。洋子と和人は二人で来ている。

透は今回、客席から鑑賞すると言っていた為、One smile for allのメンバーと森は、受付の後、開場前の時間に目を皿の様にして、入り口付近で理事長を探した。くみが言っていた通り、理事長が彼女を伴ってくるのかどうか、興味津々だったからだ。


 レイラは匠との約束通り来日し、透と一緒に見に来た。少し離れた後ろにはアントンとマルコヴィッチが影の如く控えているが、匠以外はその存在に気が付かない。メンバーと森は透を見つけたが、声をかけそびれてしまった。透に寄り添って歩く、レイラの光を放つような美しさに目が釘付けになってしまったのだ。シルバーブロンドが太陽の光を受けて輝いている。

「く、くみ、あの人が理事長の彼女?」

匠は誇らしそうに頷く。

「あんな綺麗な人見た事無い……。女優さんみたい……」

ガッカリしているかと思いきや、波瑠がうっとりとして言う。

「外国の人だよね?」

楓が聞いてきた。匠は頷く。レイラが透に何か話しかけながら、笑っている。それがまるで映画のワンシーンの様だった。何処かから、「はい、カット!」と声が掛かっても、不思議では無かった。周りにいる人たちも、二人をチラチラ見ている。二人の周りだけ、全ての色が鮮やかに見えた。


「森先生、残念でしたね」

結衣がふざけて言う。

「な、何を言っているのだ。築地先生は憧れの先輩なだけで……」

そう言っている森も、二人から目を離せないでいる。

「どこで知り合ったのかな?」

森が羨ましそうに聞いた。

「高校です」

匠はうっかり答えてしまい、しまったと思った。森はピンと来た様だ。

「え? もしかして、副会長? 副会長は女性だった?」

「えぇ、まあ、そう言う事です……」

「と言う事は、あの築地先生をお姫様抱っこしてゴールしたのは彼女?」

「えぇ、まあ、そう言う事です……」

匠は心の中で、透に謝った。

「当時から、会長と副会長は仲が良すぎると言う噂はあったけれど、まさか、本当だったとはね」

「いや、当時、叔父は副会長が女性だと知らなかった様ですが……」

妄想の世界に入り込んでしまったのか、森は匠の言葉を半分くらいしか聞いていないようだ。

「クールな会長と、美少年の副会長。会長のいる所には副会長ありってね」

「少女漫画か宝塚みたいですね」

森の言葉を聞いた波瑠がうっとりして言う。結衣がこっそり、匠を見たが、落ち込んでいる様子はない。むしろ、二人を見て嬉しそうだ。結衣は首を傾げた。

「副会長が会長を追いかけていた、と言う噂があったけれど、副会長は反面、たくさんの女子と噂があったし、結局二人の仲は友情だろうって言われていたらしい」

 レイラは当時から透を追いかけていたのか、と匠は可笑しく思った。透はクールと言うより、戸惑っているだけのようだが……。

 透が匠たちを見つけて、森に会釈し、匠たちに手を振る。レイラも匠に手を振る。女王だけあって、手の振り方も堂にいっている。匠は二人のもとへ駆け寄った。


「今日は来てくれて有難う」

「本当に女装しているのね。綺麗。流石、透を迷わせただけある」

レイラが匠の耳に囁く。匠は赤くなりながらボソボソと礼を言った。透は実際にレイラと会えるようになってから、匠を見ても赤くならなくなった。会えずに焦がれていた間は、似ている匠をレイラに重ね合わせていたのかもしれない。透は憮然と言う。

「迷ってないから。レイラ、匠のその格好をあまり褒めると、癖になるから……。将来困るのは君だよ」

「透ちゃんは、迷ったんじゃなくて、俺の中にあるレイラを見ていたんだよ」

匠がこっそり言う。レイラはその言葉に嬉しくなり、大輪の花のような笑顔を見せた。

「匠があんまり可愛いから、抱き上げてしまいたくなる」

「レイラ、やめ、」

レイラは透の制止を聞かず、透をチラッと見て、笑いながら匠を子供の様に抱き上げてから、ハグした。匠は硬直して、耳まで真っ赤になる。少し離れた所にいる波瑠と森が悶絶している。


「可愛い!」

レイラは匠に頬擦りしかねない勢いだ。近くにいる人たちは唖然としている。匠はレイラに抱き上げられているため、周りからの視線が痛い程よくわかってしまい、逃げ出そうとジタバタした。

「レイラ、やめるんだ……」

「なあに、透もやって欲しいの?」

レイラが流し目で透を見る。アントンが後ろで密かに唸っている。

「匠が困っているから……」

「こんなに可愛いなら、いっそ向こうでアンドロジナスとしてお披露目しようかな」

 レイラが匠を抱きしめたまま、透に耳打ちする。透は凍るような目でレイラを一瞥し、匠を奪い取って床に下ろした。匠は力が抜けて、床に座り込んでしまった。透に睨まれ、レイラは狼狽えた。透が冷たく言い放つ。

「レイラ、やり過ぎだ」

透が匠を抱き上げ、森の所まで連れて行く。

「森先生、すみません。悪ふざけが酷くて……」

森の後ろで、波瑠がショック死しそうに呟いている。

「くみ、理事長にお姫様抱っこされてる〜!」

紬が波瑠に、落ち着いて、落ち着いて、と背中を撫でる。透は匠を近くの椅子に下ろすと、確認した。

「くみ、しっかり。大丈夫だな? 歌えるな?」

匠はガクガクと頷いた。

「森先生、これ以上迷惑をかけないうちに席の方へ移動しますから、よろしくお願いします。One smile for all、頑張ってくださいね。応援していますから」


 透はレイラがメンバーに近寄って来ないうちに、戻って行った。そして、半ば引きずる様にレイラを席へ連れて行った。森が呟いた。

「なかなか、強烈な……。流石、副会長……。その副会長を引きずっていくなんて、流石、会長」

結衣も呆れた様子で呟いた。

「神々しいくらい綺麗だけど、かなり何と言うか個性的な人ですね……。理事長はああいう人が好みなんですね?」

メンバーと森は最初の感動は何処へやら、毒気を抜かれた様に佇んでいた。結衣が、匠の隣に座り、優しく背中を撫でる。

「大丈夫? 驚いちゃったよね」

匠はショックのあまり、また結衣に子供扱いされてしまった事にすら気が付かなかった。


 席に着くと、透は黙り込んだ。アントンでも、さすがにやり過ぎだと思ったらしく、小声のサファノバ語で、渾々とレイラに小言を言っている。レイラも透が何も言わない事で、却って怒りの深さに気づいた様だった。

「透、ごめん……」

透は目も合わせずに、無言で頷いただけだった。

 

 自分の母とはいえ、つい最近再会したばかりで、まだあまり母だという実感の薄い、美しい母から抱き上げられ、強烈に抱きしめられ、匠はすっかり動転してしまった。心臓がバクバクして、口から出てきそうだった。One smile for allの出番は後ろから数えたほうが早かった為、出番までには、匠はなんとか心拍数を整える事が出来た。内心、レイラに来て欲しいとお願いするのではなかったと、少し後悔した。それでも、美しすぎるレイラと躊躇いなく抱きしめあう事のできる透を心の片隅では、ほんの少し羨ましく思った。


 大阪からは元One smile for oneの直美のバンドがエントリーされている。昨日のリハーサルで聞いたが、直美は結衣が見込んだだけあって、やはり上手かった。直美は会場の観客を乗せ、盛り上げるタイプだ。直美の歌う曲はアップテンポで、乗りやすい。

結衣は眉間にシワを寄せて、直美のバンド演奏を聴いた。昨日の友は、今日の敵。観客との一体感を作り出せるかどうかも、ポイントの一つとなる。楓が結衣の眉間の皺を、親指と人差し指で広げた。

「今から、そんな所に皺を刻んで、どーするの? 結衣がリラックスしないと、くみが緊張するから」

結衣は何とか立ち直ったくみを見やって、頷く。舞台に立ち、歌い終わって「有難うございました」までの5分間が勝負だ。自分たちの世界観を、そのたった5分の中で表現して観客と共有しなければならない。タイムオーバーも減点対象になる。

「私たちは私たちのやり方で行くしかない。くみの声を最大限に引き出そう」

五人は腹式呼吸をして、輪になって真ん中で手を重ね合わせた。


「エントリーナンバー25番、私立静実学園高等学校、軽音楽部よりバンド名One smile for all、曲はオリジナルで、嘘の真実、どうぞ!」

五人は眩しいライトの中へ走り出た。

 「静実学園から来ましたOne smile for allです」

結衣が挨拶して、匠にマイクを渡す。

 波瑠の波ひとつない湖面のような静かなピアノから細波が現れ、匠の歌声が耳元で囁きかける。微かな声で囁いている様に聞こえるが、歌詞はきちんと明瞭に聞こえてきた。匠の歌い方は合唱で鍛えたおかげで、小さくても大きくなっても、はっきりと歌詞が聞こえる。紬のドラムの、ゆっくり刻んでいるテンポが徐々に速くなるのに合わせて、結衣のギターも唸り出す。楓のベースが根底を支える。匠の声は徐々に聴衆の心の中に入り込んでくる。人々の気持ちの中で、開けた事の無かった扉を次々に開いて行く。


ねぇ、どうして嘘をつくの

貴方は傷つけたく無いと思って嘘をつくのかもしれないけれど

その嘘が私を傷つけるとどうしてわからないの


あなたの嘘は私を守るため 私の嘘はあなたと一緒にいるため

あなたは笑うけれど 私にだってあなたを守る事が出来る

嘘の真実を知った時 世界は加速度をつけて周り始める

廻り出したら止められない世界へと

否が応でも私を連れ出して行く

もう二度と戻れない世界へと


貴方を失う事と引き換えられるなら

この世界なんて消えて無くなってしまってもいい

貴方の笑顔を引き出す事ができるなら

この世界を滅ぼす悪魔と取引する事になってもいい

嘘の中にある真実だけが全て


ねぇ、どうして離れて行くの

貴方は私を遠ざけて行く 傷つけたくないならそばにいて欲しいのに

そのこと自体が貴方を傷つけているとどうして気づかないの


貴方の笑顔が私を守る 私の強さは貴方が一緒にいるから

貴方は笑うけれど 私は貴方なしで強くいられない きっと

嘘の真実を知った時 世界は加速度をつけて周り始める

廻り出したら止められない世界へと

否が応でも私を連れ出して行く

もう二度と戻れない世界へと


貴方を失うことと引き換えられるなら

今すぐ私が消えてなくなってしまったっていい

貴方の笑顔を引き出す事ができるなら

どこまででも探しに行こう 貴方がいた世界まで駆け戻ろう

嘘の中にある真実だけでいい 嘘だけでもいい 

今ここにいてくれるのなら


 立ち上がってのれる曲では無い。何より匠の声が、心の中にある大事な物を思い出させてしまう曲だ。少女と言っていいほどの華奢な体から、溢れ出てくる艶やかな声。

歌い終わると、客席には人がいないかのように、しんとなった。メンバーが不安になった頃に、爆発的な拍手が沸き起こった。

 舞台袖に戻ったメンバーに直美が近づいてきた。

「結衣、みんな、やるじゃん。グランプリを取るなら、きっとうちかOne smile for allだね」


 レイラは鳴り止まぬ拍手の中、自分でも気づかずに涙を零していた。曲を聴いて涙を零してしまったのはこれで二度目だった。自分の手放してしまったものの大きさに改めて気がついた。そして、また巡り合わせてくれた何かに、感謝した。匠にこんな才能があったのかと、レイラはその才能を大事に育ててくれた透の家族と透に感謝した。


 審査は揉めに揉めたらしく長引いた。

 結果発表、奨励賞、特別賞、準グランプリと続き、グランプリは直美のグループだった。会場がざわつき始めた。多くの観客が、One smile for allをグランプリか準グランプリだと思っていたのだが、一つも賞を取っていない。森は唖然としている。観客の熱狂的な拍手から、メンバーも何の賞も取れないとは思ってもみなかったから、やはり呆然としている。


「なお、静実学園One smile for allはボーカルが他校生だという話が先ほど出ました為、失格となります。ちなみにグランプリだったのですが……」

メンバーは驚いてくみと森を振り返った。

森が慌てて舞台の方へ駆けていき、審査員に話しかける。さっきよりもざわめきが大きくなる。

「くみ、他校生だったの?」

「嘘でしょ? だって……」

匠は慌てて首を横に振る。

「静実学園の生徒だよ。嘘じゃない。本当だよ」

「でも、どのクラスにもいなかった……」

結衣が悲しそうに匠を見る。匠はメンバーに信じてもらえない事にショックを受けた。

「森先生と理事長が嘘をついたって事?」

「他校から来ていたから、1週間に一回しか練習できなかったの?」

波瑠が信じられないと呟く。匠の言葉はメンバーの耳に届かない。匠はメンバーに嘘をついていると思われたのが悲しかった。


 森が審査員に説明している。審査員たちは話し合っている。

「え〜、お静かに。審査結果は明日以降連絡します」

大勢の目が匠に注がれる。紬は結衣を励ますように、結衣の肩に手を置いた。

「一度はグランプリに選ばれたってだけでもいいじゃん」

そう慰めた紬も、匠には声をかけなかった。メンバーの誰も匠を見ようとしなかった。匠が話しかけようとしても、背中を向けてしまった。

 匠がやっと、手に入ったと思った居場所が、一瞬にして消えてしまった。ボーカルとして歌う楽しさを感じ始めたのに、それも失ってしまった。待っているように言われた部屋で、メンバーは部屋の片隅に集まり、匠に背を向け続けている。その背中が、言外に匠に話しかけるなと言っていた。仕方なく、匠は反対側の隅に椅子を置いて座った。早くこの場所を出て、家に帰りたかった。結果など、どうでも良かった。ボーカルなど引き受けなければ、こんな事にならなかったのに、と吐き気がするほど、匠は自分を責めた。


 透はアントンにレイラを連れて、帰るよう促した。森に呼ばれて、透も審査員の集まっている部屋へ行く為だ。透は審査員を前で覚悟を決めた。

「私は静実学園の理事長ですが、ボーカルが我が校の生徒であることは間違いありません。ただし、高校生女子ではなく男子中学生です。規定には17歳以下としか書いてありません。ステージ衣装についても何も書いてありません。これが違反なのでしょうか。我が校はそもそも、合格者の人数も出席番号も男女を区別することもしません。ズボンとスカートのどちらを履くのも自由という校風です。ですので、私がボーカルの佐方に、メンバーに合わせてスカートを履いて出るよう勧めてみたのです。年齢も規定に反していませんし、ステージ衣装も規定に違反してはいません。他校生どころか、静実学園の生徒です。よくお考えください」

 審査会場は大騒ぎになった。今まで前例があったかとか、確かに17歳以下としか規定されていないとか、中には、静実学園理事長と聞いて、声を上げた者もいた。教育関係者の間では、透は有名人なのだ。あとは審査員だけで話し合うという事で、森と透は部屋から出た。


 メンバーたちのいる場所まで戻る廊下で、二人は互いに謝りあった。

「築地先生、とんでもない事になってしまって……。私が高校でやらないかと匠君に声をかけたばかりに……。すみません」

「いえいえ、私がふざけて、女装して出ればと勧めてしまったのがいけませんでした。結果、みんなを傷つけてしまう事になっていまいました」

透はメンバーも匠も酷く傷つけてしまった事を深く後悔した。


 透と森が部屋に入ると、匠はメンバーから一人離れて項垂れて、座っていた。同じ空間にいるのに、目も合わせてもらえないでいたようだ。匠の項垂れように、透は駆け寄って、真っ先に謝りたい衝動に駆られたが、まずメンバーに許しを乞うた。

「せっかく、ここまで一生懸命やって来たのにすみませんでした。くみが悪いのでは無いので、くみを恨まないでやって下さい」

「結局、くみは他校生なんですか?」

「くみは静実学園の男子中学生です。私がメンバーに合わせて女子として出る様に勧めたのです」

「えぇっ! 中学生?! しかも男の子だったんだ……」

「確かに言われてみれば、高校生にしては華奢だよね……」

「どちらにせよ美形だよね……」

「まだ声変わりしていないって事は、もしや1年生……」

メンバーは驚きのあまり、怒りを通り越して呆れ返った。匠も謝るチャンスを逃さず、飛んで来て謝った。

「黙っていて、ごめんなさい!」

森が捕捉する。

「匠君というのが本当の名前で、合唱推薦で中等部に入学した生徒二名のうちの一人だ。匠君の歌っている声を聞いて、スカウトしてしまった。築地先生の甥っ子だとわかっていたので、築地先生に無理を承知でかけあった。匠君は今まで、今年ブロック大会まで行った中学の合唱部と掛け持ちで頑張ってきたのだ。匠君は悪くない。私が悪かった。申し訳ない!」

森も透に続いて謝る。楓がため息を吐きつつ、

「森先生も理事長も、メンバーに良かれと思ってやった事だったんですよね。それなら仕方ないですよ」

「それにこの声なら、スカウトしたくなる気持ち分かりますよ。くみは、じゃなくて匠君の歌声は心に刺さるから。合唱推薦だったんだ……。どうりで歌詞がクリアだと思った……」

「くみじゃなきゃ、ここまで来れなかったと思うし」

透は、審査員に話した事を説明した。

「審査員にはきちんと説明しました。規定には出場資格は同じ学校の17歳以下の生徒としか載っていなかった事も指摘してはきましたが……」

透が匠の方を向いた。

「匠には謝る事ばかりだな。ごめん……」

「いいよ。引き受けた俺も悪い」

匠はメンバーの方へ改めて向き直る。

「結衣、楓、紬、波瑠、一緒に活動できて、本当に楽しかった。有難う、そしてこんな事になって、ごめんなさい」

「何だか、今日で最後みたいな言い方だよね」

楓の指摘に匠は、声を詰まらせた。

「こんな事があったら、もう一緒に活動できない、でしょ?」

「そんな事ないよ。コンテストは出られないかも知れないけれど、また、ライブしよう。匠さえ良ければ。匠の声好きだから」

「結衣、有難う。そう言ってもらえて嬉しい。俺も結衣の曲とギター好きだから」

「なんだ〜、結衣ずるいよ! 私だって、匠の歌っている姿、好きだよ」

波瑠が言う。

「おいおい、姿? なの、波瑠? 匠のリズム感、いいよね」

「有難う、波瑠、紬」

楓が匠の頭を撫でた。

「やっぱり中学生だったから、撫でたくなってしまうのかな」

「楓〜」

匠はこのまま終わってしまうのは嫌だった為、メンバーに改めて受け入れてもらえた事に、ホッとした。


「それにしても、どこから漏れたんだろう?」

 森が不思議そうに問いかける。メンバーは匠について詮索しないと約束していたし、長沼も途中から味方になった。透が思い出したように、

「垣田君からかもしれませんね。匠をバイクで送り迎えしていた所に何回か遭遇していまいましたから。本人悪気なく、ネット上で呟いたり、ラインしたりした事が、思わぬところまで広がってしまったのかも……」

それを聞いた楓が、スマホに指を走らせる。しばらくして、

「やっぱり、理事長の予想通り、垣田から広まったみたい」

紬が楓のスマホを覗き込む。

「誰にラインしてんの? あ、王じゃん」

「悪い? 次回のテストこそ、負けないと宣言してる」

「楓、闘志も恋の炎も両方燃やしちゃうわけ?」

結衣がニヤニヤしながら楓をつつく。

「結衣、うるさいよ。題材にして次の歌詞でも作れば」

「それはナイスアイデアだね」

波瑠が急にハッとする。

「この間、理事長が誘拐されてしまって行かれなかったから、今日こそ打ち上げしませんか?」

森がチラッと透を見た。

「築地先生はこの後、大事な、予定があるのでは?」

「ありませんよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ